2 / 8
第1章:文化祭の変化
しおりを挟む
7月。暑くなり、衣替えも終わり期末試験が終わった頃。今度は文化祭の準備でクラス、部活共々忙しくなっている。蜜村が入部した次の日、陽翔と悠貴に紹介した。陽翔は
「地味子ちゃん……」
と。呟いていた。悠貴は
「よろしく……」
と。悪印象とも好印象ともいかない感じだった。今は陽翔と蜜村、俺の3人で文化祭に出す想い出キャンディを作っている。
「重い……」
陽翔がキャンディの元が入った鍋を鉄板の上に流す。
「蜜村……着色料をお願い……」
俺はキャンディの色を均等に分ける作業をした。そして作った。
「見た目はいいけど……味も美味しくなきゃ……」
俺と蜜村、陽翔と共に作ったキャンディを食べてみる。
「無味」
「ガムっぽい」
「無味」
という結果。
「次は砂糖多めにするか」
陽翔が鍋に砂糖1袋ぶち込もうとする。
「ちゃんとした分量にしねぇと甘くなりすぎて、逆に売れなくなる!」
俺は陽翔を止める。
「さっき作ったキャンディより、甘味料で微調整したら?」
蜜村が提案する。
「陽翔……甘味料を業務用スーパーで買って来てくれ……」
「分かった……」
陽翔は部費の一部を手に取って調理室を出る。蜜村はキャンディのデザインが、上手かった。キャンディの中の気泡なんて無いに等しかった。
文化祭前日。
「やっと……出来た……」
俺は、ヘトヘトだった。想い出キャンディは作って売るわけではなく、作っている過程のパフォーマンスも必要だった。陽翔も悠貴も遅くまで残ってくれた。
「これで明日は……売るぞ!」
俺は蜜村に、手をグーにして向ける。蜜村も手をグーにして、俺の手に弱々しくぶつける。
「真斗、俺と陽翔は文化祭……休むから」
「すまん……しっかり体休めてきて……」
俺は文化祭、蜜村と2人でキャンディを売ることになった。
文化祭1日目、昼頃。
「なんで……」
なぜか買ってくれる客が来ない。特設ステージには、キャンディコマース商業高校出身で今は超有名俳優の天野凌介が司会兼ファンサしている。女性陣みんな
「凌介様~♡」
と。言っている。元仮面騎士ビットという特撮ヒーローの主人公として初出演。仮面騎士出身者の男性俳優はイケメンばっかり。凌介さんもその中の1人。俺は、特設ステージの裏方スタッフに
「これを、凌介さんに渡して宣伝お願いします!」
と。頼んだ。有名俳優が紹介してくれるなら、来るだろう。
『みんな! 裏校舎のブースで想い出キャンディが売られているから、ぜひ買ってくれよな! とても美味しくて口に入れた瞬間溶ける味わいだ!』
と。テンプレみたいな食レポだった。でも、女性陣は凌介さんの容姿に見惚れているだけで、宣伝なんて耳に入っていない。夕方になると客足も減り、文化祭初日は閑古鳥が鳴いている。
家庭科調理室。在庫となったキャンディは、責任を持って俺と蜜村で食べることになった。2日目の想い出キャンディも用意してある。
「飴谷部長……」
蜜村が口を開く。
「どうしたの?」
「……ごめんなさい」
蜜村が謝る。
「どうして蜜村が謝るの!?」
「私が地味な見た目だから売れなかったんです……」
蜜村の頬に涙が伝う。
「いやいや! 蜜村のせいじゃないよ! パッケージが魅力的じゃないからだ……」
俺がキャンディを見つめる。見た目も味も悪くない。たぶん、パッケージが表紙が白紙のROM並みに魅力的じゃないんだ。中身が良くても外見が良くなきゃ意味がないんだ。
「俺、ちょっと地下のショッピングモール行ってくる……」
「私も、帰ります」
俺らは、改善策を探るべくそれぞれの考えを巡らせた。
地下のショッピングモール、デリシャスブレ。俺は実際に参考にしている店を訪れた。どんなパッケージで売られているのかという偵察だ。洗練された美しいパッケージだった。
《これだけ多くの差で劣っていたのか……》
