もう来なくていいよ

染西 乱

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メッセージをもらっていたにもかかわらず、僕は筑波先輩は二度と美術室に来ないのではないかという気持ちでいた。

行けたら行くわってな感じでなんとなくフェードアウトするのかな、なんて思っている。
僕のくる時間を聞いてもなお先輩は何時に来る、などという情報はなかった。

来ると思ってこなかった時のことを考えての防衛本能でもあるんだろう。
はじめから期待しないでおけば、来たときにはなんだかんだ嬉しいだろうし、来なかったらほら見たことかと溜飲を下げれられる。

来るも来ないもわからないが、購入済みのものは受け取りに行かなければならない。
昼ごはんは冷凍のパスタと冷蔵庫に冷えていたトマトを食べ、いつもより30分ほど早く家を出た。

夏休みの間カバンには携帯とタオルぐらいしか入れるものがないのでカバンはペラペラだ。

相変わらず愛想の良い画材店で八切りサイズ程度のキャンバスを受け取り、脇にかかえる。

新しいキャンバスは木の匂いと紙のにおいが強い。
僕からすれば気分の上がるいい匂いだ。


先輩が使わなかったらこのキャンバス僕が使ってもいいかな。
今描いているキャンバスはかなりでかいが、このぐらいよすこし小さめのものを完成させて気分を落ち着けてもいいだろう。

今の題材から離れて買っている猫の絵でも描いてみるもの良さそうだ。
描き上がりがどうあれうちの猫の絵ならば喜び勇んだ玄関に飾るだろう。

すでに脳内で先輩は来ないことになっている。

意図せず新しいキャンバスを手に入れてしまったらと意気揚々と美術室に足を踏み入れると、先客がいた。
見慣れない後頭部だ。

僕の足音に反応したのか、それとも気配にか、振り向いた端正な顔をした生徒が「お、きたきた。おそくなーい?」と13時をさした時計に目をやりながら口を尖らせる。

「筑波先輩……、きてたん、ですね】
 
僕は肩にかけて持っていたキャンバスを近くの机の上に置く。

「あ、ソレ、取ってきてくれたんだぁー。ありがとうね」

嬉しげに言った筑波先輩が座っている椅子の前の机には何冊か本が置いてあった。

「今日図書室開放してたから、早めにきてかりてきた」

どうよ、えらいでしょとでも言いたげに胸を張っている。

「そうなんですか、タイミングがいいですね。……なにかいい本ありました?」

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