異世界少女は仮想世界で夢を見る

工事帽

文字の大きさ
43 / 55

37.異世界少女は芝居を見る

しおりを挟む
 屋敷に入ろうとしたところで人形に止められた。
 それもマナの波動をぶつければ素通りに変わる。
 その上、扉を開ければメイドが待ち構えていて「ご案内します」とくる。この人形NPCたちは、ずっとこのためだけにこの場所に居るのだろう。

 人形の後についていくと、二階の部屋に案内された。
 そこには別の人形が待っていて、案内をしたメイドの人形は戻っていく。

 大きな出窓と、その手前に置かれたテーブルと椅子。
 太陽の光は、テーブルを中心に降り注ぎ、そこだけが少し明るい。その分、部屋の別の場所、奥の寝台はタンスなどの家具は暗がりに隠れているように見える。

「あなたが臨時で来たメイドね」

 その人形は椅子に座ったまま、そう言った。

 見た目だけなら令嬢に相応しい姿だ。
 長く伸びた金色の髪は腰まであり、凛とした目元はツリ目がちで強い意志を伝える。

(お約束。だったかしら)

 実際には、髪の長さなど、手入れを出来るだけの環境があるかどうかだ。ツリ目も持って生まれた造詣であり、意志が強く見えるかどうかなど、受け手の勝手な解釈でしかない。
 それでも、この人形が作られたものであり、クエストのための役割を与えられたならプレイヤーの言う「お約束」にそった姿かたちをしている可能性は高い。

「それでは、まずは掃除からしてもらいましょうか。向こうの部屋にいるメイド長に話を聞いてちょうだい」

 マナの波動をぶつける。

「あら、もう終わったの。なかなか優秀ね。では次は買い物にいってもらおうかしら。一階にいる料理人に話を聞いてちょうだい」

 マナの波動をぶつける。

「早いわね。優秀な人が来てくれてよかったわ。お茶が飲みたいわ。向こうの部屋にいるメイド長に話を聞いてちょうだい」

 それは今までのクエストとは違っていた。
 一、二、三と、数字を数えるように、一つづつマナの波長を変えていくが、中々に終わりが見えない。
 次にマナの波動をぶつけると、テーブルの上にはティーセットが置かれていた。

 そういえばと、令嬢のマナの量を調べると、他の人形よりは少し多い。
 見せ掛けだけとは言え、ティーセットを出せる程度には仕込んであるようだ。

 その後もマナの波動をぶつける度に、手紙を届けて、掃除をしてきて、返事をもらってきて、お茶が飲みたい、手紙を届けてと際限がない。
 お茶のときだけは、令嬢がつらつらと話しをする。
 それを聞いていれば、手紙をやり取りしている相手は、ライバルのお店の息子だということだ。

 二つの店は仲が悪い。それは商売上のライバルというだけでなく、使用人同士の仲も悪い。
 それは、お互いの店員や使用人の顔も覚えていて、嫌がらせをしたりされたりする程に犬猿の仲だという。
 そんな関係だから、令嬢とライバル店の息子は、同じ街に住んでいながら面識すらなかった。お互いの親も使用人も、近づけないようにしていたからだ。

 それがある日、偶然に出会った。
 街を散策中、ほんの少し、お付きのメイドが離れたタイミング。風に飛ばされたハンカチを拾ってくれた。それが出会いだったそうだ。
 それからも、街の散策途中で、何度か偶然に会うことがあり、いつしか「今日は会えるのか」と楽しみにするようになったという。

 だが、何度も会っているうちに、お付きのメイドにも知られてしまった。
 何度も、同じような場所で飲み物を買いに行かせたり、忘れ物をしたから取ってきて、などという言い訳が通用するわけもない。
 令嬢の話し相手がライバル店の息子だと気づいたメイドは、そのことを雇い主に報告し、令嬢の散策は禁止されることになった。

