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姫騎士と黒騎士
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「あの、在郷で学もない年寄りのぶしつけな質問で恐縮でござせえますが、姫騎士様ってぇのも騎士様ってことでよろしいんですかな?」
元金貸しの爺が姫騎士に尋ねる。
「もちろん、姫騎士も騎士ではある」
「ああ、騎士様だぁ!」
元金貸しの爺だけでなく、老人全員が安堵の息をついた。
「だが、ほかの騎士とは違うところもある」
姫騎士がそう続けたので、老人たちの表情が一斉に曇った。
「どういうところが、違うので?」
「見ての通り、私は女だ」
姫騎士は言う。
「じっくり見ねえとわかんなかっただよ」
造り酒屋の爺がつぶやき、元金貸しから睨みつけられた。
「姫騎士は、古王の血と意志を継ぐ者。戦う相手は魔族のみ。私自身に害を及ばさぬ限り、人に刃を向けることはない」
と姫騎士は告げた。
「さようでございますか。しばらくお待ちください」
元金貸しが言い、老人三人は少し離れて小声で話し合う。
「ご宣託の騎士様は、姫騎士さんでいいんかな。町の大事は魔族ばかりではねえよ。人間も問題だ。この騎士様にはできねえこともあるんじゃあねえかい」
と元金貸し。
「でも、騎士様が来ると言われて、実際きた。この人だろう、町を救う騎士様は」
造り酒屋は言う。
「かもしれねえ。違うかもしれねえ。当たるも当たらぬもご宣託だ」
元金貸しは、さきほど造り酒屋が言った言葉を繰り返した。
「あたしは、あのお方だと思うね。実にいい目をしてる。強いよ、きっと」
老婆が言う。
「あんたに男の目利きはできても、女はどうだか」
元金貸しが言う。
「いい女は惹かれ合うんだよ」
「その言葉、信じていいのかのぉ、婆さん」
造り酒屋が尋ねる。
「いいともさ。この御方が町を救う騎士様だ」
老婆は自信満々に言い切った。
「そうと決めたら、お願いしようぜ」
元金貸しが大きな声で言う。
「さきほどから、何を話し合っている? 用件は何なのだ?」
姫騎士が言った。
「騎士様、なにとぞこの町を助けてください。魔族に怯えた人々の心は荒み、日々、争いが起きております。このままでは町は滅びてしまいます」
老婆が言う。
「あいわかった。庶民の難儀を救うのも私の務めである。できる限りのことはしよう」
姫騎士はあっさりと承諾した。
「ああ、よかった。姫騎士様、うちに泊まってください。身の回りのことは私と孫娘がお世話させていただきます」
老婆が言う。
「うちからはワインをお持ちしましょう。お好みなら、蒸留酒もごぜえますよ」
造り酒屋が言う。
「こんな田舎に蒸留酒もあるのか」
「うちの蒸留器でこさえた奴でさあ」
「ほお、それは、どんな味か楽しみだな」
姫騎士は言う。彼女は酒好きらしかった。
「そして、これは旧教徒のみんなが出し合った金。身の周りの品の買い物にでも使ってください」
元金貸しの老人が3枚の金貨を姫騎士に差し出す。
「それとは別に、これはわしからです。あんたに託します。町を救ってくだせえ」
元金貸しがが金の入った布袋を姫騎士に差し出す。
「ご老人、こんなには頂けない。当座の路銀は尽きているが、私は姫でもある。野盗あがりの用心棒ではないのだ。もらった銭金のために働くような真似はできない」
姫騎士の声音には微かに怒りが感じられた。
「そうではないのです。姫騎士様。わしは長らく金貸しをして暮らしてきました。この町のおかげで生きてこられた。いろんな人を泣かせてもきたが、この町がなければ生きていけねえんです。いま、わしはご覧の通り年老いております。死の日は、裁きの日は近い。ここで今までの罪を幾分なりとも償っておかねえと、きっと、きっと、わしは地獄に堕ちるでしょう。だから、金を捨てるんです。これは報酬ではなく、喜捨です」
元金貸しが言う。
「そういう金なら、教会に差し出したらよかったのに」
「それができねえんです。わしの金のみんなのものにしたくねえ。わしの金が誰に手渡されるのかちゃんと見届けたい。この金はわしの生命ですからな。我ながら、業が深いのです……」
「そういう告白も教会でしたらいかがですかな。しかし、あなたの生命、あなたの業、お預かりしましょう。いちど、あなたとは酒を酌み交わしたいですな、ご老人」
「いえいえ、最近は、大して飲めやしません」
「そうですか。それは残念」
「では、騎士様、いや姫騎士様、まいりましょう」
そう言った老婆の動きが止まる。
老婆の目は馬上の姫騎士の後を通り過ぎていく黒い甲冑の男の姿を追っていた。傷ひとつない肩当てには新王朝の紋章が白く描かれていた。姫騎士より頭二つぶんは大きな美丈夫である。
