異世界少女は仮想世界で夢を見る

工事帽

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36.異世界少女は探し歩く

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 今日はギルドに来ていた。
 昨日のように前を通り過ぎるだけでなく、建物の中にだ。

 昨日、屋台区画で食べ歩きをしたときの話だ。
 転移を使うNPCのことを聞いてみた所、ギルドの話が出たのだ。

 話し好きな料理人はNPCには詳しくはなかったが、クエストならギルドで始まるものが多いと教えてくれた。
 つまり、多くのマナを持っているかは分からないが、「フラグ」持ちの人形は、ギルドで居場所が見つかるということだ。しかも、クエストには複数のNPCが関わっているものもあり、の手順通りに進めれば、次の「フラグ」持ちの人形の場所まで分かるかもしれないという。

 ギルドの中には複数のプレイヤーがいた。
 窓口で話をしている者、その後ろで所在なげにしている者、残りは壁に貼られた紙を見ている者たちだ。

 壁に貼られているのが依頼表だと聞いている。
 依頼表でクエストの内容を確認し、引き受ける気があるなら、依頼表の隅にある『依頼を受ける』に手で触れると、クエストが開始され、メニューのクエスト一覧に依頼が載るという。

 度々、プレイヤーが離す『メニュー』というものが分からずに、再現も出来ていないが、この世界のルールの一つであることは確かだ。
 恐らくここで契約することで、人形と話をしたときにマナの波動が変化するように、仕組まれているのだろう。

 壁一面に貼られた依頼表の前へ行く。
 依頼を受けても、依頼表が貼りっぱなしでは、同じ依頼を複数のプレイヤーが受けてしまう事になる、そう聞いてみたものの、ここではそれが普通なのだという。
 依頼という体裁を取っているだけだと。何々を納品するという依頼を達成し、その対価をプレイヤーは得る。では納品した品物はどうなるのか。その品物が何かに使われることはないという。実に無駄なことだ。

「求む。『巨人のこん棒』を五個」
「知り合いの鍛冶師の悩みを解決して欲しい」
「急募。『天使に愛された白い粉』」
「荷運び。サードの街まで」
「臨時召使い募集」
   :
   :

 貼られている依頼表の、依頼内容は気にせずに、依頼主の名前と居場所だけを覚える。
 全てを一度に覚えるのは無理なので、数カ所だけ。それを回り終わったら、またギルドに戻ってきて次の場所を覚えれば良い。


 一つ目の依頼主を探して加工所に入る。入口を入ってすぐの部屋には受付の人形しかいない。時間が悪いのか、偶然か、プレイヤーの姿は一人もなかった。鑑定を掛けるものの、受付の人形の名前は依頼表にあったものとは違う。
 奥の扉を開けると、ゴリゴリと何かを切る音や、何かを打ち付ける音が聞こえ出す。
 その音は、村で家を建てている場所にも似た喧騒だ。

 扉の奥は広めの廊下から、いくつかの部屋に通じていた。そして、廊下の突き当りは外へ。外への出口は、表通りから入る入口の、ちょうど反対側にあたる。
 広い廊下一杯の出口は、裏口にしては広い。ならば、裏口ではなく、中庭に通じているのかもしれない。

 廊下の途中にある扉は、大半は開け放たれていて、部屋の中が覗き込める。プレイヤーや人形がいる部屋も、誰もいない部屋もあった。
 それぞれの部屋は、広さこそ違いはないものの、備え付けの大型工具が違っていた。同じ工具ばかりが数台設置されているところを見れば、部屋ごとに工具の種類が決まっているのだろう。

 いくつもある部屋を回りながら、鑑定を掛けて名前を確認する。
 依頼表にあった名前を見つけて、近寄りながらマナの量を調べる。
 残念ながら内包されているマナの量はごくわずかのようだ。最初の一人だ、仕方ない。

「なんだ、お前さんは」

 近寄ると話し出す人形に、マナの波動をぶつける。

「お前さんが依頼を受けてくれたんかい。どうしても『巨人のこん棒』が必要でのう……」

 マナの波動を変えてぶつける。

「おお、待ちかねたよ。確かに『巨人のこん棒』だ。ギルドに行って報酬を受け取ってくれ」

 残念ながら、このクエストはこれで終わりらしい。次の「フラグ」持ちの人形へとは繋がっていなかった。
 それでも、昨日のように、無暗に歩き回るよりはまだマシだろう。次の依頼主の元へと、加工所を後にする。


