Lilac

アカアシトカゲ

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Chapter 8. レリック

episode 22. 覚醒

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イージス・プライム
総司令官室。

アリシアとトートは、来客用ソファにふたり並んで、こじんまりと座っていた。

「留守番してろって言われてもさ~」
アリシアはあからさまに退屈そうに天井を見上げ、すぐに立ち上がると、きょろきょろと室内を物色し始める。

トートが目を丸くした。
「お、おい。大人しく座ってろって!絶対、その辺のボタンには触るなよ?」

見ていられないとばかりに立ち上がり、アリシアの腕をつかんでソファへ引き戻す。

「暇なんだもん」
アリシアが頬を膨らませる。

トートは深くため息をついた。
「……ていうかさ」
ふと顔を上げる。
「さっきから疑問なんだけど、総司令官、なんでアリシアのこと知ってんの?」

「あー」
アリシアは肩をすくめる。

「こないだ私有給とったじゃん? クレセント・ハブの超有名なお祭り行ってたんだけどさ。そこで、セリオン隊長と総司令官に偶然会って」

「お、お祭り?」
トートが、さらに訳が分からないという顔をする。

「そ。星渡り市祭。通称・縁結び祭り!夜に超きれいな流星群が見られるんだけど、帰ってこなきゃいけなかったから見れなかったんだよねぇ」

アリシアは思い出して、少し口を尖らせる。

「隊長たちは見たのかな……。めっちゃロマンチックじゃん」

トートが眉を寄せた。
「な、なんで隊長たちが、そんな祭りに?」

アリシアは、じいっとトートを見据える。

「デートっしょ!」
「で、デートって、あの二人が?」
「ぜっっったいデートだったもん、あれは。白くてかわいいワンちゃんもいたし」
 
トートは眉を下げて頬をかいた。
「確かに、総司令官の顔は隊長の好みだと思うけどさ……。なんか任務だったんだろ、きっと」

アリシアが無言でトートの脇腹をどつく。
「ぐえっ」
「私のそういう勘が外れると思ってんの!?」
そのまま腕を回し、トートの首をがっちりホールドする。

「いだだだだっ……!確かに、君の勘はすごいけどさ!じゃあなんで、隊長がピンチなんだよっ!」

トートが必死にアリシアの腕をタップする。

ぱっと腕がほどかれた。

「……確かになぁ」
アリシアは腕を組み、真面目な顔になった。

「さっき、シルバースターへの連絡で言ってたじゃん。『エコーの力が狙われてる』って。ファルナンド達も、セリオンがエコーを持ってる、とか言ってた。隊長がピンチになるとやる、あの変な技、あれが”エコー”なのかも?」

トートは首を押さえながら、こくりと頷く。
「そう考えると、狙われる理由も、因子が消えてるのに技が使える理由も、全部つながるけどな」

ふたりは同時に腕を組み、「うーん」と唸った。

その時――ビビビ、と通信音が鳴る。

「あっ!」

アリシアが勢いよく応答ボタンを押した。
 
「もしもし。総司令官です」

トートが見事にコケる。

『……あ?その声はアリシアか?』

「シルバースター! アリシアだよ! 今総司令官いないの。セリオン隊長は無事!?」

通信の向こうで、小さく笑う気配がした。
 
『なんであいつは、お前に留守番させてんだか……。まぁいい。結論だけ言うと――セリオンは無事だ』

アリシアの顔に、ぱっと笑顔が咲く。
「良かった~!!」

『――だが』

低い声色に、空気が少し冷える。

『犬が連れて行かれた。エネルギーにされるかもしれない。そう、エリュシフォンに伝えておけ』

「わんちゃんが……」
アリシアの表情が固くなる。

「わかった!アイノはセリオンを頼むって、総司令官が言ってた!」
 
『了解。落ち着いたらまた連絡する』

通信が切れた。

アリシアは端末を見つめたまま、唇を噛む。

「わんちゃんがエネルギーになったら、ゼロ・コーラスが動いちゃう……。作戦開始、待ってる場合じゃないじゃん」

そのとき――ガコン、と重いロックの外れる音がして、扉が開いた。

ふたつの足音。

アリシアが顔を上げる。
トートは思わず姿勢を正し、その場で起立した。

入口には、白いコートを翻したエリュシフォンと、その後ろにオルカカが立っていた。

「副司令官!」
 
アリシアとトートの声が揃う。

オルカカは、ふたりに短く頷いた。
「皆には心配をかけた。エリュシフォンが証拠を持って政府と話し合い、有事ということもあり一時的だが保釈となった」
「副司令官がいらっしゃるのは、心強いです」
トートが真っ直ぐにオルカカを見据える。

