33 / 55
28.異世界少女は噂を聞く
しおりを挟む
部屋に飛び込んでくるなり叫んだ少女は、食事が目当てだったようだ。
聞いたところによると、ここは『迷い家』と呼ばれるダンジョンで、プレイヤーは一人しか入れないらしい。
そして用意されている食事も一人分。
「大変ね」
いきなり叫び出すものだから、思わず魅了してしまったが、結果、分かったのはそういう話だった。
プレイヤーが一人しか入れないというのは、この世界のルールの一つだろう。手間の掛かるルールを作るものだ。
そして料理。
恐らく、プレイヤーが入ってくると料理が出来るのだろう。
私がこの屋敷に入ったのはしばらく前。その時には料理はなかった。料理が現れたのはほんの少し前。急にマナが集まったかと思ったら、料理に変化した。
聞いた話と合わせると、入って来たプレイヤーのための料理なのだろう。それを食べてしまった私が悪いのか。そこはルールにこそ不備があると言いたい。
(だって美味しそうだったじゃない?)
まあ、そんなわけで、自分で食べれると思い込んで入ってきた少女は、あまりの事に叫び声を上げたわけだ。
そんな少女は魅了されたまま、私の前に立っている。
「どうしようかしら」
食事は食べてしまったし、もう一度発生させることも出来ない。
「なにか、代わりに欲しいものがあればいいのだけれど」
そう思って、もう少し話を聞くことにした。
*
領主の館の一角。元応接室では、いつものメンバーがお菓子を片手に雑談をしていた。
「アリスさん、どこにいっちゃったのかな」
「本当にねー。何日もログインしないと思ったら、今度はどっか行っちゃって何日も帰ってこないんだもの」
話をしているのはコロン、サシミン、カグヤの三人。メンバーは変わらないが、それぞれが忙しくなっていて、全員が揃う頻度は減ってきていた。今日は、久々のお茶会で、少し遅れてもう一人合流する予定だった。
建築の指揮を取っているコロンもそうだが、建物が出来るまでに家具を用意するために、カグヤも作業場に詰めることが増えている。そして職人が多く集まると、必要になるのはバフ用の料理だ。サシミンは料理人ではないが、漁のほかにも材料の運搬を請け負って、サイドの街とこの街を往復していた。
「どこ行ったんだろうねー。ダンジョンかな」
「えー、一人で?」
「フレンドから呼ばれたのかも」
「でもアリスさんってフレンド登録させてくれなくない?」
そんな話をしていると扉が開く。
入ってきたのは、メイアンという女性プレイヤーだった。
フォースの街を拠点に石像を作っていたが、アリスが気に入って大量に注文するものだから、しばらく前からこの街にいて石像を彫っている。
「そういや、なんか男たちに襲われてたって聞いたぞ」
「え? なにそれ」
「返り討ちにしたって話だけどな」
「でも、それって。ひょっとしてストーカーとか」
「フレンド登録拒否してるのは、その男たちのせいかも」
「だれかスクショ撮ってないの? 通報したほうがよくない?」
アリスがこの街を出る直前にあった、開発チーム二人との戦い。
昼間の街の中で起こったことだ。領主の館の前は、建築現場からも、屋台区画からも離れているとは言え、人通りが皆無ということはない。
数人のプレイヤーが、アリスが男たちを返り討ちにしたところを目撃していた。
普段であれば、街の中で戦闘行為は出来ない。正確には、攻撃をしてもダメージがゼロになるのだが、例外はある。