デリシャスブレのキャンディは、うまく言語化できないが思わず2度見して手に取りたくなるデザインだった。俺は写真とメモを取り、帰ってパッケージ作りに取り掛かった。蜜村はどうしているだろうか。
文化祭2日目、想い出キャンディ同好会のブース。俺は昨日作ったキャンディの新パッケージに今日売るキャンディを詰めて並べた。蜜村はまだ来てない。あとちょっとで客が来るのに。
「飴谷部長、お待たせしました……」
蜜村の声が聞こえた。
「いつまで待たせ……る……気……」
俺は言葉を失った。そこに居たのは、昨日の蜜村じゃないからだ。ボサボサで下ろしていた髪はリンスでも入れたのかサラサラでハーフツインテールの髪型にしている。ヘアゴムにはお菓子のホルダーが付いている。パステルカラーでお菓子が刺繍されているエプロン。目の下には、ラメがキラキラ輝いていた。口元にはチョコの拭き残しのメイクで、あの瓶底メガネもそばかすもない。制服の蝶ネクタイは板チョコのパッケージで作られている。そして、蜜村は
「甘~いキャンディで、あなたの心をきゅん♡ お菓子の国から来た、スイート・シュガーだよ!」
と。アイドルみたいなセリフを言う。そのあと赤面していたけど。
「み、蜜村……ブースに……」
俺は蜜村をブースに立たせた。すると、沢山の人が来てくれた。キャンディ目当てではなく、蜜村目当てで来ていた。オタクの服装の人は
「これからも応援していますね……デュフフ」
とか言ってたし、家族連れの人もいた。みつむ……いや、スイート・シュガーは来る客にファンサもしていた。
「ありがとうございます!また遊びに来てくださいね!」
と満面の笑顔を向けたり、一緒に写真撮ったり、小さい子どもには握手したりと、正に『お菓子の国から来たアイドル』に見えた。想い出キャンディ同好会のブースは2日目、大盛況だった。なぜ蜜村がスイート・シュガーになったのかと言うと
「キャンディが売れないのは、自分が地味だったから」
と。思ったから。スイート・シュガーのおかげで、2日目の想い出キャンディは完売した。
「地味子ちゃん……」
と。呟いていた。悠貴は
「よろしく……」
と。悪印象とも好印象ともいかない感じだった。今は陽翔と蜜村、俺の3人で文化祭に出す想い出キャンディを作っている。
「重い……」
陽翔がキャンディの元が入った鍋を鉄板の上に流す。
「蜜村……着色料をお願い……」
俺はキャンディの色を均等に分ける作業をした。そして作った。
「見た目はいいけど……味も美味しくなきゃ……」
俺と蜜村、陽翔と共に作ったキャンディを食べてみる。
「無味」
「ガムっぽい」
「無味」
という結果。
「次は砂糖多めにするか」
陽翔が鍋に砂糖1袋ぶち込もうとする。
「ちゃんとした分量にしねぇと甘くなりすぎて、逆に売れなくなる!」
俺は陽翔を止める。
「さっき作ったキャンディより、甘味料で微調整したら?」
蜜村が提案する。
「陽翔……甘味料を業務用スーパーで買って来てくれ……」
「分かった……」
陽翔は部費の一部を手に取って調理室を出る。蜜村はキャンディのデザインが、上手かった。キャンディの中の気泡なんて無いに等しかった。
文化祭前日。
「やっと……出来た……」
俺は、ヘトヘトだった。想い出キャンディは作って売るわけではなく、作っている過程のパフォーマンスも必要だった。陽翔も悠貴も遅くまで残ってくれた。
「これで明日は……売るぞ!」
俺は蜜村に、手をグーにして向ける。蜜村も手をグーにして、俺の手に弱々しくぶつける。
「真斗、俺と陽翔は文化祭……休むから」
「すまん……しっかり体休めてきて……」
俺は文化祭、蜜村と2人でキャンディを売ることになった。
文化祭1日目、昼頃。
「なんで……」
なぜか買ってくれる客が来ない。特設ステージには、キャンディコマース商業高校出身で今は超有名俳優の天野凌介が司会兼ファンサしている。女性陣みんな
「凌介様~♡」
