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epilogue. 共に歩む未来
epilogue 2. α銀河のアウトライダー
しおりを挟むガボンを迎えに、セリオンとエルはもう一度医務室へ向かった。
ドアを開けると、簡易ベッドの上で丸くなって眠っているガボンを、アイノとセンカカが並んで撫でていた。
二人は、入ってきたセリオンたちに気づいて手を上げる。
「アイノ!背中、大丈夫なのか?」
セリオンが駆け寄る。
「舐めときゃ治る」
アイノはいつもの調子でケロッと言った。
「嘘だね。あれは重症だよ。しばらくは大人しくしてなさい」
センカカがため息混じりにたしなめる。
「あ、そういえば」
セリオンがポケットをまさぐる。
取り出した小さな欠片を、アイノの前に突き出した。
「ヴェイルの残骸。ほとんど光になって消えちゃったけどな」
アイノの目が見開かれる。
「……本当に、壊せたのか……!」
次の瞬間、アイノはガバッと両腕を広げ、セリオンとエルをまとめて抱きしめた。
「わっ——」
「おいっ」
「……良かったな……。……良かった!ありがとう、セリオン……!」
ぎゅう、と遠慮のない力で抱きしめられる。
エルは少しだけ戸惑った顔をしている。
セリオンは苦笑しながら、アイノの肩をぽんぽんと叩いた。
「締め殺されるかと思った」
解放されたあと、エルがぼそっと呟く。
「素直じゃねぇな!」
アイノが声を上げて笑う。
セリオンはふと真顔に戻った。
「なぁ、アイノ」
呼びかけられて、アイノが首を傾げる。
「お前のクレストも、壊せるぞ。多分、ヴェイルと同じ要領で」
アイノは一瞬だけ目を細め、セリオンを見返した。
そして、少しだけ笑う。
「遠慮しとくよ。それ壊したら、師匠に死ぬまで追いかけ回されるからな」
冗談めかして言いながら、視線を伏せる。
「そっか……」
セリオンが小さく呟いた。
「で、どっか行くつもりなのかい?その格好」
センカカが、エルの服装を上から下まで見て首を傾げる。
そこにいるのは、すっかり“総司令官”ではなく――
昔の、アウトライダーのエルだった。
セリオンはニヤリと笑う。
「ちょっとさ。本物になりに、ね」
「お前は、ライラックに戻るのか?」
アイノがにやにやしながら聞いてくる。
セリオンは苦虫を噛み潰したような顔になった。
「だからそれ言うなって!賞金稼ぎにはならねえよもう!」
アイノとセリオンが言い合っている横で、センカカがエルのそばに歩み寄る。
「これ、医務室に落ちてたよ。大事なものだろう?」
そっとエルの手に、小さなチャームを乗せた。
「あぁ……ありがとう」
エルはそれをぎゅっと握りしめる。
「あと、バスカカにも援軍のお礼をしないとだな」
エルの呟きに、センカカが腰に手を当てる。
「ふふ。お礼を言うのはこちらだよ。今まで“他の惑星なんて知ったことか”だったイシュターラにとって、今回の援軍は革命的だ。これからは、もう少し外交的になってもらいたいものだね」
呆れたように言いながらも、その顔はどこか誇らしげだった。
「落ち着いたら、また会いに行く」
エルの言葉に、センカカは嬉しそうに頷く。
「いつだって、待ってるよ」
眠ったままのガボンを、セリオンがそっと抱き上げた。
「ガボ……」
不満そうに小さく声を漏らすが、目は覚まさない。
「じゃあ、またどこかでな」
セリオンが片手を上げる。
アイノとセンカカも、同じように手を上げた。
「いつだって会えるさ。銀河は、広いようで案外狭いんだ」
アイノの言葉に、セリオンもエルも、小さく笑う。
セリオンとエルは、腕の中のガボンを抱えたまま、
静かに医務室を後にした。
――
ガボンを抱えて、二人は揃ってアストレイカーに乗り込む。
『おかえりなさい』
ストレイの声が出迎え、セリオンは思わず口元を緩めた。
「ガボッ!」
いつのまにか、腕の中のガボンが目を覚ましていた。
「起きたか」
エルが頭を撫でると、ガボンは尻尾をぶんぶんと振る。
二人はコックピットに腰を下ろす。
「ストレイ、ヴェルモラまで」
『承知致しました。バカでも分かるように航路を表示します』
「でたでた」
セリオンは顔をしかめながら操縦桿を握る。
ガボンは嬉しそうに、コックピット周りをぴょんぴょん跳ね回っていた。
窓の外では、イージス・プライムが少しずつ小さくなっていく。
前回と違って、そのドックを離れるセリオンの隣には、ちゃんとエルがいる。
セリオンはちらりと横を見る。
エルは目を細め、遠ざかるイージス・プライムを静かに見つめていた。
「……またすぐに来ることになるよ、どうせ」
セリオンが苦笑混じりに言うと、エルは小さく微笑んで頷く。
「そういや」
セリオンがエルを見る。
「センカカと、何話してたんだ?」
「あぁ」
エルがポケットからチャームを取り出す。
「センカカが、これを拾ってくれてたんだ」
「あ」
セリオンも、自分のチャームを首元から引っぱり出した。
「これ、二つで一つになるって」
チャームをエルの方へ差し出す。
「なんかアリシアも言ってたな、そんなこと」
エルはセリオンのチャームに、自分のチャームをそっと近づける。
磁石のように、二つの石がカチリと音を立ててくっつき、一つの四角い石になった。