その例外はクエスト。街の中であっても護衛任務や、潜伏している犯罪者の討伐など、街の中で戦闘が発生するクエストはいくつか存在する。そのクエスト間だけは、対象となるNPCや魔物、対抗組織に雇われたプレイヤーへの攻撃が解禁される。
最も、建築中のこの街には、護衛クエストも、討伐クエストも実装されていないが。
ここで話をしていた四人は、街の中で戦闘になることがあるのは知っていた。
だが、製造を中心にプレイしているために、それがクエスト限定であることまでは知らなかった。
かくして、彼女たちの勘違いにより、開発チームの二人はストーカー疑惑を掛けられることになる。あまり間違ってもいないが。
*
この『迷い家』からは、一つだけ好きなものを持ち出せるらしい。
それは、食器でも、装飾品でも、武器でも、家畜でも。どれか一つだけ。
そうとなれば、『迷い家』から複数の品を持ち出せるように手伝えばいいかとも思ったが、『迷い家』に来たこと自体が料理を買いに来たついでだと言うのだから、ややこしい。
しかもその合間、合間に、『赤い眼』の人という話が混ざってくる。
渓谷ダンジョンでボスレアをもらったとか、天空廃都で宝石をもらったとか、そして出会った記憶はあっても、別れたときの記憶がないという話だった。
どうにも身に覚えがある出来事ばかりだ。だが……。
「イベントキャラって何かしら」
どうにもそこが分からない。
私は別に、この世界の神に仕えているわけではないのだけれど。
前に会った運営を名乗る者たち。彼らはその後も数回、街に現れては「監視カメラ」を配置していた。それは街にいくつも配置した仮初の従者で確認している。
だが、それだけだ。
誰かに襲い掛かることもなければ、誰かに話し掛けることすらない。
あの二人が運営の中でも下っ端だったとして、仮にも世界を統べる組織が、敵対した私を気にも掛けないということがあるのだろうか。
気に掛けていられない大きな問題を抱えているのか。それとも、気に掛ける必要もないくらいに「普通の事」なのか。
コロンたちに運営の矛先が向かないようにと、街を離れては見たものの、果たしてそれは正解だったのか。
この世界のルールは不可解だ。安全方向に判断をするのは間違いではないと思いたいが、当然あるべき対策すらもされていないのは、不可解を通り越して不安を抱く。
「街へ、出てみてもいいのかもね」
それは運営と呼ばれる集団への挑戦。
世界が、受け入れるのか、戦うのかを見極めるための布石。
そして、なにより。
「美味しいものが食べたいし」
久々に味わった料理は、美味だった。
聞いたところによると、ここは『迷い家』と呼ばれるダンジョンで、プレイヤーは一人しか入れないらしい。
そして用意されている食事も一人分。
「大変ね」
いきなり叫び出すものだから、思わず魅了してしまったが、結果、分かったのはそういう話だった。
プレイヤーが一人しか入れないというのは、この世界のルールの一つだろう。手間の掛かるルールを作るものだ。
そして料理。
恐らく、プレイヤーが入ってくると料理が出来るのだろう。
私がこの屋敷に入ったのはしばらく前。その時には料理はなかった。料理が現れたのはほんの少し前。急にマナが集まったかと思ったら、料理に変化した。
聞いた話と合わせると、入って来たプレイヤーのための料理なのだろう。それを食べてしまった私が悪いのか。そこはルールにこそ不備があると言いたい。
(だって美味しそうだったじゃない?)
