〜甘い結晶と二人の未来〜

古波蔵くう

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第1章:文化祭の変化

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 7月。暑くなり、衣替えも終わり期末試験が終わった頃。今度は文化祭の準備でクラス、部活共々忙しくなっている。蜜村が入部した次の日、陽翔と悠貴に紹介した。陽翔は
「地味子ちゃん……」
と。呟いていた。悠貴は
「よろしく……」
と。悪印象とも好印象ともいかない感じだった。今は陽翔と蜜村、俺の3人で文化祭に出す想い出キャンディを作っている。
「重い……」
陽翔がキャンディの元が入った鍋を鉄板の上に流す。
「蜜村……着色料をお願い……」
俺はキャンディの色を均等に分ける作業をした。そして作った。
「見た目はいいけど……味も美味しくなきゃ……」
俺と蜜村、陽翔と共に作ったキャンディを食べてみる。
「無味」
「ガムっぽい」
「無味」
という結果。
「次は砂糖多めにするか」
陽翔が鍋に砂糖1袋ぶち込もうとする。
「ちゃんとした分量にしねぇと甘くなりすぎて、逆に売れなくなる!」
俺は陽翔を止める。
「さっき作ったキャンディより、甘味料で微調整したら?」
蜜村が提案する。
「陽翔……甘味料を業務用スーパーで買って来てくれ……」
「分かった……」
陽翔は部費の一部を手に取って調理室を出る。蜜村はキャンディのデザインが、上手かった。キャンディの中の気泡なんて無いに等しかった。
 文化祭前日。
「やっと……出来た……」
俺は、ヘトヘトだった。想い出キャンディは作って売るわけではなく、作っている過程のパフォーマンスも必要だった。陽翔も悠貴も遅くまで残ってくれた。
「これで明日は……売るぞ!」
俺は蜜村に、手をグーにして向ける。蜜村も手をグーにして、俺の手に弱々しくぶつける。
「真斗、俺と陽翔は文化祭……休むから」
「すまん……しっかり体休めてきて……」
俺は文化祭、蜜村と2人でキャンディを売ることになった。
 文化祭1日目、昼頃。
「なんで……」
なぜか買ってくれる客が来ない。特設ステージには、キャンディコマース商業高校出身で今は超有名俳優の天野凌介あまのりょうすけが司会兼ファンサしている。女性陣みんな
「凌介様~♡」
と。言っている。元仮面騎士ビットという特撮ヒーローの主人公として初出演。仮面騎士出身者の男性俳優はイケメンばっかり。凌介さんもその中の1人。俺は、特設ステージの裏方スタッフに
「これを、凌介さんに渡して宣伝お願いします!」
と。頼んだ。有名俳優が紹介してくれるなら、来るだろう。
『みんな! 裏校舎のブースで想い出キャンディが売られているから、ぜひ買ってくれよな! とても美味しくて口に入れた瞬間溶ける味わいだ!』
と。テンプレみたいな食レポだった。でも、女性陣は凌介さんの容姿に見惚れているだけで、宣伝なんて耳に入っていない。夕方になると客足も減り、文化祭初日は閑古鳥かんこどりが鳴いている。
 家庭科調理室。在庫となったキャンディは、責任を持って俺と蜜村で食べることになった。2日目の想い出キャンディも用意してある。
「飴谷部長……」
蜜村が口を開く。
「どうしたの?」
「……ごめんなさい」
蜜村が謝る。
「どうして蜜村が謝るの!?」
「私が地味な見た目だから売れなかったんです……」
蜜村の頬に涙が伝う。
「いやいや! 蜜村のせいじゃないよ! パッケージが魅力的じゃないからだ……」
俺がキャンディを見つめる。見た目も味も悪くない。たぶん、パッケージが表紙が白紙のROM並みに魅力的じゃないんだ。中身が良くても外見が良くなきゃ意味がないんだ。
「俺、ちょっと地下のショッピングモール行ってくる……」
「私も、帰ります」
俺らは、改善策を探るべくそれぞれの考えを巡らせた。
 地下のショッピングモール、デリシャスブレ。俺は実際に参考にしている店を訪れた。どんなパッケージで売られているのかという偵察だ。洗練された美しいパッケージだった。
《これだけ多くの差で劣っていたのか……》
デリシャスブレのキャンディは、うまく言語化できないが思わず2度見して手に取りたくなるデザインだった。俺は写真とメモを取り、帰ってパッケージ作りに取り掛かった。蜜村はどうしているだろうか。
 文化祭2日目、想い出キャンディ同好会のブース。俺は昨日作ったキャンディの新パッケージに今日売るキャンディを詰めて並べた。蜜村はまだ来てない。あとちょっとで客が来るのに。
「飴谷部長、お待たせしました……」
蜜村の声が聞こえた。
「いつまで待たせ……る……気……」
俺は言葉を失った。そこに居たのは、昨日の蜜村じゃないからだ。ボサボサで下ろしていた髪はリンスでも入れたのかサラサラでハーフツインテールの髪型にしている。ヘアゴムにはお菓子のホルダーが付いている。パステルカラーでお菓子が刺繍されているエプロン。目の下には、ラメがキラキラ輝いていた。口元にはチョコの拭き残しのメイクで、あの瓶底メガネもそばかすもない。制服の蝶ネクタイは板チョコのパッケージで作られている。そして、蜜村は
「甘~いキャンディで、あなたの心をきゅん♡ お菓子の国から来た、スイート・シュガーだよ!」
と。アイドルみたいなセリフを言う。そのあと赤面していたけど。
「み、蜜村……ブースに……」
俺は蜜村をブースに立たせた。すると、沢山の人が来てくれた。キャンディ目当てではなく、蜜村目当てで来ていた。オタクの服装の人は
「これからも応援していますね……デュフフ」
とか言ってたし、家族連れの人もいた。みつむ……いや、スイート・シュガーは来る客にファンサもしていた。
「ありがとうございます!また遊びに来てくださいね!」
と満面の笑顔を向けたり、一緒に写真撮ったり、小さい子どもには握手したりと、正に『お菓子の国から来たアイドル』に見えた。想い出キャンディ同好会のブースは2日目、大盛況だった。なぜ蜜村がスイート・シュガーになったのかと言うと
「キャンディが売れないのは、自分が地味だったから」
と。思ったから。スイート・シュガーのおかげで、2日目の想い出キャンディは完売した。
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