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6.異世界少女は癒されたい
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アリスは『木の洞ダンジョン』を出た。
ダンジョンを出た後は、村を素通りして道へ出る。
村から出る道は一本しかない。
その道は『採掘場ダンジョン』でも『木の洞ダンジョン』でもなく、森の外に続くものだけだ。ネクロに聞いたところだと、最初の街に続いているそうだ。
しばらく歩くと森の外に出る。草原と白い獣、申し訳程度の道。そこは、確かに最初の街のすぐ外にあった草原だった。
以前に見た時と同じ、慣れない武器を振るうプレイヤーが多くいる。
全員が初心者、そう断言出来る程に動きは拙く、魔法も弱い。だが、そこには男女どちらのプレイヤーもいるし、男性プレイヤーもガテン系ではない。
やっと一息つけた気分になってのんびりと辺りを見る。
どこを見てもガテン系しかいない空間はもう嫌だ。
細い道を街へと向かいながら見ていると、一際背の高いプレイヤーが目に止まる。
木の杭のように尖った体形をしている女性プレイヤーは、手に槍を持って戦っていた。細長い彼女が細長い武器を持っているせいか、余計に尖って見える。赤茶けた髪も短くてツンツンと尖っている。
「ん? 何か用かい?」
立ち止まって見ているのに気づかれたようで、細長い人が話掛けてくる。
「あなた、槍よりも長いのね」
彼女の手に持った槍は、彼女自身よりも短い。
それを言ったら、引きつった笑顔で返された。
細長い彼女、サシミンの話によると、背の高さはコンプレックスだから話題にしないで欲しい、らしい。人形の体なのだから好きに変えればいい気もするが、運営の方針で本来の体格からほとんど変えることは出来ないという。
それじゃあと、ついでに槍を選んだ理由を聞いてみた。この草原で戦っているプレイヤーの半分くらいは剣を持っている。残りは短剣と弓で、槍と同じくらい少数派だ。
「海に出ようと思ってて」
大きな水たまりだと思っていた岩場の奥は、海なのだそうだ。もう一つ、ファーストの西側に進むと港町もあるらしい。
彼女は元の世界でも海のすぐ近くに住んでいる。そのことで漁師は身近な存在ではあるものの、漁船には一度も乗せてもらったことがないそうだ。
こっちの世界で船に乗って漁をしてみたい、そのために選んだのが槍だったという。
漁の方法の一つに、返しが付いた槍を使って、魚を突き刺して取るのがあるのだと楽しそうに話てくれた。
獲れたての魚、新鮮な貝、焼いたものも煮たものも美味しいが、新鮮なら生で食べるのが一番だという言葉にとても興味が沸く。今度は港町にも行ってみよう。
サシミンと別れてファーストの街に入る。
さっきの話で何か食べたい気分になるが、生憎、コロンのマーカーはこの街にない。
ならば他の料理人から手に入れるか、となると問題が一つある。
この世界では金銭は実物が存在しない。
取引はマナの波長を変えたやり取りで行われる。取引によってプレイヤーに張り付けられた金額の値が減り、取引相手の金額が増える。
この話をコロンに聞いたときには「メニューを開いてステータスを出すと残高が載ってる」と言っていた。意味がわからない。
正確な意味は分からないが、鑑定で見れる情報以外にも、アバターに張り付いている情報がいくつもあるということなのだろう。
その話を聞いた時は宿の部屋にコロンと二人だけの時だったから、実際のお金のやり取りを確認することは出来なかった。
鑑定のように一定の波長のマナをぶつければいいだけなら問題ないが、所持金はどんな形で張り付いているのか、書き換えの条件、必要な金額の通知、足りなかった場合の判定は誰が行うのか。少し考えただけでも非常に面倒臭い。
……とは言っても、この世界のルールを知ることは必要なことだ。
その建物の中には、大勢のプレイヤーが居た。
