[完結]加護持ち令嬢は聞いてはおりません

夏見颯一

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 偽のレーニアに対して騎士団の捜査が進む中、婚約破棄の成立から一週間ほど過ぎた頃に、ようやく母が義理の姉と姪を連れて王都に来ました。

「あの子達、偽物のレーニアの所為で散々嫌みを言われていたらしいのよ」

 嫌みを言われていたのは、元婚約者が偽レーニアの食費や寮費を立て替えていた話と関係しているということです。
 学園で偽レーニアが食費や寮費で困っている話を生徒が家族にして、その家族が義理の姉に嫌みを言う流れになっていたとかで、やはり払うならきちんと学費以外の食費や寮費を出さなかった愚兄が全て悪いという結果です。

「もっとあれがしっかりしていたら防げたのにね」
 母からしたら愚兄は『あれ』ですか。
 お茶会などで嫌みを言われた義理の姉から話を聞いた愚兄が、慌てて偽レーニアの寮費と食費を支払ったと言うことです。
 払ったら払った後でも「食費や寮費も出せなかったのに学園に入れるのね」と言われたそうなので、つくづく初手を誤った愚兄は罪深いと思います。無論、義理の姉も私の事情を知らされているので無罪ではありえませんので、周囲から散々嫌みを言われていたと聞いても同情なんてしませんよ。

 ふう、と母は息をついて、
「とにかく全然訳の分からない話だけど、私は実家に行って参ります。公爵家のお茶会でお友達に話を広めて貰えば少しはましでしょう」


 偽レーニアを捜査する関係で、騎士団から私には王都の屋敷からあまり出ないでほしいと言われております。しかも当分、という妙にはっきりしない上に長い期間です。
 メイド達の助言に従って早々に王都観光をしておけば良かったと悔やまれます。

「今日は話題のカフェのケーキを買ってきたの」
 そんな中でシェリアが毎日王都の話題の物を持って遊びに来てくれます。
「ありがとう、シェリア」
「どういたしまして。叔母様のところなら毎日お菓子を買って伺ってもお父様達から怒られないし、すっごく楽しいわ」
 愚兄達の似合っていない服やアクセサリーにつぎ込んだ金額でいくつケーキが買えるかしら?
 次に愚兄に会ったときにつつくネタが増えましたね。

 シェリアは十二歳とは言え、義理の姉の参加したお茶会で知り合った友人も多くいるからと、友人から聞いた王都の流行のお菓子やファッションなどを私に教えてくれます。
 王都に知り合いがいない私にはありがたいことです。
「ちょっと古いけど、王都では有名な話があるの。それこそ大抵の人が知っているような」
「そんなに有名な話があるの?」
「叔母様の偽物の話よ! 公爵令息、王子をも虜にして求愛されたレーニアは、欲に惑わされることもなく親が決めた婚約者と誠実な愛を貫き通したって、一年前くらいにはすっごくその話で持ちきりだったわ」

 残念過ぎる本物は、公爵令息にも王子様にも会ったことはありません。
 後、噂では素晴らしく無欲である扱いの偽レーニアさんは、調べた結果かなりの欲深というか、とてつもなく強突く張りでしたよね。

「ただ話を知っている人が全員偽物を本物と思っているのが難点ね」
「本物は王都にもいなかったのに、本当に不思議なことよね」
「婚約もなくなったんだし、叔母様の身分的にも本当に公爵令息や王子は狙えるんじゃないの?」
「身分だけならね。婚約破棄だから、ちょっと厳しいところかしら。一応、傷物令嬢になるし」
「あー……女性が悪くなくても破棄したら女性が不利になるって話ね。まるきり叔母様は悪くないのに理不尽よ」
 あれだけの状態になっていたのですから貴族としての体面上、解消ではなく破棄せざるを得ませんでした。

「でも次は、叔母様には正しく相応しい方の元に嫁いで欲しいわ。何も持っていない上に叔母様には興味のなかった前の婚約者のような人は駄目よ」
 心配するシェリアに笑いかけます。
 何も私に興味のなかった元婚約者は、確かに貴族同士の都合だらけの結婚としてもありえませんよね。

 でも最近、私も手紙が来なくなるもっと前からトーラス様に興味がなかったんじゃないかと思っています。

 確かに婚約が成立したときは領地を離れることができない季節でしたが、自由になる冬が来ても王都にいるトーラス様に会いに行こうとは思いませんでした。手紙が来なくなっても、トーラス様が成人されたときも、学園を卒業されたときも、私はただ手紙や贈り物をするだけ。

 これでは偽物に婚約者を騙し盗られても仕方ないかもしれません。

「当分王都にいらっしゃるのでしょう? 折角だし叔母様もお茶会や夜会に出てもいいんじゃないかしら」
「そうね。参加できそうなら少しくらいは出てみたいかもしれないわ」
「せっかく貴族なんだから、華やかな世界も楽しみましょう!」
 シェリアが笑うと私も楽しくなりました。
「そうね。楽しみだわ」

 今更後悔しても仕方ないことです。
 元々前提的にお互い愛など二の次の婚約をしていたのですから。
 箇条書き男も何も私に伝えられずに終わった。

 ただそれだけです。
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