『星花アパルトマンの新婚予告』 — ちゃんとじゃなく、いっしょに。—

星乃和花

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終章 新婚は毎日、予告通り

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新居の朝は、窓の光がまず余白棚を照らすところから始まる。
上段の瓶に水を半分。
セイランが指で水面をそっとゆらし、目で“間”。
わたしは頷いて、三五呼吸。吸う三、吐く五。
——そして、今日も一輪。

“キリ”

白い茎が水に生まれて、薄青い花がゆっくりひらいた。
一輪の約束。朝はふたりの“ただいま”。

「おはよう」

「おかえり」

言葉が重なると、薄桃が一枚だけ、はらり。
わたしはそれを摘んで、中段の封筒にしまう。
保存、うち基準。



その日は、入居から三日後の婚姻届の日。
王都役所の前で、わたしたちは四拍の形だけ合わせた。
トン(いる)
トン(ここ)
間(見る)
——“ギュ”は手続きが終わってから。公的な抱擁は、廊下の柱の影で。

窓口のお姉さんは、角丸の書類を差し出しながら、黒板みたいな優しい声で言う。
「プラリネさんの“うち基準”を、今日から“夫婦基準”と正式に呼びますね」

胸の中で、何かがぽんと膨らむ。
半分だけ喜ぶを忘れず、吸う三、吐く五。
——でも、コトン。
足元で、へんな嬉しさが一粒落ちた。
セイランがミント眼鏡を掛けてくれて、わたしは笑う。
うち基準で、書類はまっすぐ。字も、気持ちも。

外へ出ると、石畳に細い風。
わたしは紙飛行機を一枚折って、役所のベンチに滑らせた。

『“来なくていい日”は、うちにはない(公式)』

紙はこつんと肘掛けに触れて、届きましたの光を返す。
セイランは照れた青をほんの少しだけ混ぜて、星屑を白く落ち着かせた。

「ギュの予約、実施」

廊下の柱の影で、抱擁版。
薄桃が一枚。
檸檬水が一滴。
公的にも、私的にも、予告通り。



日が暮れる前、庭の二人呼吸ベンチに、近所の子どもたちが集まった。
毎週一度のちいさな**“余白相談会”——
“暴発=失敗”じゃなくてサイン**だよ、を一緒に学ぶ時間。

「いる→ここ→見る→おかえり」

手遊びみたいに四拍を叩いて見せると、子どもたちの指が真似をする。
突風が出やすい子には突風ピンの安全ピン、
照れやすい子には半分こ飴、
涙が出ちゃう子にはミント眼鏡と**“助けて”の練習**。

「迷惑=相手ひとりに背負わせること」
「二人でやれば、可愛い」

みんなで声にすると、庭の空気が少し丸い。
猫はベンチの下で、にゃ、とうなずく。

遠くの通りでは、ドゥースのショーウィンドウに“今日の余白”プレート。
星花スタンドは午前に一輪を迎え、花びらは散歩の速さ。
王都の対策棚には、新しい項目が増えたという——
『言い直しカード、貸出可』。角丸、穴にリボン。



夜。
最初の“新居のお風呂あがり髪ドライ係”はセイラン。
くしがわたしの髪を通る音に合わせて、三五呼吸が自然に合う。
星花は窓辺で細く揺れ、
余白棚の中段で、今日の薄桃が小さく眠る。

「一輪ログ、夫婦版にタイトル変える?」

「うち基準で、名前はそのまま。
 変えるより、並べて置くのが好き」

セイランは頷き、メモ帳を開いた。
理系の字がまっすぐ進む。
わたしは半分こ飴を割り、冷たさをひとくち。
それから、紙飛行機を一枚、棚のポストへ。

『迷惑の反対は、君と一緒。
 明日、朝食の焼き目:ほろほろ二、やすらぎ三(うち基準)』

紙はこつん。届いた。
セイランがふっと笑って、星屑に白を足す。

一輪ログ(終章)
題:新婚は毎日、予告通り
手続:婚姻届(角丸)→**“うち基準”を正式に夫婦基準へ**
儀式:朝=一輪/昼=“今日の余白”/夜=言い直し
設置:二人の余白棚(保存は上書きせず)
活動:余白相談会(四拍・三五呼吸・半分こ飴)
言葉:“来なくていい日”は、うちにはない(公式)
結果:花—一枚単位/飴—へんな嬉しさ多/風—0
花言葉:「予告は実施中」
所感:“ちゃんと”より“いっしょ”。 迷惑は、可愛いに転記できる。

「単位は?」

「ふたり。
 それから、毎日」

声が重なる。
コトン。
へんな嬉しさの飴が、棚の下段の箱に一粒落ちた。
猫が尻尾で一拍取って、庭の星花がゆっくり頷く。

鍵は二本。
朝はひとつ。
言い直す権利は、テーブルの真ん中に。
“助けて”は先に。
“おかえり”は重ねて。
それから、予告通り——

「おやすみ」

「おやすみ」

明日も一輪。
単位は、ふたり。
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