壁一面に貼られた依頼表の前にいるもの、奥のカウンターで話しをする者、どちらにも行かずに仲間らしきプレイヤーと話し合いをしている者。
ここは『ギルド』と呼ばれる場所だ。
プレイヤーは始めにここで職業を決める。そして、依頼を受ける。依頼を達成すれば報酬が払われる。報酬は多くの場合は金銭だが、稀にアイテムや権利が報酬になることもあるという。権利というのは、どこそこの設備を使える権利や、特定の店で安く買える権利などだ。
ギルドに来たのは依頼を受けるため、ではない。プレイヤーが行う金銭のやり取りを調べるためだ。
奥のカウンターが見える位置に立ち、マナの流れを観察する。
プレイヤーがカウンターに近づく、カウンターの奥に座っている人形から鑑定に近いマナの波動が一つ。プレイヤーがカウンターの上にウサギの毛皮を並べる。数が確認され、人形からマナの波動が、一つ、二つ、三つ。プレイヤーがカウンターを離れる。
数人の流れを見ていると、違うのは最後の波動と、その前の波動。最初の二つは全て同じ波をプレイヤーに当てている。
試しに、初めの波動をマネして見る。
『受注中のクエスト:【1】ウサギの毛皮の納品。5枚』
鑑定に近い波動の答えはこれだ。依頼内容の確認に使っている。
そうなると……。
何度かの実験で、残りの波動は「支払い」「金額」「依頼完了」を示すことが分かった。プレイヤー毎に違うのは「金額」「依頼完了」だった。依頼完了は複数の依頼を受けている時の対応だろう、どの依頼が終わったかを示す番号がついている。
プレイヤーがお金を受け取る時には、受け取るプレイヤー側からの動作は必要ないようだ。マナの波動は全てカウンターの奥に座っていた人形が行っていた。
確認が終わったところでギルドを出る。背後で「俺が受けた依頼消えてるんだけど」「あれ、私こんなに金持ってたっけ?」という声がしても私には関係のないことだ。
ギルドを出た足で今度は屋台が並ぶ一角に行く。
プレイヤーが払う場合の確認のためだ。
客がいる露天を確認しながら、ゆっくり歩く。「効果は?」「AGI微UP」「じゃあ10フルーくらい?」「ふざけんな30だ」「mjd」。翻訳魔法を通しても意味がハッキリしない言葉が混じる。近い言葉がないのか、翻訳しきれていない。
しばらくの観察で、支払うプレイヤーがマナの操作をしていることが分かった。
それは分かったが、支払いの後で渡る品物は、手で渡すのではなく収納に直接入るようだ。意味が分からない。手渡しで十分だろうに、なぜこんな無駄に高度な方法を取っているのか。
観察していた全員がそうなのだから、この世界のルールの一つであるのだろう。
(困ったわ)
お金のやり取りは理解出来たが、品物の転送は難しい。
取引の度に大量のマナを使って転送していては、無駄が多すぎる。こうなっては、仕方がない。
通りすがりの女性プレイヤーを捉まえて、その瞳を、その奥を覗き込む、魂の波長を弄る。私の言葉を染み込ませる。
「肉串を買ってきてちょうだい。沢山ね?」
ついでマナの波長を変えて、適当な金額を押し付ける。プレイヤーのようにステータスとか残高とかは関係ない。そういう波長を流すだけだ。
そうしてプレイヤーの収納から出てきた大量の食事は、私の収納に収まった。
*
「どうしたの? ぼーっとして」
「あれ? えっと、何しようとしてたのか分からなくなって」
「どうしたのよ、疲れてるの? 屋台の区画にいるんだから、料理を買いに来たんじゃないの?」
「そうよね。どうしたんだろ、私」
「おじさん肉串ちょうだい」
「ん? さっきのねーちゃんか。まだ要るのか? 今作ってるからちょっと待ってろ」
「え? まだって、私まだ買ってないよ?」
「何言ってんだ、さっき出来てた奴を全部買い占めていったじゃねーか」
「え? うそ」
不思議に思ってアイテムボックスを確認しても、中には一本の肉串も入ってはいない。
疲れているっぽいし、消耗品の調達が終わったらログアウトしようと思う。
「ほい、一本25フルーでいいぞ」