まあ、そんなわけで、自分で食べれると思い込んで入ってきた少女は、あまりの事に叫び声を上げたわけだ。
そんな少女は魅了されたまま、私の前に立っている。
「どうしようかしら」
食事は食べてしまったし、もう一度発生させることも出来ない。
「なにか、代わりに欲しいものがあればいいのだけれど」
そう思って、もう少し話を聞くことにした。
*
領主の館の一角。元応接室では、いつものメンバーがお菓子を片手に雑談をしていた。
「アリスさん、どこにいっちゃったのかな」
「本当にねー。何日もログインしないと思ったら、今度はどっか行っちゃって何日も帰ってこないんだもの」
話をしているのはコロン、サシミン、カグヤの三人。メンバーは変わらないが、それぞれが忙しくなっていて、全員が揃う頻度は減ってきていた。今日は、久々のお茶会で、少し遅れてもう一人合流する予定だった。
建築の指揮を取っているコロンもそうだが、建物が出来るまでに家具を用意するために、カグヤも作業場に詰めることが増えている。そして職人が多く集まると、必要になるのはバフ用の料理だ。サシミンは料理人ではないが、漁のほかにも材料の運搬を請け負って、サイドの街とこの街を往復していた。
「どこ行ったんだろうねー。ダンジョンかな」
「えー、一人で?」
「フレンドから呼ばれたのかも」
「でもアリスさんってフレンド登録させてくれなくない?」
そんな話をしていると扉が開く。
入ってきたのは、メイアンという女性プレイヤーだった。
フォースの街を拠点に石像を作っていたが、アリスが気に入って大量に注文するものだから、しばらく前からこの街にいて石像を彫っている。
「そういや、なんか男たちに襲われてたって聞いたぞ」
「え? なにそれ」
「返り討ちにしたって話だけどな」
「でも、それって。ひょっとしてストーカーとか」
「フレンド登録拒否してるのは、その男たちのせいかも」
「だれかスクショ撮ってないの? 通報したほうがよくない?」
アリスがこの街を出る直前にあった、開発チーム二人との戦い。
昼間の街の中で起こったことだ。領主の館の前は、建築現場からも、屋台区画からも離れているとは言え、人通りが皆無ということはない。
数人のプレイヤーが、アリスが男たちを返り討ちにしたところを目撃していた。
普段であれば、街の中で戦闘行為は出来ない。正確には、攻撃をしてもダメージがゼロになるのだが、例外はある。
その例外はクエスト。街の中であっても護衛任務や、潜伏している犯罪者の討伐など、街の中で戦闘が発生するクエストはいくつか存在する。そのクエスト間だけは、対象となるNPCや魔物、対抗組織に雇われたプレイヤーへの攻撃が解禁される。
最も、建築中のこの街には、護衛クエストも、討伐クエストも実装されていないが。
ここで話をしていた四人は、街の中で戦闘になることがあるのは知っていた。
だが、製造を中心にプレイしているために、それがクエスト限定であることまでは知らなかった。
かくして、彼女たちの勘違いにより、開発チームの二人はストーカー疑惑を掛けられることになる。あまり間違ってもいないが。
*
この『迷い家』からは、一つだけ好きなものを持ち出せるらしい。
それは、食器でも、装飾品でも、武器でも、家畜でも。どれか一つだけ。
そうとなれば、『迷い家』から複数の品を持ち出せるように手伝えばいいかとも思ったが、『迷い家』に来たこと自体が料理を買いに来たついでだと言うのだから、ややこしい。
しかもその合間、合間に、『赤い眼』の人という話が混ざってくる。
渓谷ダンジョンでボスレアをもらったとか、天空廃都で宝石をもらったとか、そして出会った記憶はあっても、別れたときの記憶がないという話だった。
どうにも身に覚えがある出来事ばかりだ。だが……。
「イベントキャラって何かしら」
どうにもそこが分からない。
私は別に、この世界の神に仕えているわけではないのだけれど。
前に会った運営を名乗る者たち。彼らはその後も数回、街に現れては「監視カメラ」を配置していた。それは街にいくつも配置した仮初の従者で確認している。
だが、それだけだ。
誰かに襲い掛かることもなければ、誰かに話し掛けることすらない。
あの二人が運営の中でも下っ端だったとして、仮にも世界を統べる組織が、敵対した私を気にも掛けないということがあるのだろうか。
気に掛けていられない大きな問題を抱えているのか。それとも、気に掛ける必要もないくらいに「普通の事」なのか。
コロンたちに運営の矛先が向かないようにと、街を離れては見たものの、果たしてそれは正解だったのか。
この世界のルールは不可解だ。安全方向に判断をするのは間違いではないと思いたいが、当然あるべき対策すらもされていないのは、不可解を通り越して不安を抱く。
「街へ、出てみてもいいのかもね」
それは運営と呼ばれる集団への挑戦。
世界が、受け入れるのか、戦うのかを見極めるための布石。
そして、なにより。
「美味しいものが食べたいし」
久々に味わった料理は、美味だった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?
志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。
父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。
多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。
オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。
それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。
この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています
ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる