異世界少女は仮想世界で夢を見る

工事帽

文字の大きさ
47 / 55

40.異世界少女は目を付ける

しおりを挟む
 その日、ギルドの中は混み合っていた。
 入口を入ってすぐの広い部屋。そこは壁に貼られた依頼表と、奥にカウンターだけがある部屋で、待合室に当然ある待つための椅子すらない。
 そんな殺風景でも広くとられた部屋には、大勢のプレイヤーが居た。
 壁の依頼表を見ている者、カウンターで話をしている者。カウンターの前に並んで順番を待っている者たちだ。

「なんでこんなに混んでるんだろ」

 ふうかは、不思議に思いつつもギルドの中に足を進める。

 その日は数日振りのログインだった。
 急な納期に追われてゲームをする暇がなかったのだ。昨日やっと納品が終わって、久しぶりの息抜きにログインしたところだ。

 街を建設しているという話を聞いて、拠点を変えてからしばらく経つ。
 街の建築中は、今と同じように大勢のプレイヤーが資材の納品や建築などの仕事を受けにギルドに詰め掛けていた。だが、それも終わり。建築ラッシュの終了と共に、街に居たプレイヤーのほとんどは元の拠点へ戻るなり、新しいクエストを求めて街を後にした、はずだった。

 もしかして、まだ作る建物でもあったんだろうかと、依頼表が貼られている壁へ向かう。
 元々、今日は一人で適当にクエストでもやろうかと思っていたところだ。割りの良い依頼があるなら、そのほうが嬉しい。

「んーっと。収集クエストはっと。……『ラディッシュの葉』、『古代樹の根』、『清水の水草』。建築資材じゃないんだ。なんだろこれ」

 小柄な体でプレイヤーたちの間をすり抜けて覗き見た依頼表には、知らない物が多い。どれも名前から植物系の素材だということは分かる。それらは以前に建築資材として依頼が出ていた、木材や石材とは違うものだ。

「『ラディッシュの葉』は、確か『セカンド』の近くに出てくる赤大根のドロップだったよね。他のは、なんだろう。どっかで名前を見たような気はするけど、どの敵が落とすのか分からないや」

 依頼表を見ながら、いつものクセでブツブツと呟きながら記憶を探る。覚えているのは赤大根くらいなものだ。あれは『サード』の街に入るためのクエストで、何十体も狩る必要がある。ドロップの確率も、そんなに悪くなかったはずだ。
 そこまで見て取ったところで、肩をポンと叩かれる。

「よう!」

 振り返ると、ひょろりとした長身のプレイヤーの姿があった。

「わっ、ひさしぶり」

 顔に見覚えはある。確か建物の工事をしていた大工の一人だ。建築工事では、ふうかもギルドのクエストを受けて手伝った。建築資材の調達は、トレントもゴーレムも武器の相性が悪いので、海岸でシー・スラッグを狩るくらい。その代わり、工事現場で、付与を使っての仮止めをメインに仕事していた。
 そのため、工事現場で働いていた大工の人たちとも面識がある。目の前の長身のプレイヤーもその一人だ。それは間違いないが、目の前の男性の名前は出て来ない。こっそり『鑑定』を発動して、名前を見る。

「ところでロイガーさん、今日のギルドって混んでますよね。なにかイベントでも始まりました?」

 名前を確認したら、すぐに口に出す。
 どうにも人の名前を覚えるのは苦手で、鑑定で見てもすぐに忘れてしまう。だから忘れる前に口に出す。一度名前で呼んでおけば、その後は名前を言わなくても結構なんとかなるものだ。

「イベントというか、バグ対応だな」
「?」

 聞いて見ると、MPが最大値でも、MP切れになったように気絶するバグが見つかったらしい。MPポーションを飲むまで気絶したままという、凶悪なバグだ。当然のことながら、本人は気絶しているためポーションを飲むことが出来ない。誰かにMPポーションを飲ませてもらうまで、気絶したままになってしまう。

「なにそれこわい」
「そうなんだよ。しかもな……」

 運営への問い合わせには未だ回答なし。
 修正の目途どころか、公式ページの不具合一覧にすら載っていない状態だということだ。

「私、MPポーション持ってないんですよ」

 思わず口をついてしまうのは不安の言葉だ。
 このゲームのMPポーションは微妙に高い。ゲームによっては一度の狩りで何百も消費するMPポーションだが、このゲームでのMPポーションは普段使うものではない。ボス討伐のパーティーが使うくらいで、後は用心深いプレイヤーが保険で持っているくらいだ。

 ふうかは付与使いという職業で、矢に魔法を付与して遠距離から狙撃する魔法戦士だ。MPはそこそこ使うものの、なくても弓は打てる。だから保険のMPポーションも持ち歩いていなかった。

 運の悪いことに、建築の手伝いなどで手に入れたお金は、装備の更新に使ってしまった。今の手持ちで買えるのか心配なくらい、お金は残っていない。それに、バグで皆がMPポーションを欲しがるのであれば、値上がりしている可能性もある。