「うんありがと」
取引ウィンドウを出して金額を入力する。
「あれ? なんで?」
所持金の額が見たこともない値になってることに気づいたのは、その時だった。
ダンジョンを出た後は、村を素通りして道へ出る。
村から出る道は一本しかない。
その道は『採掘場ダンジョン』でも『木の洞ダンジョン』でもなく、森の外に続くものだけだ。ネクロに聞いたところだと、最初の街に続いているそうだ。
しばらく歩くと森の外に出る。草原と白い獣、申し訳程度の道。そこは、確かに最初の街のすぐ外にあった草原だった。
以前に見た時と同じ、慣れない武器を振るうプレイヤーが多くいる。
全員が初心者、そう断言出来る程に動きは拙く、魔法も弱い。だが、そこには男女どちらのプレイヤーもいるし、男性プレイヤーもガテン系ではない。
やっと一息つけた気分になってのんびりと辺りを見る。
どこを見てもガテン系しかいない空間はもう嫌だ。
細い道を街へと向かいながら見ていると、一際背の高いプレイヤーが目に止まる。
木の杭のように尖った体形をしている女性プレイヤーは、手に槍を持って戦っていた。細長い彼女が細長い武器を持っているせいか、余計に尖って見える。赤茶けた髪も短くてツンツンと尖っている。
「ん? 何か用かい?」
立ち止まって見ているのに気づかれたようで、細長い人が話掛けてくる。
「あなた、槍よりも長いのね」
彼女の手に持った槍は、彼女自身よりも短い。
それを言ったら、引きつった笑顔で返された。
細長い彼女、サシミンの話によると、背の高さはコンプレックスだから話題にしないで欲しい、らしい。人形の体なのだから好きに変えればいい気もするが、運営の方針で本来の体格からほとんど変えることは出来ないという。
それじゃあと、ついでに槍を選んだ理由を聞いてみた。この草原で戦っているプレイヤーの半分くらいは剣を持っている。残りは短剣と弓で、槍と同じくらい少数派だ。
「海に出ようと思ってて」
大きな水たまりだと思っていた岩場の奥は、海なのだそうだ。もう一つ、ファーストの西側に進むと港町もあるらしい。
彼女は元の世界でも海のすぐ近くに住んでいる。そのことで漁師は身近な存在ではあるものの、漁船には一度も乗せてもらったことがないそうだ。
こっちの世界で船に乗って漁をしてみたい、そのために選んだのが槍だったという。
漁の方法の一つに、返しが付いた槍を使って、魚を突き刺して取るのがあるのだと楽しそうに話てくれた。
獲れたての魚、新鮮な貝、焼いたものも煮たものも美味しいが、新鮮なら生で食べるのが一番だという言葉にとても興味が沸く。今度は港町にも行ってみよう。
サシミンと別れてファーストの街に入る。
さっきの話で何か食べたい気分になるが、生憎、コロンのマーカーはこの街にない。
ならば他の料理人から手に入れるか、となると問題が一つある。
この世界では金銭は実物が存在しない。
取引はマナの波長を変えたやり取りで行われる。取引によってプレイヤーに張り付けられた金額の値が減り、取引相手の金額が増える。
この話をコロンに聞いたときには「メニューを開いてステータスを出すと残高が載ってる」と言っていた。意味がわからない。
正確な意味は分からないが、鑑定で見れる情報以外にも、アバターに張り付いている情報がいくつもあるということなのだろう。
その話を聞いた時は宿の部屋にコロンと二人だけの時だったから、実際のお金のやり取りを確認することは出来なかった。
鑑定のように一定の波長のマナをぶつければいいだけなら問題ないが、所持金はどんな形で張り付いているのか、書き換えの条件、必要な金額の通知、足りなかった場合の判定は誰が行うのか。少し考えただけでも非常に面倒臭い。
……とは言っても、この世界のルールを知ることは必要なことだ。
その建物の中には、大勢のプレイヤーが居た。
壁一面に貼られた依頼表の前にいるもの、奥のカウンターで話しをする者、どちらにも行かずに仲間らしきプレイヤーと話し合いをしている者。
