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姫騎士ヒルダとメイドのジェーン
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エルフたちが住む国からほど近い、辺境の街カナイ。
異種族との交易で潤う辺境の街は、活気と殺気に満ち溢れていた。
夜ともなれば、酒場には男たちの笑いと怒号が響きわたり、喧嘩上等。女の取り合いやら、安っぽいプライドをかけての刃傷沙汰も絶えることがなかった。
そんな険呑な酒場に若く美しい女が現れたらどうなるか。
その晩、開きっぱなしの入口から現れたのは丈の長い服を着たメイドであった。
「よ、別品さん!」
若い男がまず叫んだ。
「よぉ、よぉ、ネエちゃん。新入りか。まずは、オレの隣に来なよ」
蒸留酒を嘗めていた男が言う。
「あとで俺にシャクシャクしてくれよ。上手にできたらチップはたっぷりはずむぜぇ」
口のまわりにエールの泡をつけた男が酔いに任せて喚く。
男たちの下卑た声の集中砲火を浴びて、メイドは怯えた。
「あ、あのぉ、わたし、そういうことはぁ……」
口ごもるメイド。その後からもう軽装甲冑を纏い、背中に大剣を背負った女性が入ってきた。男たちの視点はそちらに移る。
「よぉ、あんた、本物の女騎士さんかい、それとも旅芸人の扮装かなんかかい?」
さきほどの蒸留酒の男が尋ねた。
「見てわからないか。私は女優だよ」
甲冑姿の女は笑顔で言った。
「ヒルダ様、何を……」
驚いたメイドの口から言葉が漏れる。
「あんた美人だが、女優にしちゃあ、色気が微塵もねえなぁ。大根役者だぁ!」
エールの泡を口のまわりにつけた男は相変わらず言うことが下衆だ。
「何をいう。このぶっきらぼうなもの言いは役作り。騎士に色気など無用なのでな。武人を演じるならば、剣の技にて観客を魅了すれば良い。我が殺陣をとくと見よ!」
言うと女騎士は、背中の大剣を抜き、それを振るった。舞のような軽快で鮮やかな動き。
それを見た男たちが歓声をあげる。
「いいぞ!」
「カッコいいぜ!」
「ああぁ、俺をバッサリと斬っておくんでねえかい!」
湧き上がる下卑た喝采。
「ご声援感謝。なれど、これはまだ序ノ口よ。さらなる華麗な剣さばきは、明後日から街の広場に建つ芝居小屋でご覧ぜよ」
口笛を吹く者たちに手を振って応え、甲冑の女はメイドの肩を抱く。
「ジェーン、酔漢ごときに気圧されてなんとする。さ、行くぞ」
二人は店の奧にある扉へと向かった。
扉の奧。赤い光に照らされた小さな部屋がある。
「いらっしゃい。あたしは占い師のグライアで通っている。お二人は『ハンマーシュタイン姉妹団』の方たちだね」
水晶の珠が乗ったテーブルの向こうに座る老婆が挨拶した。黒い装束に身を包み、鉤鼻の上に細い銀縁の眼鏡を乗っけている。この世界では眼鏡はまだまだ貴重品だ。
「いかにも。私はハンマーシュタイン王国の第二王女にして近衛騎士団の名誉団長ヒルダ・ハンマーシュタインと申す」
「姫騎士のヒルダ様でよろしいですか」
「ああ。そう呼ぶ者も多い。『様』はなくても良い。手短にいこう」
「騎士としての腕を見込んで、指名クエストをお願いしたい」
「その詳細は」
「城攻めでございます。この街の領主の城を一夜で攻め落としていただきたい」
「クエスト報酬、金貨五〇〇〇枚! 前金で二〇〇〇枚頂戴します」
「よろしくお願いいたします」
あっさりと金貨五千枚のクエストが発注された。
契約を結び、前金の金貨二〇〇〇枚を手押し車に載せて帰る道すがら、姫騎士ヒルダとメイドのジェーンは月を見上げた。
「ご城主様からクエストを受ける約束があるのに、あの方から城を落とすクエストを受けてしまってよかったのでしょうか」
ジェーンが尋ねる。
「いいさ。受けられる仕事は受ける。仕事はしっかりこなし、報酬もきっちり頂戴する。これが今のハンマーシュタインの流儀。城を落とせと言われれば、城を落とす。占い師を捕えろと言われれば、ひっ捕まえる。国を取り戻すために、仕事のえり好みはできん」
「でも」
「でも、はない。クエストを達成すればよいのだ。クエスト主に我らは何の義理も忠義もない。それに――」
「それに、なんでございますか」
「おっかないお姉さまが、うまく捌いてくれるかもしれぬぞ」
「えっ、そんないいかげんな……」
二人が歩く隣を荷馬車が駆け抜けていく。
「そうら、きっとこれが例のあれだ。どうなるか見ものだな」
