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しおりを挟むドンドンとドアをたたく音が耳障りで、歯磨きをしている手を止める。
まだ日が昇ってから1時間と経っていない。
「こんな朝早くから誰だ……ドンドンうるさいッ」
苛立ち、歯ブラシを咥えたまま家のドアを開ける。
そこには真っ黒い髪を乱し、化粧もろくにしていない魔女が立っていた。
必死の形相というのがしっくりくる。
はぁはぁと息を乱し、じんわりと額に汗をかいている。
「レーシー……なにしてんだよ、こんな朝早くから」
「まだ店が空いてなかったからこっちにきたのよ!」
近所迷惑になりそうな大声で叫ぶレーシーの顔は化粧をせずとも美しい。
ともすれば化粧をしないほうがかえってその美しさを全面に押し出すことが出来そうだ。
レーシーの化粧技術がいつまでも進歩なく残念なことは素顔を知る幼馴染だからこそわかる事だ。
魔女の幼馴染もまた魔女である。
と言っても性別は男だった。
街から離れた森の近く、広大な草原を抜けてやっと見える小さな店はかろうじて街の一部ではあったが、その主人がずっと同じ人物であることを知るものは少ない。
髪型や顔つきをどことなく変えていき、店に入ることで作用する魔法を使い、あたかも年を取ったように見せているからである。そうして段々と歳をとるとまたその子供ような顔をして店に立つ。その繰り返しだ。
男の魔女は数が少ないため、疑われることはほとんどない。
今は魔女であることを隠さなければいけない情勢ではないが、いつまた魔女への風当たりが厳しくなるかわからない。
魔女狩りの歴史を知っているだけに自衛せざるをえない。
「誰か魔女の心臓を売りにきた人はいない!!??」
魔女にしてはおっとりとした性格のレーシーが慌てているのを見たのは久しぶりだなと男は思う。
相手がまだ寝巻きであることなど気にも止めずにレーシーは男に詰め寄った。
いや、かくいうレーシーも寝巻き代わりのワンピースのままだった。下着をつけるのを忘れているらしい。
薄手のワンピースに包まれた柔らかそうな胸が目の毒だ。
「……話を聞いてやる」
男は魔女の心臓、という単語を聞いて眉を寄せる。
男の髪は寝癖だらけだ。
男の色素の薄い瞳はレーシーの胸元を見ている。
心臓の鼓動がない事を確認しているのだろう。
歯ブラシを咥えながら男はレーシーを家の中に招き入れた。
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