老婆は思う。しまった、この立派なお方がご宣託にあった騎士様ではないのか。町を救ってくださる方なのではないかと。
「騎士様!?」
老婆の口から思わず出たことばに黒騎士が馬を止めた。
「拙者に何か、ご用かな」
元金貸しの爺が姫騎士に尋ねる。
「もちろん、姫騎士も騎士ではある」
「ああ、騎士様だぁ!」
元金貸しの爺だけでなく、老人全員が安堵の息をついた。
「だが、ほかの騎士とは違うところもある」
姫騎士がそう続けたので、老人たちの表情が一斉に曇った。
「どういうところが、違うので?」
「見ての通り、私は女だ」
姫騎士は言う。
「じっくり見ねえとわかんなかっただよ」
造り酒屋の爺がつぶやき、元金貸しから睨みつけられた。
「姫騎士は、古王の血と意志を継ぐ者。戦う相手は魔族のみ。私自身に害を及ばさぬ限り、人に刃を向けることはない」
と姫騎士は告げた。
「さようでございますか。しばらくお待ちください」
元金貸しが言い、老人三人は少し離れて小声で話し合う。
「ご宣託の騎士様は、姫騎士さんでいいんかな。町の大事は魔族ばかりではねえよ。人間も問題だ。この騎士様にはできねえこともあるんじゃあねえかい」
と元金貸し。
「でも、騎士様が来ると言われて、実際きた。この人だろう、町を救う騎士様は」
造り酒屋は言う。
「かもしれねえ。違うかもしれねえ。当たるも当たらぬもご宣託だ」
元金貸しは、さきほど造り酒屋が言った言葉を繰り返した。
「あたしは、あのお方だと思うね。実にいい目をしてる。強いよ、きっと」
老婆が言う。
「あんたに男の目利きはできても、女はどうだか」
元金貸しが言う。
「いい女は惹かれ合うんだよ」
「その言葉、信じていいのかのぉ、婆さん」
造り酒屋が尋ねる。
「いいともさ。この御方が町を救う騎士様だ」
老婆は自信満々に言い切った。
「そうと決めたら、お願いしようぜ」
元金貸しが大きな声で言う。
「さきほどから、何を話し合っている? 用件は何なのだ?」
姫騎士が言った。
「騎士様、なにとぞこの町を助けてください。魔族に怯えた人々の心は荒み、日々、争いが起きております。このままでは町は滅びてしまいます」
老婆が言う。
「あいわかった。庶民の難儀を救うのも私の務めである。できる限りのことはしよう」
姫騎士はあっさりと承諾した。
「ああ、よかった。姫騎士様、うちに泊まってください。身の回りのことは私と孫娘がお世話させていただきます」
老婆が言う。
「うちからはワインをお持ちしましょう。お好みなら、蒸留酒もごぜえますよ」
造り酒屋が言う。
「こんな田舎に蒸留酒もあるのか」
「うちの蒸留器でこさえた奴でさあ」
「ほお、それは、どんな味か楽しみだな」
姫騎士は言う。彼女は酒好きらしかった。
「そして、これは旧教徒のみんなが出し合った金。身の周りの品の買い物にでも使ってください」
元金貸しの老人が3枚の金貨を姫騎士に差し出す。
「それとは別に、これはわしからです。あんたに託します。町を救ってくだせえ」
元金貸しがが金の入った布袋を姫騎士に差し出す。
「ご老人、こんなには頂けない。当座の路銀は尽きているが、私は姫でもある。野盗あがりの用心棒ではないのだ。もらった銭金のために働くような真似はできない」
姫騎士の声音には微かに怒りが感じられた。
「そうではないのです。姫騎士様。わしは長らく金貸しをして暮らしてきました。この町のおかげで生きてこられた。いろんな人を泣かせてもきたが、この町がなければ生きていけねえんです。いま、わしはご覧の通り年老いております。死の日は、裁きの日は近い。ここで今までの罪を幾分なりとも償っておかねえと、きっと、きっと、わしは地獄に堕ちるでしょう。だから、金を捨てるんです。これは報酬ではなく、喜捨です」
元金貸しが言う。
「そういう金なら、教会に差し出したらよかったのに」
「それができねえんです。わしの金のみんなのものにしたくねえ。わしの金が誰に手渡されるのかちゃんと見届けたい。この金はわしの生命ですからな。我ながら、業が深いのです……」
「そういう告白も教会でしたらいかがですかな。しかし、あなたの生命、あなたの業、お預かりしましょう。いちど、あなたとは酒を酌み交わしたいですな、ご老人」
「いえいえ、最近は、大して飲めやしません」
「そうですか。それは残念」
「では、騎士様、いや姫騎士様、まいりましょう」
そう言った老婆の動きが止まる。
老婆の目は馬上の姫騎士の後を通り過ぎていく黒い甲冑の男の姿を追っていた。傷ひとつない肩当てには新王朝の紋章が白く描かれていた。姫騎士より頭二つぶんは大きな美丈夫である。
老婆は思う。しまった、この立派なお方がご宣託にあった騎士様ではないのか。町を救ってくださる方なのではないかと。
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