【完結】自分をさらった魔王軍の側近Aと結婚します 異種間結婚ってこんな感じですよ。

染西 乱

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「もう! 勇者がすぐ近くまで来てるなんて! 魔王様は一体なにをしてるんですか! なぜベストを尽くさないのか!」

遠路はるばる魔王城まで攫われてきた姫は、形ばかりの牢獄で、盛大に喚いた。
その言葉は嘆きに近い。
勇者ではなく魔王を応援するようなその言葉には嘘偽りは一切ない。
姫は、魔王に勝ってほしいと願っているのだ。

王城のものまでとは言わないものの、丁寧に作られているベッドは寝心地が良い。
お行儀悪くベッドへダイブした姫は、スプリングで弾んだ体を大の字に投げ出す。
国民に愛された可愛らしいはずの顔は渋面を作っている。魔王の優柔不断さにヤキモキしているのである。
さっさと勇者を亡き者にせんかい! いや、さすがにそれは言い過ぎか。早く勇者をどっかにやってください。

姫という階級の女は一人ではなにもできないだろうからとつけてくれた侍女はなにかにつけ優秀で痒いところにまで手が届く素晴らしい人材だった。
人間よりも均整がとれていると思えるしなやかな身体をしている。
その背中には手のひらに収まる程度の小さな羽が生えているらしいが、楚々としたメイド服を着ている分にはまったく人間と変わりがない。
部屋のドアが自分の意思で開けられず、部屋から出られない以外はかなり快適な生活をしている。
いや、姫の仕事がない分むしろお気楽で良い。

「姫サマはどうしてそんなに勇者を毛嫌いしているんですか? 聞けば美丈夫で、優しいとか。その上勇者で強いなんてみんなが憧れる優良物件ではないですか?」

表情筋が微笑みで固定されたような優しい表情をたたえた侍女は、わからないとばかりに姫に問いかける。
情報を聞くとそんなに悪い結婚というわけでもないように思えるが、違うんだろうか。といっただらもが抱くだろうまっとうな疑問を口にする。

ごく自然な質問に対して姫は、ベッドの上でむくりと身体を起こして、手頃な場所にあった枕を手繰り寄せて力いっぱいにぎゅうと抱きしめた。
いや、締め上げたという方が適切だ。

「しらんけど、なんか生理的に無理なものは無理だし。顔もそこまで美しいわけじゃないよ。あくまで庶民感覚で言えば綺麗な顔かも知らないけど、上の立場のものたちはもっと綺麗な顔の人は山ほどいるのよ」

そう言う姫の顔はとても可愛らしく整っている。ぱっちりとした瞳は吸い込まれそうなほどに大きく、瑞々しい。縁取られたまつ毛は影が出来るほど長く自然に上を向いてカールしているし、眉はやや太めではあるものの、それがまた完璧な顔のなかでわずかな隙を生み出しており、愛くるしく思える。
口角の上がった唇の彩りは画家が見れば感服するだろう自然な赤でありながら、血の通いを疑いたくなるほど完璧な造形をしている。
親兄弟も似たような顔をしているのであれば並大抵の綺麗な顔ではそうそう琴線には触れないだろう。
鏡で自分の顔を見慣れているというのも理由の一つなのかもしれないと思わせる。

「優しいってのも、なーんかね、違うんだよねぇ~。なにかにつけ押し付けがましいし、なんか謎の上から目線だし。ていうか勇者が近くに来ると蕁麻疹出てめっちゃ痒いし……そんなので、結婚だお世継ぎだってのは絶対無理」

思い出しただけで体が痒くなるのか、姫は服から露出している細く柔らかそうな腕を軽くぽりぽりとかいた。日に当たらないようにしてきた肌は透き通る白さだ。
真っ赤な血がしたたればさぞかし美しいことだろう。
薄青く浮き出た血管の美しいその腕に、今は蕁麻疹は出ていないように見受けられる。

「では素直にそう申し出ては?」

体が不調を訴えるなんていうのはさすがに結婚しない理由になるだろうという考えた。

「え~、無理~! 蕁麻疹は薬で抑えて勇者とケッコン!ってなるだけ、結果同じ、帰結するのは勇者との結婚。てかさ、勇者は姫と結婚したいわけではないし、ちゃんと結婚したい人がいるから、その人が第二夫人みたいになって姫はとりあえず肉便器にされて子供だけ産んで、第二夫人と末長く仲良くいちゃいちゃ暮らしましたとさ、とかなるんだよね、いまんところ、今までの歴史を見るとさ。相思相愛じゃなくてもやることやれば子供は出来るし……まぁ姫と勇者の血が入った子供がいたら王家的には一石二鳥なんだろうけど~姫は姫なりに幸せになりたいから」

言っていて、自分のこころに向き合えたのか、ベッドの上で正座した姫サマは、深々と頭を下げた。

「お願いします、死んだことにしてください」

ただの侍女に、そんな権限があるずもない。

体が拒否していても薬でそれを抑えてまで推し進められる結婚とは一体……?
人質の侍女になると申しつけられてからそれなりに人間社会について学んでいたが、まだ不可解なことがあるとは……
侍女は、真顔でじっと床を見つめる姫を見つめる。
幸せになりたい、というのは身分によってはこうも難しいものだったのだなと、ごく自然に相手に出会い結婚して子供にも恵まれた順風満帆な人生を送ってきた侍女は目の前の美しい姫を不憫に思った。

こんなにかわいらしく生まれたのに、かわいそう。

侍女から話を聞いた、魔王の側近も姫にかなり同情的で「蕁麻疹が出るほどとは、よほど相性が悪いんですね。それとも男全般に蕁麻疹が出てしまう体質なんでしょうか?」などと、首を傾げておもむろに姫の部屋に出向いたかと思えば、あっ、ぇ、っぇえ!? ェ……!は…わ……

侍女は一目惚れというやつを初めて目にした。

愛とは時間をかけて育んでいくものだと思っていたが、そうではない場合もあるらしい。

私は隣の部屋におりますのでッ!

どうぞごゆっくり!!!


こうして攫ってきた姫は、
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