「メイドが気づかなければ、あの店の息子だとは知らぬままだったのでしょうけど」

 街で出会うどこの誰かも知らない青年は、ライバル店の息子だった。
 それはたまの会話を楽しんでいた令嬢にはショックだった。その後、散策に出れなくなった気鬱もあったのか。しばらく経つと、どうしても、また話がしたくなった。

 屋敷から出れないから手紙を書いた。だが、メイドに頼んだところでライバル店に手紙など届けてくれるはずもない。
 それにライバル店もこの屋敷のメイドの顔は知っている。届けたところで、本人に渡る保障もない。

 そこで思いついたのが臨時のメイドだったのだそうだ。
 臨時ならばライバル店との確執も知らないし、顔も知られていない。
 ただ、臨時に雇ったメイドが信用出来る人なのかどうか。それが心配だったと語った。

「思った以上に優秀で助かったわ」

 そういって令嬢はうれしそうに笑った。

 ……だが、令嬢の笑顔はそこまでだった。

 マナの波動をぶつけるたびに、物語は不穏な方向へと転がってゆく。

「お嬢様! 大変です!」

 部屋に入ってきたメイドが叫ぶ。
 ライバル店に商品のアイデアを盗まれたのだ。しかも、ライバル店はその商品を一日早く発売し、逆に令嬢の店がアイデアを真似したのだと喧伝した。
 元より仲の悪かった店同士だ。相手が、向こうがと言い合いになり、それはさらにエスカレートしていく。

 店の前にゴロツキがうろつくようになり、店員が立て続けに怪我を負った。
 心労で母親は倒れ、ついには父親までが何者かに襲われた。
 誰もがライバル店の仕業だと思ってはいたが、証拠は何一つない。
 その間も、令嬢は争いを止めたい、力を貸してくれと手紙を書き続けたが、いつしか返事すら返って来なくなる。

「この屋敷も今日までね」

 倒れた母親と、大怪我をした父親の治療費。そしてゴロツキに荒らされた店の立て直しのために、屋敷を手放すことになった。
 屋敷と家具は全て手放し、これからは店の上にある店員用の小さな部屋で暮らすことになる。
 それでもまだ、店が潰れたわけではない。まだなんとかなるはずだと、令嬢は希望を米て口にする。

「あなたも今までありがとう。臨時雇いのはずが、ずいぶんと長くお世話になってしまったわね」

 そのとき、何度目かの扉が開く。
 そこに姿を見せたのは、店の主人である父親でも、屋敷を管理しているメイド長でも、食事を運んで来た料理人でもなかった。
 そこに居たのは一人の青年だった。

「あなたはっ」

 令嬢が立ち上がり叫ぶ。
 それはライバル店の息子だった。

「おやおやおや、まだこの屋敷に居たのですか。往生際の悪い」
「なんですって!?」

 それは、令嬢から聞いた話とは、まったく違う青年の姿。軽薄な笑みを張り付け、令嬢を罵倒する男は、買い取った屋敷を見に来たのだと言い放つ。

「あなたが、買った、ですって……」
「ああそうさ。知らなかったかい?」

 そう言って青年は店を買い取って潰すつもりだったが、屋敷を売るとは計算外だったと続けた。少し時間が伸びただけだ。いずれ店を潰してやると。
 そうして最後にこう言った。

「いやあ、あなたの手紙は役に立ったよ。少し水を向けただけで、店の内情をポロポロと教えてくれてさ。世間知らずのお嬢様!」

 バキンッ。

 青年の頭が軽い音を立てて砕け散る。
 握り潰した人形の頭を投げ捨てて、ついでに胸からマナを抉り出す。
 頭の制御装置も、胸のエネルギーも失った人形がクタリと倒れる。

 無言のまま部屋を出る。アリスの背で、相手のいない令嬢の一人芝居が続いていた。

「覚えていなさい! 私は必ず、この屋敷を取り戻すわ!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...