その石の中で、キラリと光が瞬く。
「……へぇ。綺麗だな」
エルが小さく呟く。
「アムレイナっていうらしい」
セリオンが、イリスに教えてもらった名を口にする。
「アムレイナ、か」
「『共にあり続ける未来』って意味なんだってさ」
セリオンは微笑みながら言い、エルの手の上に、重なったチャームをそっと置いた。
エルは穏やかに微笑んでチャームを見つめる。
両手の指で、大事そうに石を包み込む。
その仕草にすら、セリオンは目を奪われる。
『操縦者の心拍――』
「ストレイ!実況はいらない!」
セリオンが慌てて叫ぶ。
「相変わらずだな」
エルがおかしそうに笑った。
セリオンは大きく息を吐き、気を取り直すようにエルの方へ向き直る。
「ヴェルモラの傭兵ギルド行った後は、どこ行く?どっか行きたいとこあるか?」
エルは少し上を向いて考え――それから、首を横に振った。
「いや」
そう言って、左手をそっとセリオンの腕に置く。
そのまま滑らせるように、指先を手のひらへ絡めた。
「お前がいるなら、どこだっていい」
わざとらしいほど甘い笑顔。
「ぅぉ……」
セリオンは、やっぱり石になる。
出会った頃から、この目の前の“顔面兵器”にはおちょくられてばかりだ。
(負けてたまるか)
セリオンは、絡められた指をぐいっと自分の方へ引いた。
エルが少し驚いたようにバランスを崩し、そのままセリオンに倒れ込む。
至近距離で、目が合った。
『アウトライダーの心拍数――』
「ストレイ、黙れ」
今度はエルが、少し慌てた声で制した。
セリオンは思わずニヤリと笑う。
エルからは、小さく舌打ちが返ってきた。
ふと、目線がセリオンの頭の方に滑る。
「……ライラック」
イージス・プライムで聞こえた名前を小さく呟く。
セリオンに向き直る。
「なあ、アイノが言ってた“ライラック”って一体なんのことなんだ?ガルザードも言ってよな」
セリオンは「あ~……」と情けない声を漏らし、眉を下げる。
「……俺の、賞金稼ぎ時代のあだ名みたいなやつ……。波動の色が紫でさ、昔の地球にあった花の色に似てるってんで、誰かが勝手にそう呼び始めたんだよ……」
観念したように白状する。
エルが「ほぉ」と眉を上げた。
「ライラック……ねぇ。ダセェな」
「言うと思った!!」
セリオンが盛大に叫ぶ。
「黒歴史なの!!」
エルはその様子に、ふっと笑う。
少し離れかけた指を、もう一度深く絡ませた。
「ライラック。ダセェけど、俺は嫌いじゃねぇよ?」
下から見上げ、不敵に笑う。
「ぐぬぬ……」
セリオンは何かに耐えるように視線を彷徨わせ、戻す。
数秒、見つめ合ったまま沈黙が落ちる。
「……はぁ。降参します」
セリオンが小さく肩を落とした。
空いている左手で、エルの頬に触れる。
指先で輪郭をなぞるように撫で、少し眉を下げた。
「……もう、無理なんだけど」
そのまま――噛みつくように、エルの唇を奪う。
何度も角度を変え、深く口づける。
「っ、セリオン……」
息継ぎの合間に、エルが名を呼んだその時。
シュッ、と音を立てて、居住エリアへのドアが自動で開いた。
居住エリアへ駆け出そうとしたガボンが、ストレイのアームに器用に捕まれて引き戻される。
二人は顔を見合わせて、同時に立ち上がった。
「……ストレイ、自動渡航で頼む」
セリオンが、居住エリア前で告げる。
「生体ログは、取るなよ」
エルが釘を刺す。
居住エリアの扉が、静かに閉まった。
『承知致しました。ヴェルモラまで、ジャンプは使用せず、ゆっくり自動渡航します』
ストレイのアームが、キャノピーの縁にガボンをそっと下ろす。
「ガボ!!」
キャノピーから見える景色に、ガボンが目を輝かせて尻尾を振る。
『ガボン、惑星にご興味を?』
「ガボ!」
ガボンは元気よく吠え、前足をそろえて座り込んだ。
その瞳には、窓の外に広がる星々が映り込んで、きらきらと輝いている。
『これからは、いろんな惑星へ行けますよ。四人で』
静かなコックピット。
窓際に陣取るガボン。
キャノピーの向こうで、銀河がゆっくりと流れていく。
小惑星帯をかすめながら、アストレイカーは光の線を描いて進んでいく。
――黒い機体に、稲妻のような紫のラインを走らせたガンシップ。
謎の波動を操る元賞金稼ぎと、銃剣を操る天才戦略家の二人組アウトライダー。
そして、波動を持つ犬と、皮肉屋のAI。
彼らの名は――やがて、瞬く間に、α銀河中へと広がっていくことになる。
Lilac —END—
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完結お疲れ様です! ヒーローが二人とも格好良くて、さわやかな冒険譚ですごくよかったです!
最後までお付き合いありがとうございました🤩さわやか冒険譚うれしい!!
完結おめでとう御座います!
続編など楽しみにしています!
ありがとうございます!まぬまぬさんの感想に励まされて全投稿できました🙏
読んでくださってありがとうございます!もし続編出たらぜひまた読んでやってください…!
毎日21時過ぎからの楽しみでした。終わってしまい、本当にさびしい!続編、お待ちしてます!
最後まで追ってくれてありがとうございます!!続編…要望多ければ考えます!アウトライダー編、ありかも🤔