2 / 91
処理係の伊藤さん
しおりを挟む「主任、今日の分の処理、終わりました」
「おう、お疲れさん」
書きかけの書類はそのままに、ちらりと顔を上げて伊藤さんの姿を確認する。
いつも通りの姿。少ないとは言え、事故がまったくないとも言い切れないのが現場だ。怪我をしてないこともそうだが、何かイレギュラーが起こってないか確認するのも管理者の仕事の内だ。
続いて伊藤さん以外のメンバーが全員揃ってソファで寛いでいるのを確認する。姿を見る限りではトラブルはなさそうだ。
「新人はどうだい? 現場には慣れそうかい?」
今、一番心配なのは、三日前に入ったばかりの新人だ。
初日は説明をしながら先輩作業員が付きっ切りで教えるが、二日目からは近くに居るというだけで作業自体は一人でやってもらう。もちろん、近くにいるのは間違ったやり方をしていないかの確認と、疑問があれば質問に答えれるようにだ。
しかし、それだっていつまでもというわけには行かない。
一カ所に何人も張り付いては、チーム全体の作業効率が下がるからだ。
「問題ないと思いますがね、スピードは、まぁ、そのうち上がるでしょうし」
伊藤さんは、もう何年もいるベテラン作業員だ、新人の面倒を見たことも何度もある。その伊藤さんが問題ないというなら、問題ないのだろう。
「スピードか、その辺はメンバーの中で割り振りをしてくれ。くれぐれも無理はさせないようにな」
「了解」
聞きたいことは聞いたし、書類に戻ろうかと思ったが、まだ伊藤さんは机の前を動かない。
「ん? 何かあるのか?」
「あーっと、新人絡みというか、ちょっと確認しておきたいんですがね」
顔を上げて会話に応じる。しかし伊藤さん自身が、新人は問題ないと言ったばかりだが、何か心配事でもあるのだろうか。
「新人が増えたのはいいんですがね。ここ最近は、ほら、処理する量がね。去年より大分増えてるじゃないですかい。これからも新人がどんどん増えるならいいんですがね。そのあたりどうなのかと思いましてね」
持ったままだったペンを置いて、体を起こす。
「まあなあ、言いたい事は分かるさ。量が増えてるのも確認しているし、他の、回収してくる班からもな、人数増やせって話は出てるんだ」
頭の痛い話だ。
「募集も出してはいるんだがな、なかなか集まらないのが実情でな」
実際、給料は低い。安定との引き換えと言えなくもないが、同じく募集かけてる民間企業ならもっともらえるのに、わざわざ低い仕事に就きたいというやつがどれだけいるか。
課長からも、毎日の処理量を整理して出せと言われたし、どうもそれを使って上と交渉しているようではあるんだが、いい話は聞かないしな。
「新人が来てからも募集は続いてるし、増やすつもりはあると思うんだがな。いつ、とはな。応募が来てからじゃないとなんとも言えん」
伊藤さんが顔をしかめる。
始めは分からなかったが、最近は表情も随分と読み取れるようになってきた。
「まあ、増やすつもりはあるってことだ。っと、それよりいいのか?今日もジムに行くんだろ?」
ソファで休んでたメンバーも帰り支度を終わらせてる。
このまま話込んでいても、帰りずらいだろう。
「ジムは日課ですがね、体を動かさないと太っちまうんで」
伊藤さんもメンバーの帰り支度を確認したのか、そう言って帰り支度を始める。
「ハハッ。ダイエットにしてはハードだね。ベンチプレス、今何キロだい?」
「この前、やっと百キロになったとこですよ」
「それはすごいね」
「じゃあ、これで」
「はい、お疲れさん」
作業員が退出する。自分も書類をさっさと終わらせて帰りたいものだ。
しかし、太る、太るか。スライムも太るもんかね。ゴミ処理は、ゴミを取り込んで溶かすものだから、それを食事と言い換えれば、太るのかもしれない。なにせ一日中食べ続けてるようなものだから。でも太ったスライムってどうなるんだ?始めから丸い体だろうに。
んー、よくわからんな。とりあえず書類を片付けるか。
市役所環境課。ゴミの回収と処理を担当するこの部署では、ゴミ処理の作業員はスライム種族に限定されている。給料が低いことより、種族限定の募集であることが人員追加の大きな障害となっているが、未だ解決策は見つかっていない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる