〜比嘉一維の事件簿〜 『宜野湾女児監禁事件編』

古波蔵くう

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終章

事件解決

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 仁一真宅前。
「ここが犯人の自宅か。ずいぶん年季の入った家だ」
一維と相川がタクシーを降りて、犯人宅を眺めていると、数台のパトカーが停まった。
「宜野湾警察の者です……通報した相川ですか?」
宜野湾警察の山城刑事が警察手帳を提示して、一維に問う。
「いえ、私は元時効探偵の比嘉一維です……私の隣にいるのが相川です」
一維は相川を紹介する。
「相川さん……宜野湾警察署の者です、犯人と特定した情報を教えてくれませんか?」
相川は山城刑事に問い詰められる。
「震之助……事情聴取は署でだ」
宮里刑事が止める。
「那覇市警察の下地です……私たちはどうすれば?」
下地刑事が一維と相川に問う。
「那覇市警察の方々と宜野湾市警察の方々は、待っていてください……私と相川が説得してきます……何か聞きたいことがあればこれを……」
一維は宜野湾市警察に無線機を渡した。
「こちらから聞きたいこと、私が要求する場合もありますので……それをご使用ください……」
一維と相川は、仁一真の自宅のインターホンを押す。
ーーピンポーン!
「はいはい?」
疲弊しきった男性の声が聞こえた。ドアを開けたのは、痩せ細った目にクマのできた男性だった。
「私、元時効探偵の比嘉一維と申します……照屋仁一真さんですか?」
一維は仁一真に名刺を渡す。名刺には時効探偵事務所は赤い横線で消され、私立探偵と赤く書き直されている。時効探偵の前に赤い字で『元』と書かれていた。
「元時効探偵が何の用ですか?」
仁一真が聞くと
「貴様を脇川月那誘拐及びわいせつ物頒布の罪で現行犯逮捕する!」
一維は、手錠を取り出し、仁一真の骨と肉だけになった手を掴むと
ーードン!
ドアが蹴り開けられた音がした。そして、仁一真の前に立ちはだかった。17歳になった月那だった。
「逮捕しないで!」
月那は全裸で、仁一真を擁護する。
「なんでだ! コイツは君を誘拐して監禁したんだぞ?」
「この人は悪くない! この人は私に食事を与えてくれた……服を着せてもらえないのは、私を守るためだったと思うし、真夜中に公園で入浴したのも、猫ちゃん用のトイレしか使えなかったのも、全て私の安全のためにしてくれたと思っている! だからこの人を逮捕しないで!」
月那は泣き叫びながら、仁一真を擁護する。
「……ストックホルム症候群に陥っているな」
相川が呟く。そして、持っていたパソコンのキーボードとスクリーンを切り離す。相川のパソコンはタブレットとしても使える優れものだ。
「一維……これを本人に見せろ」
相川が一維に囁く。一維は月那にタブレットの画面を見せて差し出す。タブレットに映っていたのは、月那があの部屋で生活していた映像だった。視点からして、あの火災報知器のあるところだと分かった。そして、コメント欄をスクロールすると、ユーザーから気持ち悪い内容が書かれていた。しかも、有料コンテンツまで見たというユーザーまでいた。すべてを知った月那は、タブレットが手からずり落ちた。そして、膝から崩れ落ちて泣き崩れた。一維は月那にシャーロックホームズの上着を被せた。
「仁一真……署までご同行願おうか?」
相川が仁一真の骨と肉だけの腕を引っ張り手錠をかける。
 一方、待っていた警察たちは。別の事態に遭遇した。パトカーの数メートル先に、黒い有名外国車が停まった。すると、偶々窓が開いていて話し声が筒抜けだった。
「今日も仁一真から金をふんだくるか」
「あぁ、すでに200万は完済しているが手数料がまだ残っているしな!」
と。それを耳で聞いていた那覇市警察の宮城刑事が
「ちょっとその話詳しく聞かせて貰おうか?」
警察手帳を提示して怖いお兄さんたちに話しかける。
「ヤベッ! マジの警察じゃねぇか!」
怖いお兄さんは車を発進させるものの、後ろにもパトカーが停まったせいで逃げれなくなった。
「署で、話聞こか?」
宮城刑事が怖いお兄さん数人に手錠をかける。すると、宜野湾警察の知念刑事が無線機からの音声を聞く。
「女性警察官を連れてきてくれ」
と。一維からの要求だ。知念刑事は、パトカーから顔を覗き込み
あかり刑事、被害者のケアを頼む……」
と。新城灯あらきあかり刑事に頼んだ。
「分かりました」
新城刑事は、パトカーを降りて、仁一真の家に入ろうとする。すると、仁一真に手錠をかけて連行する相川とすれ違った。
「犯人逮捕です」
「パトカーに乗りな」
新垣刑事が、パトカーのドアを開ける。すると、怖いお兄さんの1人も同乗していた。
「なんだ……お前も一緒かよ」
怖いお兄さんはそう呟いた。新城刑事と共に、上着を着せられた月那も保護された。そして、平良刑事が運転する車に乗った。数台のパトカーが走り去る。
「そのタブレットのデータ、紙媒体にして警察に出しとく?」
一維が相川に聞くと
「別に」
と答えた。
 宜野湾警察のパトカー車内。後部座席には、泣いていて目が腫れた月那と、隣に新城刑事が見守っていた。パトカーは病院へ向かっている。パトカーが走り出して十数分ぐらい経った頃、月那が手をグーにして股間あたりに挟んだ。目には再び涙をためている。
「どうかしましたか?」
新城刑事が問うと
「お……おしっこ……」
月那が頬を赤くして答えた。
「平良刑事、今すぐコンビニに停車をお願いします!」
すると、パトカーは速度を上げて、コンビニに停車する。そして、新城刑事は月那の手を引き女性用手洗い場に連れて行く。入店した2人を見た店員は何も言わなかった。月那に対しては違和感を感じたもののコンビニ店員という立場から何も言わない方が適切だと思ったのだ。新城刑事は、雑誌などを読んでいるフリをして月那が出てくるのを待った。
 数分後。扉を叩く音に新城刑事が気付いた。
「何かありましたか?」
新城刑事が聞くと
「パンツとかない?」
と。聞く。新城刑事が店内を見渡すと、幸先が良いのか女性用下着が売っていた。
「ちょっと待っといてください」
新城刑事は、女性用下着を購入して、手洗い場にいる月那に扉を少し開けて渡した。
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