そしてケモノは愛される + ケモノはシーツの上で啼く

藤沢ひろみ

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ケモノはシーツの上で啼く Ⅰ

19.抱く側なのか?

「そっち、とは?」
 柴尾が首を傾げると、斎賀が言葉にするのを躊躇うように黙り込んだ。

「……だ、抱きたいなどと思っているのか、ということだ」

 言葉にするのも嫌だとばかりの表情で、斎賀が訊ねた。
 何故そんなことを訊ねられたのかが分からない。斎賀が抱かれずに、誰が抱かれるというのか。

「え? むしろ、それ以外の選択肢が?」

「………」
 大真面目に答えたら顔を逸らされ、痛そうに頭を手で押さえられる。

 柴尾は俯く斎賀の横顔を見つめた。
「今はファミリーにお世話になっている半人前ですが、いつか一人前になったら、また告白させて下さい」

 一人前になる時―――。
 それは、ファミリーを出る時でもある。

 ファミリーにいる者が屋敷を出ていくのは、結婚して家族を持った時、もしくは一人前だと本人と斎賀が認めた時だ。
 斎賀に世話になっているうちは、対等ではない。

「その頃には、私も結婚している」
 静かに斎賀が答えた。

 結婚という現実的な言葉に、尾が垂れ下がる。

「それは悲しいです……」
 しゅんとするのを隠せない。

 年齢的にも、斎賀はすでに結婚していてもおかしくない。何故未だに独身でいるのかが、不思議なくらいだ。
 しかし、斎賀ほどの人には並みの女性では相応しくないから、相手がいなくても当然とも思う。

「でも……。それでも僕は、斎賀様を想い続けます」

 斎賀の横顔に向かって、きっぱりと宣言した。

「時間の無駄だ。周りに目を向けなさい」
「はい」

 諦めろという斎賀に対し、諦めないつもりで返事を返す。
 無駄だと言われようが、もう一度足掻いてみると決めたのだ。

 柴尾の返事に、了承の意が感じられないことが分かったのか、斎賀は振り返るともう一度念押しした。
「本当に無駄だぞ」
「はい」
 笑顔で答える。

 斎賀は一瞬黙り込んだ。

「本当に、本当だぞ」
 もう一度念押しされ、思わず柴尾は噴き出した。

「斎賀様。それ、余計に本当っぽく聞こえないやつです」
「………」

 斎賀がそんな表情をするなんてことはないと思うが、柴尾には何となく気恥ずかしそうな表情をしているように見えた。

 まるで観念したように、柔らかい溜め息が聞こえた。
「……酔狂な奴だ」

 柴尾も、数年後にはファミリーを出る。いつかは、別れの時が来る。
 その時が、この恋に区切りをつける時になるとも言える。
 もしくは、本当に斎賀が結婚するのが先ということもある。

 男同士だということを乗り越えてまで受け入れてもらえるのかどうか、それは途方もなく難しいと思えた。
 それでも、柴尾は諦めないと決めたのだから。

 斎賀のことを―――想い続けると。
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