 すぐ隣の建物に入る。ここは鍜治場で、ここにも依頼元の人形がいるはずだ。

 建物に入ったところで、やっぱりここも入口の部屋にいるのは受付の人形だけだ。奥の扉を開ける。今度は甲高い金属の音と、熱気が出迎える。
 加工所と同じく、広めの廊下に、いくつもの扉、そして突き当りには外への出口がある。

 廊下の途中にある扉は、加工所と同じように大半は開け放たれている。部屋の中に見えるのは炉だ。赤々と燃える炎と、廊下に漏れてくる熱気が、とても暑苦しい。
 こちらは、部屋ごとに炉が一台あるだけで、加工所のように部屋ごとに工具が違うわけではないらしい。それとも、同じに見える炉にも種類があるのだろうか。

 部屋を覗き込みながら、人形たちに鑑定をかける。
 プレイヤーのいる部屋では、カンカンと金属を叩く音が五月蠅い。

 一つの部屋で依頼主の名前を見つけた。
 ……名前は見つけたが、マナの量はごくわずかだ。蒸し暑い部屋に踏み込んでまで、調べる必要もないだろうと、髭面の人形に背を向けた。


 路地に入り進んでいくと、みすぼらしい家が並ぶ一角に出る。
 鑑定では『壊れかけた民家』と名付けられた建物の更に奥、『朽ちた教会』の名前がついた廃屋を目指す。
 教会というからには、神を祭っているのだろうか。
 それとも神につらなる英雄だろうか。
 かつての世界には、神を名乗る愚か者も、神の末裔を名乗る王も、神のしもべであることを強要された戦士もいた。誰もが存在しない神の名を騙っては、その虚像に押し潰されていったものだ。

 その建物は、入口の扉はなく、扉があっただろう場所には歪な穴が開いているだけだ。
 周囲の壁も傷だらけで、誰かがぶつかりでもしたのか、一部が破れて穴になっている。

 建物に入ると、そこは広い部屋になっていた。
 かつては椅子だっただろう残骸が転がっている。原型の分かるもの、転がっているパーツ、ただの木片とその姿は様々だ。共通するのはただ一つ。椅子としては使えないということだけだ。
 そんな過去には椅子だった物たちの向こうに、一段高くなった祭壇があった。
 そこだけ綺麗に整えられた祭壇には、白い像が置かれている。

 祭ってある白い像は何をかたどったものだろう。
 この世界には運営という神がいる。
 だが、以前に会った運営を名乗る者たちは、神とは程遠い存在だった。あれもまた、神を騙るだけの愚か者なのか。

 そして祭壇の前には、みすぼらしい服の人形NPCが祈りを捧げている。
 鑑定をかけると、その人形こそが依頼主だった。
 人形に祈りを捧げさせる神。それだけであれば虚栄の産物だろうが、ならばここが『朽ちた教会』である必要はない。むしろ立派な教会に大勢の人形を並べるくらいはするだろう。

(不思議な世界ね)

 遊び場で済ませるには、大量のマナを消費しすぎている世界だ。
 マナを使って魔物を作り、アイテムを作り、クエストを組み上げる。だが、プレイヤーは誰一人、神に祈りを捧げてはいない。
 そしてプレイヤーにとっては、ここは僅かな金銭で遊びに来られる世界だ。
 価値が釣り合っているようには思えない。

「ヒヒッ。神の家へようこそ。ヒヒヒッ」

 考え事をしている間に、みすぼらしい服の依頼主がこちらを向いていた。
 顔色の悪い小男が、引きつった笑いと共に言葉を吐いている。
 マナの量を調べると、少ない。この人形もハズレのようだ。

「ヒヒッ。祈りを捧げよ。ヒヒヒッ」

 一応、マナの波動をぶつけてみる。

「ヒヒッ、敬虔な使徒よ。神もお喜びになるだろう」

 マナの波動を変えてぶつける。

「ヒヒッ、ヒヒッ、イーヒヒヒ。素晴らしい。これで神に近づける」

 ダメだ。話にならない。
 別の依頼主を探しに行こう。
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