異世界少女は仮想世界で夢を見る

工事帽

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13.異世界少女は大工を雇う

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「どっしゃー」

 カコン。

「ちぇいやー」

 カコン。

「うりゃさー」

 カコン。

 全力で振りぬいた斧は、軽い音を立てながらも幹に食い込む。
 木の葉が刃のように降り注ぎ、蔦が体の自由を奪おうとするが、そんなものは無視して斧を叩き込む。やられる前にやる!

『ユース・トレント。樹木系の魔物、普段は動かないため木のように見えるが、近づくと蔦を飛ばして拘束した上で、枝で攻撃される。木材としては高級。別名、森の守護者』

「どっせーい」

 カッコン。

 何度目かの全力攻撃で、トレントは砕け、ドロップアイテムに変わる。

『トレント材』

 うん、今回は当たりだね。
 葉っぱがドロップしても、私には使い道がないから売るだけ、木材ならいろいろ作る材料になる。
 今まで使っていた木材よりも二つはランクが上の木材だもの、これを加工すればスキルレベルが上がりそうだ。

「あれ? アリスさん」

 森でトレントから木材を集めていたら、アリスさんが現れた。
 サードの街に入るクエストを手伝ってくれた女の子だ。
 私より小さくて綺麗な女の子、それなのになぜか「さん」付けをしてしまう不思議な雰囲気を持っている。
 スキル構成は魔法主体だと思うけど、よく分からない。前に見せてもらった魔法は、知らない魔法ばかりだったもの。

 アリスさんの話によると、家を建てれる人を探しているという。
 私も今の職業は「木工師」だし、次に転職が出来れば「大工」になれるけど、家は作れない。元々、木工細工をやりたくて取ったスキルだもの。大きな家の建て方なんて知らないし。
 あ、でも加工所にいる人たちなら出来るかも。
 私よりずっと前にサードに来た人たちで、大工に転職済みの人がほとんどだ、そんなに人数はいないけど、一人くらいはちゃんと「大工」出来る人がいると思う。

              *

 加工所は今日も盛況だ。なにしろ顔見知りしかいない。
 俺を含めても四人。今いないプレイヤーを含めても、この加工所に出入りするのは十人程度のものだ。
 なにしろ「大工」職は人気がない。
 それより手前の「木工師」であればもう少し多いが、ほとんどのプレイヤーは「樵」に転職してしまう。樵は斧スキルへの適正と、樹木系の敵への追加ダメージ特性を持つ戦闘職だ。一方で「大工」は木材の加工を中心にした生産職になる。

 生産職で人気があるのは回復薬や解毒剤が作れる「薬師」、一定時間のバフがつく「料理人」、武器や防具を作る「鍛冶師」だ。
 つまり戦闘に寄与する生産職が人気だ。そこに「大工」は含まれない。木の盾くらいなら作れるが、使うのは駆け出しの戦士くらいで、すぐに金属や魔物素材の盾に変えてしまう。

 では「大工」は何を作るのか。
 答えは「家」だ。
 といっても、この街でNPCからもらえるクエストは、家の補修くらいしかない。街の中に家を建てるには、土地を購入する必要がある。街の外ならば建てたところで、数日で魔物に壊される。
 そんなわけで「大工」は不人気職なのだ。

 では逆に、今「大工」のプレイヤーはなぜ「大工」を選んだのか。
 趣味だ。
 現実世界では日曜大工だの、DIYだのといっても、やるには相応の作業場所が必要だ。郊外の一軒家に住んでいるならともかく、生活に便利な都市部で作業場所を確保するのは容易ではない。
 つまりは、現実では出来ない趣味をこのゲーム内でやっているにすぎない。

「こんにちはー。あ、いたいた。クラフトさん」
「おう」

 作業の手を止める。
 加工所に入ってきたのは、数日前にサードの街にきたカグヤだ。木工細工をやりたいといっている女性だ。ダウンの村にいた頃にも、村の加工所で顔を合わせている。
 戦闘職の「樵」を目指しているプレイヤーは、加工所になんか来ずにひたすら木を切ってる。それはダウンの村でも同じだ。加工所に出入りしているだけで自然と顔見知りになる。

「どうしたよ」
「んーとね、こっちのアリスさんが、家を建てれる人を知らないかって」

 カグヤの隣にいたのは、ローブ姿で顔を隠した女性だった。フードを目深にかぶっているから目元は見えない。せいぜい鼻から下くらいだ。
 カグヤの言葉を聞いて、奥で作業していた三人も手を止めて集まってくる。

