異世界少女は仮想世界で夢を見る

工事帽

文字の大きさ
46 / 55

39.異世界少女は介抱する

しおりを挟む
 場所は屋台区画。見知った料理人が多く店を出しているその区画では、コロンを知っている者も多い。
 だからこそ、倒れてすぐは「何かにつまずいて転んだんだろ」と思われていた。料理の腕はともかく、戦闘に関してはまったくダメなのがコロンだからだ。

 しかし、五秒経ち、十秒経っても起き上がらない。
 そこから徐々に「何かあったのか」と、周辺の料理人が集まり始める。
 コロンの屋台が料理人たちに囲まれる頃、アリスはコロンの隣に居た。
 屋台のカウンターの前に居たアリスがコロンのところに行くためには、屋台をぐるりと迂回する必要がある。それでも、他の屋台から駆け付けるよりも、アリスのほうが近い。

 倒れたままのコロンを抱える。
 目は開いたまま、僅かに瞳が揺れている。口は軽く開いている。唇が時折ふるえて見える。それでいて唇は色を失ってはいない。普段と同じ赤みを保っている。

「どうした?」
「わからん」
「VR装置の故障かも」

 人形NPCの体も、プレイヤーのアバターも、構造は同じだ。調べていくと、他の人形とは違う箇所はすぐに判明する。
 顔を上げれば、目的とする人物はすぐに目に入った。

「あなた、海鮮スープを持ってきて下さる?」

 見つけた料理人に頼むと、何か言いたそうにしながらも、海鮮スープを持ってきてくれた。
 海鮮スープのうちのスープの部分を、ゆっくりと、コロンの開いたままの口から流し込む。
 一口分ずつ流し込みながら、海鮮スープを形作っているマナへ干渉し、コロンのアバターへ浸透させる。

 プレイヤーの使っているアバターも、口に入れた食べ物は分解してマナに変換する。変換したマナはアバターの中に保管される。
 保管されたマナは、鑑定やクエスト中の人形とのやり取りなどで消費されていると思っていた。今のコロンの様子を見ると、プレイヤーがアバターを動かすことにも使用しているようだ。

 コロンのアバターにあるマナは枯渇していた。
 コロン自身のマナは残っているが、それも、前に見たときよりも少ないように思う。その理由は分からないが、良いことではない。

 何度か海鮮スープを飲ませていると、コロンの目が動き出した。
 まばたきはするが、まだ体は上手く動かないようだ。起き上がろうとする気配はあるものの、体が動いていない。

「まずは、これを飲みなさい?」

 コロンに言い聞かせながら、海鮮スープを飲ませる。口が動くようになってからは、具材も食べさせる。
 一杯の海鮮スープが空になる頃には、コロンも身を起こせるようになった。
 すぐに動き出そうとするコロンを抑えて、他の屋台の料理も食べさせる。

「何だよ。お腹空いてたのか」
「VR中に倒れるとか、危なくないか。ログアウトしてリアルで食事したほうが……」
「ハンガーノック? VRでそれはないだろ」

 コロンが動けるようになった頃には、料理人以外のプレイヤーも集まっていた。
 改めて周りのプレイヤーを見ると、誰も彼も、アバターのマナの量が少ない。
 それでも屋台の店主である料理人は少しはマシなほうだ。たまたま居合わせた、料理人ではないプレイヤーのアバターは更に少ない。

 それはアバターだけの問題ではない。
 プレイヤー本人のマナの量もそうだ。個人差が大きいために、見知ったプレイヤーのマナの量を、昔はどうだったはずだと思い出し、比較することしか出来ない。そうして思い出す範囲では、全員マナが少ないように思う。

(どういうことかしら)

 コロンを始め、数人の『味見』をした相手は、ほとんどマナが回復していないのは見てきた。それは、この村がまだ工事中だった頃。運営を名乗る者達と出会って、村を出る前の話だ。
 回復しないだけであれば、ギリギリ許容範囲だ。しかし、減り続けるのであれば危うい。

 マナは魂とも密接な関わりがある。

 減り過ぎたマナでは魂の形を支えきれずに、魂が欠ける。
 マナが完全に枯渇すれば、魂は壊れ、霧散するだろう。

 アリスの知るところでは、マナの量が多くても少なくても、その量は魂の核に沿った量になろうとする。
 多ければ放出されてマナの量が減る。少なければ、周囲からマナを取り込んでマナの量は増える。その法則に逆らって、大量のマナを抱えているためには、アリスのようにマナを制御する技術が必要だ。

 なぜ減っているのか。
 単純に考えれば、それだけのマナを使っているということになる。回復量以上に使えば、減る。

 何に使っているのか。
 コロンが倒れた時は、収納に食材を仕舞っている途中だった。
 確かに、収納は空間を作るときよりははるかに少ないが、出し入れにマナを消費する。しかし、それだけで回復量を使い切れるものではない。他にもマナを消費するものがあるはずだ。

「コロン? あなたマナを使うかしら」

 きょとんとしたコロンにマナの説明をしても、いまいち理解していないようだ。それでも、魔法を使うと減るものだと言ったところ「MPのことですか」という言葉が返ってきた。
 だが、コロンは魔法を覚えていないという。

「街の建築が忙しくて、魔法に手を出してる暇がなかったんですよね」

 そうしてコロンと話をしていると、周りのプレイヤーも「俺は覚えた」「覚えてない」と騒がしい。

「ならクエストはどうかしら。あれもマナを使うでしょう?」
「え、そうなんですか?」

 どうにも話が合わない。
 周りのプレイヤーたちに聞いてみても、MPは魔法やスキルで消費するもので、クエストや収納の使用で減るものではないようだ。

「あ、でも、そうなるとさっきコロンちゃんが倒れたのってMP切れ?」
「そういや、MP切れると気絶するんだっけ」

 一人の料理人プレイヤーの言葉に、他のプレイヤーも一時、納得の顔を見せる。

「え、でも私のMP減ってませんよ」

 コロンの言葉を聞いて、プレイヤーたちから鑑定の波動がコロンへ飛ぶ。
 アリスも真似をして鑑定して見ると、ステータスの中にMPという欄があった。そして、MPの値は最大値を示している。
 だが、アリスの目に映るマナの量は少ない。食事で多少は増えたものの、まだ最低限と言っていい量だろう。

 全員が釈然としない顔のまま、いくつかの推測の言葉が交わされる。
 そんな中で、一人のプレイヤーが発した言葉で、状況は次へ進む。

「じゃあ、試しにMPポーション飲んでみたら?」

 ハッとした顔で発言者を見るプレイヤーたち。
 幸いにも、屋台の一軒でMPポーションを売っていたこともあって、誰が買ったものかは知らないが、MPポーションがコロンの前に差し出される。

(まるでお姫様ね)

 屋台区画に居たほとんどのプレイヤーがコロンを心配して集まっている。
 そんな光景にコロン自身が困惑している様が面白い。
 周囲の圧力に断り切れずに、コロンがMPポーションを口にする。

「あ、楽になったかも」

 そんなコロンの言葉に、回りを囲っていたプレイヤーたちが囃し立てる。

「マジか」
「えっ、回復したってこと?」
「本当に?」
「でも、MP全快なら効果ないはずじゃ……」

 更に騒がしくなるプレイヤーたち。
 仕方なしに、アリスは一言を添える。

「なら、あなたたちも飲んでみたらどうかしら」

 元より、アリスの目には、全員のマナが不足しているように映るのだから。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...