「なら一本やるよ」

 その言葉にハッとする。欲しいのは事実だが、クエストで知り合いになっただけの人からもらうには高価すぎる。

「いえいえいえ。流石にもらう訳には」

 ギルドの中でしばらく、MPポーションを間に押し問答が続いた。

              *

 アリスは珍しく、コロンと二人で外出していた。
 外出と言っても街の中の話だ。ギルドに用事があるというコロンの付き添いで、館を出てきただけだ。そのついでに、ギルドの向かいにある屋台区画にも寄っていこうと思っているから、コロンの付き添いだけが理由でもない。
 ただ、以前に倒れたコロンのことが気になったのも事実だ。

(あまり余裕があるようには見えないわね)

 数日前、コロンが倒れたのはアバターのマナが尽きたからだった。
 今はアバターのマナは残っている。MPポーションを飲ませたり、食事を取らせたことでマナが回復したからだ。だが、コロン本人のマナは先日よりもわずかに減っている。

「それで、ギルドにはMPポーションの材料集めのクエストを出したんですよ。相場通りだと集まらないって言われて、少し高めの値段にしたんです。みんな自分のお金じゃないからって、好き勝手言い過ぎだと思いませんか」

 そう話すコロンは、なにか楽しそうだ。倒れた原因も分かっていないのに気楽なものだと思う。

「いくつかのレシピがあるんですが、材料の中には、初級ダンジョンと言ってもボスドロップがあったり、『渓谷ダンジョン』まで行かないと手に入らない水草もありますからね。仕方ないのも分かるんですよ」

 先日、コロンの他にも倒れたプレイヤーが出た。
 それでMPポーションを手に入れようとするプレイヤーが増えた。
 しかし、MPポーションを作れるプレイヤーはそれなりに居ても、材料がなければ話にならない。通常であれば、生産職が自分で取りに行ったり、知り合いに頼んで集めてもらったりするものなんだそうだ。予期せぬ需要拡大は、そんな個人で集めれる範囲を飛び越えて、MPポーションは枯渇した。

 そこでコロンが領主としての権利を使って、ギルドに材料を集めるクエストと、MPポーション製造のクエストを発行することになったのだ。
 発行前には、コロンは費用の心配ばかりしていたので、お金を押し付けて済ませた。
 コロンの話を聞いているうちに、ギルドに着く。

 その日、ギルドの中は混み合っていた。
 入口を入ってすぐの広い部屋。そこは壁に貼られた依頼表と、奥にカウンターだけがある部屋だ。
 そんな殺風景で広いはずの部屋は、大勢のプレイヤーが居ることで手狭に見える。
 壁の依頼表を見ている者、カウンターで話をしている者。カウンターの前に並んで順番を待っている者たち。そして言い合いをしている二人のプレイヤー。

「どうしたんでしょう」

 そう言って、コロンがひょこひょこと言い合いをしている二人に近づく。

「ロイガーさん、ふうかさん、どうしたんです? 言い合いなんかして」

 コロンも含めて三人の会話をなんとなしに聞いている。
 言い合いしていたのは、男性のプレイヤーがMPポーション渡そうとして、女性プレイヤーが断っているらしい。
 くれるというなら、貰えばいいと思う。だが、その女性は高価だからと言って受け取ろうとしない。

「ロイガーさん恰好つけたがってるだけだから、貰ってもいいと思いますよ」
「いや、恰好つけとか、そんなつもりじゃないさ」
「いつもそうじゃないですか、女の子と見ると何かプレゼントしようとして。……ああ、なら私と交換しましょうか。私がMPポーションを出しますから、代わりに赤大根の実を取ってきてもらってもいいですか。葉のほうは使わないので、このクエストのついでな感じで」

 後半はロイガーを無視して、コロンはふうかと話を続ける。
 コロンが指した依頼表は『ラディッシュの葉』。ギルドに来る途中に、MPポーションの材料だと言っていた素材だ。他の素材集めやMPポーション製造の依頼も、依頼表の中にあるはずだ。

「わぁよかった。ありがとうございます」

 話がまとまったらしく、前払いだと言ってコロンがMPポーションを押し付けている。
 出会った頃はもっとオドオドしていたような気もする。いつの間にか逞しくなったものだ。
 その傍らでロイガーが一人、所在なさげにしている。

「話しが終わったのなら、私からも一ついいかしら」

 すぐにクエストに出掛けようという素振りを見せる、ふうかに話し掛ける。
 ここで話を聞きながら待っていたのは、コロンの成長を見たかったからではない。それ以上に気になることがあったからだ。
 それはマナの量。
 コロンやロイガーに比べて、ふうかのマナの量は随分と多かった。その理由を探るべく、私はふうかの話を聞かなければならないのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

聖女じゃない私たち

あんど もあ
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生二人。王太子によって、片方は「聖女」として王宮に迎えられ、片方は「ただの異世界人」と地方の男爵に押し付けられた。だが、その判断に納得する二人ではなく……。

処理中です...