荷馬車が走り去った後、車輪の重みのために所どころ石畳が割れている。
照る月を黒い雲が隠した。
異種族との交易で潤う辺境の街は、活気と殺気に満ち溢れていた。
夜ともなれば、酒場には男たちの笑いと怒号が響きわたり、喧嘩上等。女の取り合いやら、安っぽいプライドをかけての刃傷沙汰も絶えることがなかった。
そんな険呑な酒場に若く美しい女が現れたらどうなるか。
その晩、開きっぱなしの入口から現れたのは丈の長い服を着たメイドであった。
「よ、別品さん!」
若い男がまず叫んだ。
「よぉ、よぉ、ネエちゃん。新入りか。まずは、オレの隣に来なよ」
蒸留酒を嘗めていた男が言う。
「あとで俺にシャクシャクしてくれよ。上手にできたらチップはたっぷりはずむぜぇ」
口のまわりにエールの泡をつけた男が酔いに任せて喚く。
男たちの下卑た声の集中砲火を浴びて、メイドは怯えた。
「あ、あのぉ、わたし、そういうことはぁ……」
口ごもるメイド。その後からもう軽装甲冑を纏い、背中に大剣を背負った女性が入ってきた。男たちの視点はそちらに移る。
「よぉ、あんた、本物の女騎士さんかい、それとも旅芸人の扮装かなんかかい?」
さきほどの蒸留酒の男が尋ねた。
「見てわからないか。私は女優だよ」
甲冑姿の女は笑顔で言った。
「ヒルダ様、何を……」
驚いたメイドの口から言葉が漏れる。
「あんた美人だが、女優にしちゃあ、色気が微塵もねえなぁ。大根役者だぁ!」
エールの泡を口のまわりにつけた男は相変わらず言うことが下衆だ。
「何をいう。このぶっきらぼうなもの言いは役作り。騎士に色気など無用なのでな。武人を演じるならば、剣の技にて観客を魅了すれば良い。我が殺陣をとくと見よ!」
言うと女騎士は、背中の大剣を抜き、それを振るった。舞のような軽快で鮮やかな動き。
それを見た男たちが歓声をあげる。
「いいぞ!」
「カッコいいぜ!」
「ああぁ、俺をバッサリと斬っておくんでねえかい!」
湧き上がる下卑た喝采。
「ご声援感謝。なれど、これはまだ序ノ口よ。さらなる華麗な剣さばきは、明後日から街の広場に建つ芝居小屋でご覧ぜよ」
口笛を吹く者たちに手を振って応え、甲冑の女はメイドの肩を抱く。
「ジェーン、酔漢ごときに気圧されてなんとする。さ、行くぞ」
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扉の奧。赤い光に照らされた小さな部屋がある。
「いらっしゃい。あたしは占い師のグライアで通っている。お二人は『ハンマーシュタイン姉妹団』の方たちだね」
水晶の珠が乗ったテーブルの向こうに座る老婆が挨拶した。黒い装束に身を包み、鉤鼻の上に細い銀縁の眼鏡を乗っけている。この世界では眼鏡はまだまだ貴重品だ。
「いかにも。私はハンマーシュタイン王国の第二王女にして近衛騎士団の名誉団長ヒルダ・ハンマーシュタインと申す」
「姫騎士のヒルダ様でよろしいですか」
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「その詳細は」
「城攻めでございます。この街の領主の城を一夜で攻め落としていただきたい」
「クエスト報酬、金貨五〇〇〇枚! 前金で二〇〇〇枚頂戴します」
「よろしくお願いいたします」
あっさりと金貨五千枚のクエストが発注された。
契約を結び、前金の金貨二〇〇〇枚を手押し車に載せて帰る道すがら、姫騎士ヒルダとメイドのジェーンは月を見上げた。
「ご城主様からクエストを受ける約束があるのに、あの方から城を落とすクエストを受けてしまってよかったのでしょうか」
ジェーンが尋ねる。
「いいさ。受けられる仕事は受ける。仕事はしっかりこなし、報酬もきっちり頂戴する。これが今のハンマーシュタインの流儀。城を落とせと言われれば、城を落とす。占い師を捕えろと言われれば、ひっ捕まえる。国を取り戻すために、仕事のえり好みはできん」
「でも」
「でも、はない。クエストを達成すればよいのだ。クエスト主に我らは何の義理も忠義もない。それに――」
「それに、なんでございますか」
「おっかないお姉さまが、うまく捌いてくれるかもしれぬぞ」
「えっ、そんないいかげんな……」
二人が歩く隣を荷馬車が駆け抜けていく。
「そうら、きっとこれが例のあれだ。どうなるか見ものだな」
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