エルは部屋に入るや否や、真っすぐアリシアたちを見て問いかける。

「アイノから連絡は?」
 
「ちょうど、今!セリオン隊長は無事だそうです……でも」
 
「無事」という言葉に、エルのまぶたが、かすかに震えた。

「でも、なんだ」
 
「わ、わんちゃんが……攫われたって」

エルの目が大きく見開かれる。
その視線が、後ろのオルカカへと向けられた。

オルカカも僅かに眉を寄せ、神妙な表情で頷く。

「――作戦を、早めるほかないな」

エルの顔が悲痛に歪む。
 
アストレイカーの医療ユニット。
子犬が紫の光とともに消えた、あの瞬間が脳裏によみがえった。
(ガボン……)

短く息を吐き、顔を上げる。

「全艦に緊急連絡を出す」

決戦の時は――すぐそこまで迫っていた。
 

――――

 
ヴァルガルド
黒鋼城塞艦《バスティオン》中枢部――ゼロ・コーラス前。

慌ただしい足音とともに、一人の兵が駆け込んできた。
腕には、まだもがいている網が抱えられている。

「幼体を一匹、確保しました!」

ゼロ・コーラスのコアに背を向けていたガルザードが、ゆっくりと振り返る。

「よくやった。セリオン・アスターはどうした」

兵は深く頭を垂れた。

「はっ、その……途中で〈シルバースター〉の乱入があり、取り逃しました」

ギリ、とガルザードの奥歯が鳴る。

「シルバースター、か」

低く呟いたところで、別の足音。
シグラと、その後ろにファルナンドが現れる。

「幼体のエコーを計測させてください」

シグラが穏やかに言う。
ガルザードは、その背後に立つファルナンドを一瞥した。

シグラが口元だけで笑う。

「“エコー戦士”になりたいと申すので、連れてまいりました」

ガルザードは興味を失ったように、すぐに視線をゼロ・コーラスへと戻す。

(こ、これが、ガルザード……)
真正面から浴びる殺気に、ファルナンドの背筋が震えた。

網に絡め取られていたガボンが、コア前の台座に移される。
ゼロ・コーラスが低く唸り始め、頭上にホログラムが立ち上がった。

シグラはその数値を見て、眉を寄せる。
「エコー濃度――八十八パーセント。幼体に“少しだけ”エコーを上乗せした程度の出力ですね」

ガルザードの視線が、ガボンを捕らえてきた兵へと鋭く突き刺さる。

「こいつは間違いなく、セリオン・アスターと共にいた犬だな?」

兵は一瞬だけ「ひっ」と悲鳴を飲み込み、慌てて答える。

「ま、間違いありません!」

シグラが顔を上げる。

「セリオン……。おそらく、この幼体は――事前に“やつ”へ力を渡したのでしょう」

ガルザードの表情が、忌々しげに歪んだ。

「小癪な」

苛立ちを押さえきれず、手近にいた自軍の兵の胸倉を掴むと、封印中のアーク・レリック《マウル》の柄で容赦なく叩きつける。
鈍い音とともに、兵が床に崩れ落ちた。

シグラはその様子に一瞬だけ冷や汗を滲ませる。
しかし、口を開いた時の声は冷静そのものだった。
 
「ゼロ・コーラスの残存出力、そして今確保した幼体のエコーを合わせれば――。少なくとも“第一惑星内”に限っては、〈呼応〉と〈共鳴〉両方のシークエンスが可能です。バスティオンの浮上シークエンスに関しても問題無く進むでしょう。」

視線をガルザードへと向ける。

「銀河警備隊は、エリュシフォンのもと総攻撃を仕掛けてくるでしょう。こちらも兵をエコーの戦士に仕立て上げるべきです。そして、あなたのアーク・レリックさえ復活すれば――」

ガルザードが、ゆっくりとシグラを見据えた。

「セリオン・アスターの捕獲は後回しだ。第一惑星全域への〈呼応〉と〈共鳴〉シークエンス――開始しろ」

低く告げられた命令に、周囲の兵たちが一斉に動き出す。

その喧騒の陰で――
一台の小型ドローンが、音もなく中枢室へと滑り込んだ。

気配を殺し、壁面のパネルの影にぴたりと張りつく。

誰にも気づかれないまま、静かにゼロ・コーラスとその主たちを見下ろしていた。
 
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