【完結】地獄の釜は閉めたまま

染西 乱

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孝之介はしげしげと目の前の幼馴染を見る。
もうこれ以上は伸びないだろう身長は、まだ元服を終えていない孝之介よりもわずかばかりではあるが低い。茶屋の娘らしくふくふくとした頬と勝気さをそのまま表すかのような釣り上がった狐のような眼はお世辞にも今どきの「かわいさ」や「しおらしさ」「奥ゆかしさ」を持ち合わせていない。鼻も主張のある高さである。
強いて言えば小さめの唇はかわいらしさに一役買ってはいるだろう。
孝之介は美知子をかわいいと思うが、それは幼馴染であるがゆえの身内贔屓が多分に入っている。
一般的に考えて美知子の容姿は「一目惚れ」されるほどではない。

しかし。しっかりものの内面や含翠堂(がんすいどう)に通い、一緒に学んでいたからこそわかる頭の回転の速さや機転を組み込めば、嫁に取りたいものは両手の指の数では収まらないはずだ。

含翠堂(がんすいどう)とは、庶民にも開かれた学舎である。
商いの多い平野郷では、特に算術の知識はかかせないし、取引相手に騙されないように一定の知識は必要だ。
お金さえ払うことができれば誰でも通うことができる学舎はこのあたりでは有名だ。ここいらの店子の子供は一度は通る道である。
算術だけを重点的に学びすでに学舎を去った美知子とは同じく机を並べた仲だ。
孝之介は今でも含翠堂(がんすいどう)に通い今は主に儒教の知識や、貿易に関する知識を得ている。

「よそ者か」

平野郷はぐるりと周りを水堀で囲まれた自治郷で、何ヶ所もある出入り口からはだれでも入ることが出来る。

平野郷には飲料に出来る水源は一つしかないから警備が厳重だ。
使用できる時間は限られており、時間外には厳重にふたをされている。
井戸に毒など入れられれば平野郷の人間全てに塁が及ぶため、郷長や有力な権力者も井戸への警備には手を尽くしてくれている。
商いは盛んで日中はかなり賑わっている。
しかし郷のものは堀の外から来る人々は客として見ており、どうしても「よそ者」意識が強い。
宿坊も大した部屋数がない。そのため、日中は賑わっていた大通りからも、そこそこの時間まで客足はいなくなってしまい、夜になればひっそりとした静けさに包まれる。
ちなみに宿坊の出入りは、見張り櫓からよく見える場所にありそれとなくよそ者は終始見張られているのである。
それは結束の強さであり、排他的なよく無い思想でもある。

「そうちゃう? なんか訛りもこのへんとちょっとちゃうしな。京方面から来たんちゃう? 私遠くに嫁ぎたいとか思ってへんし迷惑なんよな。やたらと押し強いんやて。ぜんぜんうちの好みの顔ちゃうし……むぁとにかく嫌なもんはいややねん」

美知子はわかりやすく顔を顰めて見せ、さらにはぷくーと頬に空気を溜めて食べ過ぎたねずみのようになり、さらにはじめっとした陰気な半眼になっている。

美知子が元服して2年が経つ。
平均的な年齢よりも少し早いが、嫁いでもおかしくない年齢ではある。
女の方が元服が早いため、同じ年であるのに美知子はもういっぱしの大人、孝之介はまだ子供扱いをされている。
ようやく孝之介は今年半元服を行う予定になっている。

「ほんならはっきり断ったらええやんけ」
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