ある魔法都市の日常

工事帽

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処理係の伊藤さん

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「主任、今日の分の処理、終わりました」

「おう、お疲れさん」

 書きかけの書類はそのままに、ちらりと顔を上げて伊藤さんの姿を確認する。
 いつも通りの姿。少ないとは言え、事故がまったくないとも言い切れないのが現場だ。怪我をしてないこともそうだが、何かイレギュラーが起こってないか確認するのも管理者の仕事の内だ。
 続いて伊藤さん以外のメンバーが全員揃ってソファで寛いでいるのを確認する。姿を見る限りではトラブルはなさそうだ。

「新人はどうだい? 現場には慣れそうかい?」

 今、一番心配なのは、三日前に入ったばかりの新人だ。
 初日は説明をしながら先輩作業員が付きっ切りで教えるが、二日目からは近くに居るというだけで作業自体は一人でやってもらう。もちろん、近くにいるのは間違ったやり方をしていないかの確認と、疑問があれば質問に答えれるようにだ。
 しかし、それだっていつまでもというわけには行かない。
 一カ所に何人も張り付いては、チーム全体の作業効率が下がるからだ。

「問題ないと思いますがね、スピードは、まぁ、そのうち上がるでしょうし」

 伊藤さんは、もう何年もいるベテラン作業員だ、新人の面倒を見たことも何度もある。その伊藤さんが問題ないというなら、問題ないのだろう。

「スピードか、その辺はメンバーの中で割り振りをしてくれ。くれぐれも無理はさせないようにな」

「了解」

 聞きたいことは聞いたし、書類に戻ろうかと思ったが、まだ伊藤さんは机の前を動かない。

「ん? 何かあるのか?」

「あーっと、新人絡みというか、ちょっと確認しておきたいんですがね」

 顔を上げて会話に応じる。しかし伊藤さん自身が、新人は問題ないと言ったばかりだが、何か心配事でもあるのだろうか。

「新人が増えたのはいいんですがね。ここ最近は、ほら、処理する量がね。去年より大分増えてるじゃないですかい。これからも新人がどんどん増えるならいいんですがね。そのあたりどうなのかと思いましてね」

 持ったままだったペンを置いて、体を起こす。

「まあなあ、言いたい事は分かるさ。量が増えてるのも確認しているし、他の、回収してくる班からもな、人数増やせって話は出てるんだ」

 頭の痛い話だ。

「募集も出してはいるんだがな、なかなか集まらないのが実情でな」

 実際、給料は低い。安定との引き換えと言えなくもないが、同じく募集かけてる民間企業ならもっともらえるのに、わざわざ低い仕事に就きたいというやつがどれだけいるか。
 課長からも、毎日の処理量を整理して出せと言われたし、どうもそれを使って上と交渉しているようではあるんだが、いい話は聞かないしな。

「新人が来てからも募集は続いてるし、増やすつもりはあると思うんだがな。いつ、とはな。応募が来てからじゃないとなんとも言えん」

 伊藤さんが顔をしかめる。
 始めは分からなかったが、最近は表情も随分と読み取れるようになってきた。

「まあ、増やすつもりはあるってことだ。っと、それよりいいのか?今日もジムに行くんだろ?」

 ソファで休んでたメンバーも帰り支度を終わらせてる。
 このまま話込んでいても、帰りずらいだろう。

「ジムは日課ですがね、体を動かさないと太っちまうんで」

 伊藤さんもメンバーの帰り支度を確認したのか、そう言って帰り支度を始める。

「ハハッ。ダイエットにしてはハードだね。ベンチプレス、今何キロだい?」

「この前、やっと百キロになったとこですよ」

「それはすごいね」

「じゃあ、これで」

「はい、お疲れさん」

 作業員が退出する。自分も書類をさっさと終わらせて帰りたいものだ。
 しかし、太る、太るか。スライムも太るもんかね。ゴミ処理は、ゴミを取り込んで溶かすものだから、それを食事と言い換えれば、太るのかもしれない。なにせ一日中食べ続けてるようなものだから。でも太ったスライムってどうなるんだ?始めから丸い体だろうに。
 んー、よくわからんな。とりあえず書類を片付けるか。


 市役所環境課。ゴミの回収と処理を担当するこの部署では、ゴミ処理の作業員はスライム種族に限定されている。給料が低いことより、種族限定の募集であることが人員追加の大きな障害となっているが、未だ解決策は見つかっていない。


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