と。言っている。元仮面騎士ビットという特撮ヒーローの主人公として初出演。仮面騎士出身者の男性俳優はイケメンばっかり。凌介さんもその中の1人。俺は、特設ステージの裏方スタッフに
「これを、凌介さんに渡して宣伝お願いします!」
と。頼んだ。有名俳優が紹介してくれるなら、来るだろう。
『みんな! 裏校舎のブースで想い出キャンディが売られているから、ぜひ買ってくれよな! とても美味しくて口に入れた瞬間溶ける味わいだ!』
と。テンプレみたいな食レポだった。でも、女性陣は凌介さんの容姿に見惚れているだけで、宣伝なんて耳に入っていない。夕方になると客足も減り、文化祭初日は閑古鳥が鳴いている。
家庭科調理室。在庫となったキャンディは、責任を持って俺と蜜村で食べることになった。2日目の想い出キャンディも用意してある。
「飴谷部長……」
蜜村が口を開く。
「どうしたの?」
「……ごめんなさい」
蜜村が謝る。
「どうして蜜村が謝るの!?」
「私が地味な見た目だから売れなかったんです……」
蜜村の頬に涙が伝う。
「いやいや! 蜜村のせいじゃないよ! パッケージが魅力的じゃないからだ……」
俺がキャンディを見つめる。見た目も味も悪くない。たぶん、パッケージが表紙が白紙のROM並みに魅力的じゃないんだ。中身が良くても外見が良くなきゃ意味がないんだ。
「俺、ちょっと地下のショッピングモール行ってくる……」
「私も、帰ります」
俺らは、改善策を探るべくそれぞれの考えを巡らせた。
地下のショッピングモール、デリシャスブレ。俺は実際に参考にしている店を訪れた。どんなパッケージで売られているのかという偵察だ。洗練された美しいパッケージだった。
《これだけ多くの差で劣っていたのか……》
デリシャスブレのキャンディは、うまく言語化できないが思わず2度見して手に取りたくなるデザインだった。俺は写真とメモを取り、帰ってパッケージ作りに取り掛かった。蜜村はどうしているだろうか。
文化祭2日目、想い出キャンディ同好会のブース。俺は昨日作ったキャンディの新パッケージに今日売るキャンディを詰めて並べた。蜜村はまだ来てない。あとちょっとで客が来るのに。
「飴谷部長、お待たせしました……」
蜜村の声が聞こえた。
「いつまで待たせ……る……気……」
俺は言葉を失った。そこに居たのは、昨日の蜜村じゃないからだ。ボサボサで下ろしていた髪はリンスでも入れたのかサラサラでハーフツインテールの髪型にしている。ヘアゴムにはお菓子のホルダーが付いている。パステルカラーでお菓子が刺繍されているエプロン。目の下には、ラメがキラキラ輝いていた。口元にはチョコの拭き残しのメイクで、あの瓶底メガネもそばかすもない。制服の蝶ネクタイは板チョコのパッケージで作られている。そして、蜜村は
「甘~いキャンディで、あなたの心をきゅん♡ お菓子の国から来た、スイート・シュガーだよ!」
と。アイドルみたいなセリフを言う。そのあと赤面していたけど。
「み、蜜村……ブースに……」
俺は蜜村をブースに立たせた。すると、沢山の人が来てくれた。キャンディ目当てではなく、蜜村目当てで来ていた。オタクの服装の人は
「これからも応援していますね……デュフフ」
とか言ってたし、家族連れの人もいた。みつむ……いや、スイート・シュガーは来る客にファンサもしていた。
「ありがとうございます!また遊びに来てくださいね!」
と満面の笑顔を向けたり、一緒に写真撮ったり、小さい子どもには握手したりと、正に『お菓子の国から来たアイドル』に見えた。想い出キャンディ同好会のブースは2日目、大盛況だった。なぜ蜜村がスイート・シュガーになったのかと言うと
「キャンディが売れないのは、自分が地味だったから」
と。思ったから。スイート・シュガーのおかげで、2日目の想い出キャンディは完売した。
0
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる