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終章:《今日も元気に、事故りません(予定)》
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春みたいな朝だった。
王都の空は高くて、風が軽い。昨夜の星屑の余韻が、まだ路地の石畳の隙間に残っている気がする。
にこにこ企画堂の店先には、いつも通りの看板。
《今日も元気に、事故りません(予定)》
……予定、って書くな。
ミアはその看板を見上げて、くすっと笑った。
「直します?」
隣でレオンが言う。
「直せ」
「でも、王都って……予定が好きじゃないですよね」
「王都は予定が好きだ。守らないだけで」
レオンが真面目に言うから、ミアはまた笑ってしまった。
ふと、手のひらがあたたかい。
レオンが、もう当然みたいにミアの手をつないでいる。
事故じゃない。
ちゃんと、最初から。
ミアはその手を握り返して、店の扉を開けた。
*ーーー*
店内は、片付いている。
奇跡みたいに片付いている。昨夜、レオンが「片付けないと報告書が書けない」と言いながら、黙々と整えたからだ。
机の上には、新しい企画書が一冊。
表紙に、丸文字。
《次の祭り:はじめの一歩》
ミアはそれを抱え、胸の前で深呼吸した。
「……提出します」
「提出する前に確認する」
「はい、監査官さん」
“監査官さん”と呼ぶと、レオンの眉がほんの少しだけ動く。
「……レオンでいい」
ミアが目を丸くする。
「え」
「外では監査官でいい。……ここでは、隣だ」
「隣……」
言い方が不器用すぎて、ミアは笑いそうになった。
でも笑ったら、照れ隠しが終わってしまう気がして、口をきゅっと結ぶ。
レオンは咳払いをして、企画書を開いた。
「読め」
ミアの新企画は、驚くほど“おとなしい”。
・小さな屋台の飾りつけ
・子ども向けのスタンプラリー(手首限定)
・星灯ランタンは商店街のみ、上限あり
・誘導札は色分け
・撤収計画、予備人員、連絡網
安全。合法。優しい。
レオンはページをめくりながら、いつもの顔で言った。
「……物足りない」
ミアがびくっとする。
「え、やっぱり……派手じゃない?」
「違う」
レオンは淡々と続けた。
「物足りないのは、事故だ」
「事故……?」
「事故がないと、お前の目がきらきらしない」
ミアの頬が一気に熱くなる。
「な、なに言って……」
「ツッコミ役としての観測だ」
「観測……」
言い訳の仕方が、ここ最近ずっと下手だ。
ミアは、企画書の端を指でつまんだ。
「じゃあ、事故が起きないように……きらきらを増やします」
「増やすな」
「増やしません。……でも、工夫はします」
「よし」
レオンは朱印を取り出した。いつもなら、ここで“条件の追記”が入る。
だが今日は、先にレオンが言った。
「一つだけ追加」
ミアが身構える。
「はい……」
レオンは、真面目な顔で、企画書の余白に書き込んだ。
《監査官(レオン)同行》
ミアが瞬きをする。
「常駐じゃなくて……同行?」
「ああ」
「後始末じゃなくて……?」
「隣」
言い切って、レオンは耳の先が赤くなった。
ミアは、笑ってしまった。
「……それ、いちばん安全です」
「安心は保証しない」
「でも、楽しいは保証されます」
その言い方が、レオンの胸に刺さったのか、レオンは少しだけ目を細めた。
そして、朱印を押す。
どん。
『許可』
紙の上に、はっきりと“次の祭りの一歩”が刻まれた。
*ーーー*
「よし、提出に行くぞ」
レオンが立ち上がる。
ミアも立ち上がる。
そして自然に――手をつなぐ。
最初から。
歩き出す前から。
店先へ出ると、朝の光があたたかい。
その光の中で、オーナーが扉の柱にもたれて待っていた。
にやにやしている。今日もだ。
「おーいおーい。手、つないでるなぁ?」
「うるさい」
「うるさいです」
声が揃ってしまって、オーナーがさらににやにやする。
「いいねえ。最高コンビが、正式に最高になった」
「正式とか言うな」
「正式です。朱印押しました」
ミアが言うと、レオンが咳払いした。
オーナーは大げさに両手を広げる。
「よーし! 次はもっと大きくするぞ! 王都全域だ!」
「するな!!」
「しません!!」
声が、また揃った。
オーナーが笑う。
「ほらな。息ぴったりだ。事故る気配がする!」
レオンが低く言う。
「事故らせない」
ミアが笑う。
「でも、もし事故っても――」
ミアは、つないだ手を少しだけ強く握った。
「一緒に走ります」
レオンは一瞬だけ黙ってから、短く答えた。
「……ああ」
その返事だけで、次の祭りがもう始まっている気がした。
王都の風が、提灯の紐を揺らす。
にこにこ企画堂の看板が、朝日にきらりと光った。
《今日も元気に、事故りません(予定)》
――予定、は。
