冷徹と噂の堅物騎士団長、恩返しのつもりが彼氏面で騎士団の運用規定になりました(副団長の胃が先に限界)

星乃和花

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第15話 告白未遂が多すぎて、逆に日常に溶ける(爆弾:私)

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 団長の耳が赤くなる。

 ――そんな珍事件が起きた後も、騎士団は通常運転だった。

 通常運転というのは、つまりこういうことだ。

「姉さん! おはようございます!」
「姉さん! 今日の休憩、監督……じゃなくて、同行ありますか!?」
「同行って何!?」
「昨日、団長が“監督”はやめるって努力してました!」
「努力って言葉、団長に似合わないのに定着してる!」

 副団長が死んだ目で言う。
「姉さん、もう戻れません。この職場、言葉が感染します」
「感染って言うな!」

 団長はいつも通り無表情で入ってきて、いつも通り私の斜め後ろ――ではなく、少し横に立つ。
 加減がある。
 その加減が、慣れてしまっている自分が怖い。

 団長が淡々と言った。
「おはよう」
「おはようございます、団長」

 そして、淡々と言う。

「……リナ。休憩は守れ」

 また呼んだ。

 団員たちが静かに崩れる。
「尊死……」
「尊死って言うな!!」

 副団長のツッコミが、もうルーティンだ。

 私は心臓が忙しくなるのを感じながら、書類を整えた。
 整える癖が、もう落ち着く方法になっている。
 以前は“自分を誤魔化す”ためだったのに、今は“自分を戻す”ためになっている。

 ……これ、変化だ。

 そう思うのが怖い。
 でも、嬉しい。

 そして、今日も起きる。

 告白未遂。

 告白未遂は、もう“事件”じゃない。
 日常に溶けてる。
 溶けてるのがいちばん怖い。

 例えば、昼。

 団長が私の机の端に、紙を置いた。

 嫌だ。紙が嫌だ。

『告白:簡潔に(効果:最強)』
※続きは後で

 続きは後で、って何。
 後でって、いつ。
 何の続き。
 ――わかってるけど、見ないふりをしたい。

 副団長が紙を見て呻く。
「姉さん、今日も来ます」
「来ないでほしい……」
「でも団長、来ます」
「来るって言わないで!」

 団長が私を見る。

「……後で、話す」
「……はい」

 返事をしてしまう。

 逃げない。
 逃げないって言ったのは私だ。
 でも、逃げたい気持ちもある。
 胸が忙しすぎる。

 そして
 後で、が来る前に――邪魔が入る。

 団員が駆け込んできた。
「団長! 訓練場の掲示板に“団長式彼氏面講座(復刻版)”って貼られてます!」
「誰だ」
 団長の声が低い。
「俺じゃないです! でも俺、関わってません!」
「関わってないなら落ち着け!」

 副団長が叫ぶ。
「ほら!! 団長!! 講座は廃止って言ったでしょう!!」
「廃止した」
「復刻してるんですよ!!」
「……処理する」

 処理するの万能すぎる。

 団長が去り、副団長が胃を押さえ、団員がわちゃわちゃし――
 “後で”は、また流れた。

 そして、日が傾いた頃
 受付。

 第三王子が来た。

「やっほー! 今日も告白未遂する?」

 殿下、最悪の挨拶だ。

「殿下!!」
 副団長が叫ぶ。
「未遂って言うなって言ってるでしょう!!」
「未遂じゃないの? まだ言ってないでしょ?」
「言わせないでください!!」

 王子は私ににやにや言う。
「事務さん、団長の差し入れ、胸ポケットに入ってた?」
「……見てません」
「見た方がいいよ。あの人、宝物扱いが露骨だから」
「殿下、煽らないでください」
「煽ってないよ。観察」

 観察もやめてください。

 王子は軽い声で言った。
「団長ね、告白の言葉、用意してるよ」
「……用意」
「うん。真面目だから、原稿あると思う」
「原稿……」

 原稿を用意する告白って何。
 でも、団長ならやりそうで怖い。

 王子はぱっと真面目な顔になって、私に言った。
「ねえ、事務さん」
「はい」
「団長のこと、怖い?」
「……怖く、ないです」
「うん。じゃあ、次の段階」
「次の段階……?」
「受け取るだけじゃなくて、選ぶ」

 選ぶ。

 その言葉が胸に落ちた。

 私は今、流されてる?
 守られて、整えられて、受け取って――
 それだけ?

 私は、自分の意思で“ここにいる”って言える?

