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葬儀屋の金田さん2
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またやってしまった。
私は事務所でジットリと落ち込んでいた。
椅子に座ったまま頭を抱える。
もうこのまま溶けてしまいたい。
いつもいつも金田さんに迷惑を掛けて……。
目の前にコトリとカップが置かれる。
「神田さん、お茶を入れましたよ。どうぞ」
そう言ってくれたのは金田さんだった。
ああ、私が落ち込んでいる間に、また金田さんに迷惑を掛けてしまった。
余計な魔力を使わせただけでも申し訳ないのに、お茶まで入れてもらって。
このまま身を縮めていたら石になって忘れてくれないだろうか。
浄化魔法を使おうとする度に迷惑をかける、こんなヤツのことなんて。
私も昔はこうではなかった。
神殿に勤めていた頃は、いや、あの事件が起きる前までは。
神殿騎士として、戦う訓練も、魔法の訓練も、日常的に行っていて、何も問題はなかった。
だが、あの事件が起こった。
アンデッドによる大量殺人。
村一つを滅ぼしたアンデッドは、村人の死体を使役して、討伐に赴いた神殿騎士に対抗してきた。
酷い戦いだった。
敵は村人の姿のまま、いや、殺された姿のままの村人たちだった。
大人も子供も、男性も女性も、その村で暮らしていた人々、全てが敵だった。
始めは浄化魔法で、だが途中で魔力が尽きた。数が多すぎた。
それからはメイスで。苦悶に歪んだままの顔へ、メイスを振り下ろし続けた。
それからだ。
浄化魔法を使おうとする度に、あの時のことを思い出す。
それは神殿を辞めて、この街に移り住んた後も変わらない。
心の病だという。
時間が解決してくれると。
だが、戦えなくなって神殿を辞めたのを機に、縁もゆかりもないこの街に移り住んでさえ、あのときの記憶からは逃れられない。
気づくと金田さんの姿はなく、目の前のカップだけがあった。
ゆっくりと手を伸ばして、それを口にする。
「甘い」
元は暖かかったのだろうか、それとも冷たかったのだろうか。
私が頭を抱えている間に、すっかり熱を失ったその飲み物は、ただ甘かった。
今日は帰ろう。帰って、明日、金田さんに謝ろう。そう思って椅子から立ち上がった時に、ドアが開いた。
「お? 丁度よかった」
そう言って入って来たのは中本さんだった。
ここ、中本葬儀社の社長。こんな私を雇ってくれた、金田さんの半分くらいは恩のある人だ。
「神田、墓地でゾンビが発生したんだよ。自意識のない野良ゾンビだから浄化してきてくれ」
……ああ。
ゾンビは自然に発生するアンデットの中でもポピュラーなものの一つだ。
死霊術で魂を定着させた場合とは違い、自然発生したゾンビに自意識はない。動くだけの死体。
それだけに、発生する場所を制限し、発生した時に迅速に退治するために死体は墓地に集められる。
だから、墓地でゾンビが発生するのは当然のこと。
そして、浄化しなければいけないのも当然のこと。
浄化を。
浄化を。
浄化を。
「おや、社長、お帰りなさい」
後ろから金田さんの声が聞こえる。
「金田も居たか、墓地でゾンビの浄化だ。神田と一緒に行ってきてくれ」
私の手にはメイスがある。
「ええ? 直ぐにですか?」
「そりゃあ直ぐにだよ。墓地から出る前に浄化してくれよ。あと神田の後片付けも」
浄化を。
浄化を。
浄化を。
「くすくすくす」
ゾンビは浄化を。
メイスを握りしめて、私は事務所を飛び出した。
「ぶっ潰してやらーーーーー!!!」
私は事務所でジットリと落ち込んでいた。
椅子に座ったまま頭を抱える。
もうこのまま溶けてしまいたい。
いつもいつも金田さんに迷惑を掛けて……。
目の前にコトリとカップが置かれる。
「神田さん、お茶を入れましたよ。どうぞ」
そう言ってくれたのは金田さんだった。
ああ、私が落ち込んでいる間に、また金田さんに迷惑を掛けてしまった。
余計な魔力を使わせただけでも申し訳ないのに、お茶まで入れてもらって。
このまま身を縮めていたら石になって忘れてくれないだろうか。
浄化魔法を使おうとする度に迷惑をかける、こんなヤツのことなんて。
私も昔はこうではなかった。
神殿に勤めていた頃は、いや、あの事件が起きる前までは。
神殿騎士として、戦う訓練も、魔法の訓練も、日常的に行っていて、何も問題はなかった。
だが、あの事件が起こった。
アンデッドによる大量殺人。
村一つを滅ぼしたアンデッドは、村人の死体を使役して、討伐に赴いた神殿騎士に対抗してきた。
酷い戦いだった。
敵は村人の姿のまま、いや、殺された姿のままの村人たちだった。
大人も子供も、男性も女性も、その村で暮らしていた人々、全てが敵だった。
始めは浄化魔法で、だが途中で魔力が尽きた。数が多すぎた。
それからはメイスで。苦悶に歪んだままの顔へ、メイスを振り下ろし続けた。
それからだ。
浄化魔法を使おうとする度に、あの時のことを思い出す。
それは神殿を辞めて、この街に移り住んた後も変わらない。
心の病だという。
時間が解決してくれると。
だが、戦えなくなって神殿を辞めたのを機に、縁もゆかりもないこの街に移り住んでさえ、あのときの記憶からは逃れられない。
気づくと金田さんの姿はなく、目の前のカップだけがあった。
ゆっくりと手を伸ばして、それを口にする。
「甘い」
元は暖かかったのだろうか、それとも冷たかったのだろうか。
私が頭を抱えている間に、すっかり熱を失ったその飲み物は、ただ甘かった。
今日は帰ろう。帰って、明日、金田さんに謝ろう。そう思って椅子から立ち上がった時に、ドアが開いた。
「お? 丁度よかった」
そう言って入って来たのは中本さんだった。
ここ、中本葬儀社の社長。こんな私を雇ってくれた、金田さんの半分くらいは恩のある人だ。
「神田、墓地でゾンビが発生したんだよ。自意識のない野良ゾンビだから浄化してきてくれ」
……ああ。
ゾンビは自然に発生するアンデットの中でもポピュラーなものの一つだ。
死霊術で魂を定着させた場合とは違い、自然発生したゾンビに自意識はない。動くだけの死体。
それだけに、発生する場所を制限し、発生した時に迅速に退治するために死体は墓地に集められる。
だから、墓地でゾンビが発生するのは当然のこと。
そして、浄化しなければいけないのも当然のこと。
浄化を。
浄化を。
浄化を。
「おや、社長、お帰りなさい」
後ろから金田さんの声が聞こえる。
「金田も居たか、墓地でゾンビの浄化だ。神田と一緒に行ってきてくれ」
私の手にはメイスがある。
「ええ? 直ぐにですか?」
「そりゃあ直ぐにだよ。墓地から出る前に浄化してくれよ。あと神田の後片付けも」
浄化を。
浄化を。
浄化を。
「くすくすくす」
ゾンビは浄化を。
メイスを握りしめて、私は事務所を飛び出した。
「ぶっ潰してやらーーーーー!!!」
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