二人なら、きっと“正解”に変えられる。
手をつないだ最初の一歩が、もうそれを証明していた。
王都の空は高くて、風が軽い。昨夜の星屑の余韻が、まだ路地の石畳の隙間に残っている気がする。
にこにこ企画堂の店先には、いつも通りの看板。
《今日も元気に、事故りません(予定)》
……予定、って書くな。
ミアはその看板を見上げて、くすっと笑った。
「直します?」
隣でレオンが言う。
「直せ」
「でも、王都って……予定が好きじゃないですよね」
「王都は予定が好きだ。守らないだけで」
レオンが真面目に言うから、ミアはまた笑ってしまった。
ふと、手のひらがあたたかい。
レオンが、もう当然みたいにミアの手をつないでいる。
事故じゃない。
ちゃんと、最初から。
ミアはその手を握り返して、店の扉を開けた。
*ーーー*
店内は、片付いている。
奇跡みたいに片付いている。昨夜、レオンが「片付けないと報告書が書けない」と言いながら、黙々と整えたからだ。
机の上には、新しい企画書が一冊。
表紙に、丸文字。
《次の祭り:はじめの一歩》
ミアはそれを抱え、胸の前で深呼吸した。
「……提出します」
「提出する前に確認する」
「はい、監査官さん」
“監査官さん”と呼ぶと、レオンの眉がほんの少しだけ動く。
「……レオンでいい」
ミアが目を丸くする。
「え」
「外では監査官でいい。……ここでは、隣だ」
「隣……」
言い方が不器用すぎて、ミアは笑いそうになった。
でも笑ったら、照れ隠しが終わってしまう気がして、口をきゅっと結ぶ。
レオンは咳払いをして、企画書を開いた。
「読め」
ミアの新企画は、驚くほど“おとなしい”。
・小さな屋台の飾りつけ
・子ども向けのスタンプラリー(手首限定)
・星灯ランタンは商店街のみ、上限あり
・誘導札は色分け
・撤収計画、予備人員、連絡網
安全。合法。優しい。
レオンはページをめくりながら、いつもの顔で言った。
「……物足りない」
ミアがびくっとする。
「え、やっぱり……派手じゃない?」
「違う」
レオンは淡々と続けた。
「物足りないのは、事故だ」
「事故……?」
「事故がないと、お前の目がきらきらしない」
ミアの頬が一気に熱くなる。
「な、なに言って……」
「ツッコミ役としての観測だ」
「観測……」
言い訳の仕方が、ここ最近ずっと下手だ。
ミアは、企画書の端を指でつまんだ。
「じゃあ、事故が起きないように……きらきらを増やします」
「増やすな」
「増やしません。……でも、工夫はします」
「よし」
レオンは朱印を取り出した。いつもなら、ここで“条件の追記”が入る。
だが今日は、先にレオンが言った。
「一つだけ追加」
ミアが身構える。
「はい……」
レオンは、真面目な顔で、企画書の余白に書き込んだ。
《監査官(レオン)同行》
ミアが瞬きをする。
「常駐じゃなくて……同行?」
「ああ」
「後始末じゃなくて……?」
「隣」
言い切って、レオンは耳の先が赤くなった。
ミアは、笑ってしまった。
「……それ、いちばん安全です」
「安心は保証しない」
「でも、楽しいは保証されます」
その言い方が、レオンの胸に刺さったのか、レオンは少しだけ目を細めた。
そして、朱印を押す。
どん。
『許可』
紙の上に、はっきりと“次の祭りの一歩”が刻まれた。
*ーーー*
「よし、提出に行くぞ」
レオンが立ち上がる。
ミアも立ち上がる。
そして自然に――手をつなぐ。
最初から。
歩き出す前から。
店先へ出ると、朝の光があたたかい。
その光の中で、オーナーが扉の柱にもたれて待っていた。
にやにやしている。今日もだ。
「おーいおーい。手、つないでるなぁ?」
「うるさい」
「うるさいです」
声が揃ってしまって、オーナーがさらににやにやする。
「いいねえ。最高コンビが、正式に最高になった」
「正式とか言うな」
「正式です。朱印押しました」
ミアが言うと、レオンが咳払いした。
オーナーは大げさに両手を広げる。
「よーし! 次はもっと大きくするぞ! 王都全域だ!」
「するな!!」
「しません!!」
声が、また揃った。
オーナーが笑う。
「ほらな。息ぴったりだ。事故る気配がする!」
レオンが低く言う。
「事故らせない」
ミアが笑う。
「でも、もし事故っても――」
ミアは、つないだ手を少しだけ強く握った。
「一緒に走ります」
レオンは一瞬だけ黙ってから、短く答えた。
「……ああ」
その返事だけで、次の祭りがもう始まっている気がした。
王都の風が、提灯の紐を揺らす。
にこにこ企画堂の看板が、朝日にきらりと光った。
《今日も元気に、事故りません(予定)》
――予定、は。
二人なら、きっと“正解”に変えられる。
手をつないだ最初の一歩が、もうそれを証明していた。
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