ある魔法都市の日常

工事帽

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葬儀屋の神田さん

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 神田さんの後を追いかけて走る。
 この年で全力疾走は勘弁してほしいが、神田さんを一人で放っておくわけにもいかない。
 かなりのスピードで走り続けるのは、流石は元神殿騎士といったところか。

 神殿に入れるのは、神聖魔法に適正のある者だけだと聞いている。
 神殿騎士とはその中でも戦いに長けた者達がなるもので、日々を訓練で過ごし、万が一の際には戦いに赴くという。

 神田さんは、神殿を辞めてこの街に来てからは、毎日訓練しているわけではない。それでも何かにとメイスを振り回しているから、体力はあるのだ。
 一方こっちは年をとった魔法職である。元々、運動には縁がない。魔法を使って底上げしても、ついて行くだけで精一杯だ。

 葬儀屋という立場上、仕事に便利なようにと、墓地にほど近い場所に事務所がある。そのおかげで、神田さんを見失う前に墓地についた。

 申し訳程度に墓地を囲んである柵を、神田さんは身軽に飛び越えた。
 その後に続いて、魔法で軽くしていた体重を更にゼロに近くにして飛び越える。見た目だけなら神田さんと遜色がないはずだ。魔力を使っている分、こっちは大赤字だが。

 墓地の中には誰もいない。
 日によっては葬儀で多くの人が埋葬に訪れることもある墓地は、大半の日は今日のように誰もいない。
 そんな中を神田さんは真っ直ぐに駈けて行く。
 ゾンビの居場所に確信があるのか、あるのだろう、元神殿騎士の肩書は伊達じゃない。アンデットを見つけ出す術の一つや二つはあるはずだ。

 その先に動く何かが見える。
 駈けるスピードをそのまま、神田さんが飛び跳ねる。

「死ねえええええーーーーー!!!」

 雄叫びと共にメイスが振り下ろされた。


「死ねっ、くたばれっ。潰れろ、潰れてしまえっ」

 とっくに動かなくなったゾンビ相手に尚もメイスを振り下ろし続けている。
 そんな神田さんの背後からこっそり近づいて肩に手を触れる。

 ドレインタッチ。

 生命力と共に魔力を吸いとるアンデットの特殊魔法で神田さんの抵抗力を奪う。続けて、吸い取った魔力を使った精神魔法で、強制的に気持ちを鎮める。
 静かになった神田さんは、ゆっくりと膝をつき、頭を抱えて丸まった。

「また。また、やってしまった……」

 そう言って丸くなる神田さん。彼女は躁鬱が激しい。
 聞いた話だと、この街に来る前の、神殿騎士時代のトラウマだということだ。この感じだと、また半日くらいは動こうとしないだろう。

「終わりましたかい」

 見れば墓地の管理人が立っていた。相変わらず寒々しいガイコツ姿だ。

 墓地の管理人がアンデットなのは理由がある。
 墓地は遺体を葬る場所である。
 同時に、墓地は自然発生するアンデットを封じ込めるための空間でもある。

 もし、管理人が命ある者だった場合、発生したアンデットは真っ先に管理人を襲うだろう。自我のないアンデットの本能のようなものだ。
 しかし、管理人がアンデットだった場合、襲う相手のいないアンデットは、目的もなくうろつくだけだ。

 そのための墓地という空間である。
 墓地の周囲は柵に囲まれて、周囲とは区切られている。
 自然発生するアンデットのほとんどはゾンビだ。柵を登って外に出る力も、知恵もない。

 うろついた結果、唯一の出入り口である門から墓地を出ることになれば、そこで人の気配を見つけて襲うこともある。それでも、墓地の外に一直線に向かうわけでもない。うろついた結果、偶然に近い形で外に出る。その間、かなりの時間が稼げる。

 墓地の管理人は、その時間を利用してアンデット発生を連絡。浄化能力を持った人員が派遣されることになる。

「ええ、見ての通りです」

 ぐちゃぐちゃに潰れたものと、それの上でうずくまる神田さんが居る。

「じゃあ、死体は埋め戻しておきますんで、嬢ちゃん、退かせてくれません?」
「……そうですね」

 時刻は夕方。神田さんが動く気配はない。
 さて、どうやって連れて帰ろうか。
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