ここは『ギルド』と呼ばれる場所だ。
プレイヤーは始めにここで職業を決める。そして、依頼を受ける。依頼を達成すれば報酬が払われる。報酬は多くの場合は金銭だが、稀にアイテムや権利が報酬になることもあるという。権利というのは、どこそこの設備を使える権利や、特定の店で安く買える権利などだ。
ギルドに来たのは依頼を受けるため、ではない。プレイヤーが行う金銭のやり取りを調べるためだ。
奥のカウンターが見える位置に立ち、マナの流れを観察する。
プレイヤーがカウンターに近づく、カウンターの奥に座っている人形から鑑定に近いマナの波動が一つ。プレイヤーがカウンターの上にウサギの毛皮を並べる。数が確認され、人形からマナの波動が、一つ、二つ、三つ。プレイヤーがカウンターを離れる。
数人の流れを見ていると、違うのは最後の波動と、その前の波動。最初の二つは全て同じ波をプレイヤーに当てている。
試しに、初めの波動をマネして見る。
『受注中のクエスト:【1】ウサギの毛皮の納品。5枚』
鑑定に近い波動の答えはこれだ。依頼内容の確認に使っている。
そうなると……。
何度かの実験で、残りの波動は「支払い」「金額」「依頼完了」を示すことが分かった。プレイヤー毎に違うのは「金額」「依頼完了」だった。依頼完了は複数の依頼を受けている時の対応だろう、どの依頼が終わったかを示す番号がついている。
プレイヤーがお金を受け取る時には、受け取るプレイヤー側からの動作は必要ないようだ。マナの波動は全てカウンターの奥に座っていた人形が行っていた。
確認が終わったところでギルドを出る。背後で「俺が受けた依頼消えてるんだけど」「あれ、私こんなに金持ってたっけ?」という声がしても私には関係のないことだ。
ギルドを出た足で今度は屋台が並ぶ一角に行く。
プレイヤーが払う場合の確認のためだ。
客がいる露天を確認しながら、ゆっくり歩く。「効果は?」「AGI微UP」「じゃあ10フルーくらい?」「ふざけんな30だ」「mjd」。翻訳魔法を通しても意味がハッキリしない言葉が混じる。近い言葉がないのか、翻訳しきれていない。
しばらくの観察で、支払うプレイヤーがマナの操作をしていることが分かった。
それは分かったが、支払いの後で渡る品物は、手で渡すのではなく収納に直接入るようだ。意味が分からない。手渡しで十分だろうに、なぜこんな無駄に高度な方法を取っているのか。
観察していた全員がそうなのだから、この世界のルールの一つであるのだろう。
(困ったわ)
お金のやり取りは理解出来たが、品物の転送は難しい。
取引の度に大量のマナを使って転送していては、無駄が多すぎる。こうなっては、仕方がない。
通りすがりの女性プレイヤーを捉まえて、その瞳を、その奥を覗き込む、魂の波長を弄る。私の言葉を染み込ませる。
「肉串を買ってきてちょうだい。沢山ね?」
ついでマナの波長を変えて、適当な金額を押し付ける。プレイヤーのようにステータスとか残高とかは関係ない。そういう波長を流すだけだ。
そうしてプレイヤーの収納から出てきた大量の食事は、私の収納に収まった。
*
「どうしたの? ぼーっとして」
「あれ? えっと、何しようとしてたのか分からなくなって」
「どうしたのよ、疲れてるの? 屋台の区画にいるんだから、料理を買いに来たんじゃないの?」
「そうよね。どうしたんだろ、私」
「おじさん肉串ちょうだい」
「ん? さっきのねーちゃんか。まだ要るのか? 今作ってるからちょっと待ってろ」
「え? まだって、私まだ買ってないよ?」
「何言ってんだ、さっき出来てた奴を全部買い占めていったじゃねーか」
「え? うそ」
不思議に思ってアイテムボックスを確認しても、中には一本の肉串も入ってはいない。
疲れているっぽいし、消耗品の調達が終わったらログアウトしようと思う。
「ほい、一本25フルーでいいぞ」
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