 王子はにこっとして去っていった。
「じゃ、後始末はまた今度!」

 後始末を予定に入れるな。

 結局、“後で”はまた来ないまま夕方になった。

 副団長が帰り支度をしながら私に言う。
「姉さん、この後、団長に捕まるよ」
「捕まるって言い方!」
「捕まる。言い方は悪いけど、事実」
「……」
「逃げなくていい。でも、言いたいことがあるなら言って」

 幼馴染の声は、いつも現実だ。

 私は机の端を整えた。
 胸がぎゅっとする。
 言いたいこと――ある。

 団長は私を守ってくれる。
 ありがたい。
 怖い。
 嬉しい。

 でも、“恩返し”って言葉に隠れて、私はずっと曖昧なままだった。

 団長は私を何だと思ってるのか。
 私は団長を何だと思ってるのか。

 ――聞かないと、進まない。

 帰り支度を終えた頃、団長が事務室に戻ってきた。

 いつも通り無表情。
 でも今日は、少しだけ……“言う気”の空気がある。

「……今なら、話せる」
 団長が言った。
「邪魔はない」
 副団長が小声で言う。
「殿下もいない」
「……副団長、帰ってください」
「帰るよ。でも壁になるのはやめろよ」
「やめません」

 やめないんだ。

 副団長がため息をつきながら出ていく。
 団員たちも空気を読んだのか、今日は静かに去っていった。

 事務室に、私と団長だけが残る。

 静か。
 怖い。
 でも――逃げたくない。

 団長が、私を見る。

「……リナ」
「はい」

 名前で呼ばれるだけで、胸が忙しい。

 団長は少しだけ言葉を探して――

「君に、恋人に――」

 そこで、また止まった。

 ……未遂。

 でも今回は、邪魔が入らないのに止まっている。
 団長が、自分で止まっている。

 私は息を吸って、口を開いた。

 そして――爆弾を落とした。

「団長は、私の何ですか?」

 言った瞬間、世界が止まった。

 団長が固まる。
 固まり方が、あの耳どころじゃない。
 完全にフリーズ。

「……」

 沈黙。

 私は逃げそうになる自分を、机の角に指を置いて止めた。
 整える。
 自分を戻す。

 団長はようやく息を吐いた。
「……俺は」
 声が低く、少しだけかすれている。

「俺は、君を――」

 そこで、また止まる。

 止まるな!!

 私は思わず言ってしまった。
「止まらないでください」
「……」
「私は、逃げません」
「……」
「でも、曖昧なのは……怖いです」

 怖い。
 そう言えたことが、自分でも驚きだった。

 団長が、ゆっくり頷いた。

「……承知した」
「承知って……」
「正式に言う」

 正式に。
 来た。

 団長はまっすぐ私を見て、低い声で言った。

「俺は、君の――恋人になりたい」

 心臓が、跳ねた。

 甘い言葉じゃないのに、熱い。

 団長は続ける。
「恩返しは言い訳だ」
「……」
「俺が君を守りたいのは、俺の意思だ」
「……」
「君が嫌なら、撤退する」
「撤退……」
「君が望むなら、隣にいる」

 紙の通りだ。
 逃げ道を塞がない。
 意思を確認する。

 団長が、ちゃんと加減している。

 私は胸がいっぱいになって、でも泣きたくなくて、戸惑って笑った。

「……団長、ずるいです」
「ずるくない」
「ずるいです」
「……どこがだ」
「……ちゃんと、優しいところ」

 団長の耳が、また赤くなった。

 私は思わず、息を吐いて言った。

「……恋人、になってください」

 言ってしまった。

 言った瞬間、団長が一瞬だけ目を見開く。
 そして、ゆっくり息を吐いた。

「……承知した」

 承知って言うな。
 でも――団長らしい。

 私は笑ってしまった。
「……契約みたい」
「契約ではない」
「でも、承知って……」
「……約束だ」

 約束。

 胸が、きゅっと温かい。

 その瞬間、扉の向こうから、なぜか小さな物音。

 ――副団長。

 帰るって言ったのに、絶対聞いてた。

「……副団長、いますよね」
 私が言うと、廊下から副団長の声。

「いない」
「いる!!」
「……ごめん。いる。姉さん、よかった」

 団長が低い声で言った。
「副団長」
「はい」
「二度と聞くな」
「無理です!! 姉さんの幼馴染なんで!!」
「無理じゃない」
「無理です!!」

 そして、さらに奥から――団員の息を止めた気配。

「……尊死……」
「尊死って言うな!!」

 今日もツッコミは世界を救う。

 でも。

 今日だけは。

 未遂じゃない。
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