「家を建てる?」
「土地はどうすんのよ」
「手なら貸すぜ」
「まてまてお前ら」

 話に加わってくる三人をなだめて、詳しいことを聞く。
 建物を建てること自体は設計も含めて出来る。ただし、工賃や部材費、建築材料の木材だけじゃなく、街に土地を買うならかなりの金がかかることを丁寧に説明していく。
 盛り上がってる三人には悪いが、費用や期間についての認識は合わせなければいけない。それを無視して話を進めると、半分どころか一桁、費用も期間もずれた話になりかねない。なんの知識もないクライアントが、本人の感覚だけで「それはおかしい」と言い出して、数カ月かけた計画が白紙になることだってあるのだ。

 案の定、話をしているうちに「木でしか出来ないの?」と聞かれた。
 確かに建物を作る材料は木だけではない。石造り、レンガ造りといった昔から使われている材料もある。ビル等の大きな建物を建てるためには、鉄骨にコンクリートで強度を高める。最近では耐疲労合金、炭素繊維強化プラスチック、バイオマス樹脂もあるし、自己修復材なんていう多少のひび割れなら勝手に治る素材の研究も進んでいる。
 だがここでの「大工」は木を使ったモノづくりのスキル持ちだ。石造りでもレンガ造りでもない。
 ……先の街には石切り場があるそうだから、上級職になれば石工にもなれるのかもしれないが。

              *

「これは……」

 現地を見たいと言われて村の跡まで連れて来た。
 土地の広さや立地条件を見たいのだという。説明はだいたいクラフトという名のプレイヤーがしていたが、村にはあの場にいた全員が来ている。
 全員で見にくるほどの場所ではないのに。

 少しだけ柵が残っているだけの更地だ。急斜面を降りる前の、高い場所から見下ろすとそれがよく分かる。
 木造というのは少しばかり不満だが、木造しか作れないし、海辺なら湿気が多いから木造のほうがいいと言われればそれまでだ。気に入らなかったらまた別のところにも建てればいい。その時には石で作れる人を探そう。

「ここって廃村じゃなかったっけ」
「ゾンビ出たよな」
「なんで家が一軒もないんだ?」
「あの柵の内側って魔物沸いてなくない?」

 柵の外には、少ないが魔物がうろついている。だが、柵の内側には魔物がいない。建物を壊す前であれば、村の中に踏み込んだときにゾンビが出てきたが、今はそれすらもない。

『シー・スラッグ。軟体生物に見えるが体内に貝を取り込んでおり意外に固い。肉は食用に、貝は建築資材に使われる』

 柵の外にいるのは、前にも見たことがある魔物だ。
 確か肉はコロンに料理してもらった。鑑定によると貝は建築資材となっている。今回は木造だから必要ないだろうか。

「これは、丸ごと使って一軒って広さじゃないな。どのあたりに建てればいい?」

 海がよく見える場所がいいと言って、海側に近い場所に建てることになった。

「余った土地ってどうするんだ」
「何もないのは寂しいな」
「そんなこといって、自分の家も建てたいだけだろ」
「そういうお前はどうなんだよ」
「そりゃ欲しいけどさ、土地買う金なんて持ってないぜ」
「あー、俺もないわ」
「木だけなら自分で切り倒してくればいいんだけどな」

 騒がしい連中をよそに、一人だけ真剣な顔で村跡を見下ろしている男がいる。
 カグヤが始めに話し掛けた男で、説明もほとんどこの男がしていた。

「でも金あっても誰から買えばいいのよ」
「そりゃギルドに、あ、ギルドないか」
「ギルドもなにも更地じゃない」
「え? ひょっとして勝手に建てていいの?」
「まじか」

 騒がしい。
 一人だけ静かな男に話し掛ける。

「期間と費用は決まったかしら?」
「大体の構想は、ってところかな。あいつらが騒いでるが、残った土地はどうする?」
「好きにすれば? 私は海が見える家があればいいの」
「そうか。わかった」

 概算見積もりだと金額を口にする男に、とりあえず多めのお金を渡しておく。
 マナの波長をいじるだけで、かつての世界のように金貨や銀貨を作る必要がないのだから、楽なものだ。
 足りなくなったら言ってくれと伝えたら、苦笑いで返された。
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