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37.勘違い①
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大樹は大学生になった。
同じ地元でも、伊沢が通う大学よりはランクが下だ。追いかけたい気持ちと学力は別ということである。それでも浪人することもなく希望した大学に合格したのは、伊沢が勉強を見てくれたおかげだ。
お互いに大学生になると、それぞれに付き合いも増えたりアルバイトもあったり、以前のように週末に毎週会うことは少なかった。
しかし、一緒に出掛けられるようにはなった。
高校の頃の知り合いに見られる可能性もあったが、普段会うことがないから適当に誤魔化すことができる。
みどりが時々遊びに来てと言ってくれるので、伊沢の家にもたまに訪問する。
伊沢の父も三年の海外赴任を終え戻ってきた。伊沢の恋人であるということは秘密にして、仲の良い後輩だと紹介をしてもらっている。
二人が付き合っているということはみどりしか知らず、オープンに出来ないながらも恋人という関係は続いていた。
伊沢は大学四年生の五月に、地元にある地方銀行からの内々定を受けた。
いくつか受けた中で、伊沢は銀行員になる道を選んだらしい。堅い仕事というのが伊沢にとても似合っていると思った。
そして、その年の九月、みどりが結婚式を挙げた。
「ヤバイ……。押し倒したいくらいカッコいい」
披露宴の行われるホテルで伊沢の姿を見て、大樹は感嘆の溜め息をついた。
ディレクターズスーツに身を包んだ伊沢は、いつもは軽く分けているだけの前髪を少し後ろに流していて、服装と相まって色気が漂っていた。
ポケットチーフを挿した黒のジャケットにストライプのズボン、グレーのベストにシルバーのネクタイという、ごくありふれた結婚式の装いなのに、伊沢のカッコ良さが引き立ってしまい、新郎よりも目立ってしまうんじゃないかとすら思ってしまう。
その証拠に、ホテルのロビーに集まっている女性たちの浮足立った視線が、先程からちらちらと伊沢へと向けられていた。
少し呆れたような顔をした後、伊沢が笑う。
「お前は本当に俺の顔が好きだな」
「うん」
「惚れ直したか?」
大樹は大きく二回頷いた。
二人が付き合い始めて四年になる。
最初の頃はホモは嫌だとごねていた伊沢だったが、今ではこんな軽口を言えるほどまでになった。
「大樹は、何だかスーツに着られてる感があるな」
大樹を頭から爪先まで眺め、伊沢がふっと笑う。
最初は少し他人行儀だった二人の呼び方は、四年の間に下の名で呼び合うように変わっていた。
「俺も思った。スーツ似合わなかったら、就活で洒落になんないよ。俺も髪をセットした方がちゃんと見えるかな」
「いつもラフな格好しか見てないからそう思っただけだ。大丈夫」
微笑みながら、自然な動きで伊沢の指が撫でるように数回、大樹の前髪を横に梳いた。
大樹が女だったら、周りからはいちゃついているようにしか見えないような行動を、こんなに人目を引いている状態でされてしまう。
大樹は顔を赤くしてしまったが、伊沢は自分のとった行動がどう見られているのか気付いていないようだった。
大樹にとって、初めての結婚式の参加だった。
元々みどりは美人だが、幸せに包まれてより一層綺麗に見えた。そんなみどりを見て、伊沢も心から嬉しそうだった。
途中、みどりのことを好きだった伊沢はどんな気持ちでいるのかと、大樹は少し気になった。
同じ地元でも、伊沢が通う大学よりはランクが下だ。追いかけたい気持ちと学力は別ということである。それでも浪人することもなく希望した大学に合格したのは、伊沢が勉強を見てくれたおかげだ。
お互いに大学生になると、それぞれに付き合いも増えたりアルバイトもあったり、以前のように週末に毎週会うことは少なかった。
しかし、一緒に出掛けられるようにはなった。
高校の頃の知り合いに見られる可能性もあったが、普段会うことがないから適当に誤魔化すことができる。
みどりが時々遊びに来てと言ってくれるので、伊沢の家にもたまに訪問する。
伊沢の父も三年の海外赴任を終え戻ってきた。伊沢の恋人であるということは秘密にして、仲の良い後輩だと紹介をしてもらっている。
二人が付き合っているということはみどりしか知らず、オープンに出来ないながらも恋人という関係は続いていた。
伊沢は大学四年生の五月に、地元にある地方銀行からの内々定を受けた。
いくつか受けた中で、伊沢は銀行員になる道を選んだらしい。堅い仕事というのが伊沢にとても似合っていると思った。
そして、その年の九月、みどりが結婚式を挙げた。
「ヤバイ……。押し倒したいくらいカッコいい」
披露宴の行われるホテルで伊沢の姿を見て、大樹は感嘆の溜め息をついた。
ディレクターズスーツに身を包んだ伊沢は、いつもは軽く分けているだけの前髪を少し後ろに流していて、服装と相まって色気が漂っていた。
ポケットチーフを挿した黒のジャケットにストライプのズボン、グレーのベストにシルバーのネクタイという、ごくありふれた結婚式の装いなのに、伊沢のカッコ良さが引き立ってしまい、新郎よりも目立ってしまうんじゃないかとすら思ってしまう。
その証拠に、ホテルのロビーに集まっている女性たちの浮足立った視線が、先程からちらちらと伊沢へと向けられていた。
少し呆れたような顔をした後、伊沢が笑う。
「お前は本当に俺の顔が好きだな」
「うん」
「惚れ直したか?」
大樹は大きく二回頷いた。
二人が付き合い始めて四年になる。
最初の頃はホモは嫌だとごねていた伊沢だったが、今ではこんな軽口を言えるほどまでになった。
「大樹は、何だかスーツに着られてる感があるな」
大樹を頭から爪先まで眺め、伊沢がふっと笑う。
最初は少し他人行儀だった二人の呼び方は、四年の間に下の名で呼び合うように変わっていた。
「俺も思った。スーツ似合わなかったら、就活で洒落になんないよ。俺も髪をセットした方がちゃんと見えるかな」
「いつもラフな格好しか見てないからそう思っただけだ。大丈夫」
微笑みながら、自然な動きで伊沢の指が撫でるように数回、大樹の前髪を横に梳いた。
大樹が女だったら、周りからはいちゃついているようにしか見えないような行動を、こんなに人目を引いている状態でされてしまう。
大樹は顔を赤くしてしまったが、伊沢は自分のとった行動がどう見られているのか気付いていないようだった。
大樹にとって、初めての結婚式の参加だった。
元々みどりは美人だが、幸せに包まれてより一層綺麗に見えた。そんなみどりを見て、伊沢も心から嬉しそうだった。
途中、みどりのことを好きだった伊沢はどんな気持ちでいるのかと、大樹は少し気になった。
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