[完結]加護持ち令嬢は聞いてはおりません

夏見颯一

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12,美人と言われたことはありません

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「君が、レーニア?」

 最近同じ質問を繰り返されるので、そろそろ飽きてまいりました。
 そもそも私の方が「貴方誰ですか?」とまず聞きたいところです。人に名前を聞く前に先に貴族だったら礼儀として名乗れということですよ。
 ただ相手の身分が私より上の可能性があるので問い返しこそはしませんが、私は不満を込めて答えず沈黙することにしました。


 実家のオラージュ公爵家から戻ってきた母は、母と同年代くらいの女性と男性、会うなり挨拶もなく質問をぶつけてきた青年の三人の客人を連れていました。

「やだ。レイチェルにそっくりじゃない! 私からしたら絶対間違えないわ!」
 レイチェルとは母の名です。
 親しげに母と並んでいる女性は、顔立ちが何となく母に似通っております。愚兄達とは違い、自然な感じにさらりと高級品を身につけたその女性は、コロコロと笑いながら、
「初めまして、レーニア。私は貴女の伯母のリーンベル・オラージュ。現役の公爵家当主よ。隣にいるのは夫のベルン」
 予想通り伯母一家でした。
 初めて会った伯母は母よりずっと派手とも言える華やかさがあり、その伴侶である伯父は空気のように控えめな美形です。
「そっちは不肖の息子のフレイよ」
 会うなり礼儀を欠いた発言をした従兄は、伯母から紹介されると明後日を向いて不貞腐れました。そういう顔をすると、両親から引き継いだ折角の顔の良さも台無しになりますよ。

 しかし、公爵令息ですか……。シェリアの教えてくれた話にも同じ公爵令息が出てきましたね。もしかして従兄のお知り合いかもしれません。

「あの偽物に求婚した公爵令息ってフレイのことよ」

 まさかの本人暴露がきました。何というか全然笑えません。
 いえいえ、まずかなり近しい血縁者が関係者だったことに驚きましたよ。

「母上が叔母上に連絡して下さっていたら、こんな事にならなかったんですよ!」
「馬鹿馬鹿しくて連絡するわけないでしょ。近しい関係の家でレーニアの事情を早くから知っているのに、成人間近になって今更婚約したいと言い出した理由が可哀相って、何? そんな憐憫だけで結ぶ気持ちがあるのなら、もっと早く、それこそ偽物のレーニアに会う前から申し込めたでしょう?」
「事情を知っていると言っても、幼い子供の頃に聞いた話ですよ。その後もレーニアとは会ったことがなかったから、ついつい他人事だと思ってしまったんです。そりゃあ言うのが遅すぎるとは分かってはいます。でも、学園で会った時点でようやく可哀相な事情だときちんと理解しただけなんです」
「何言ってるの。貴方の立場なら、まだ初めて会った従妹が美人だったから惚れたって理由の方が他からしたら納得できるのよ。一番最初の時点で可哀想なレーニアを突き放しているのだから、当たり前でしょう」
「突き放したのは母上もでしょう!」
「他家の当主が決めたことはいかに我が家が公爵家とは言え、滅多なことで口出ししてはいけないに決まっているでしょう。フルレット侯爵家しかり、ヴィンレー伯爵家しかり、その家その家の事情があるのだから。ただ私は伯母だから、何か起こったら妹達を助ける準備はしていたわ」
 次男との婚約が決まった後に長男を後継者として届けたヴィンレー伯爵には、伯母としても思うところがあったと前に母から聞いたことがあります。

 それにしても……従兄と伯母の話を聞いていると、ちょっと私的にも従兄には思うところが出てきます。

「そんな、美人だったからって……」
「貴方ね……はっきり言って偽物のレーニアが美人だったから求婚したとしか見えないのよ。変に中途半端な言い訳はしない方が傷が浅く済むから!」

 他の人に口や感想を挟ませる余裕も与えない、早口で矢継ぎ早な口喧嘩は伯母の圧勝でした。
 従兄は悔しそうに伯母を睨んでおります。

 二人の会話が終わって……そろそろ私は聞かなくてはいけないと思うのです。
 王子にも求婚された偽レーニアとは結局、

「私の偽者は美人でしたか?」

 凄く気になっていたんですよ。
 私が訊くと従兄は苦虫を噛み潰したような顔をして俯き、伯母はとても楽しげな顔をして、
「うふふふふふ。肩書き付きならよくモテるってことよ」

 う、うーん?
 美人かどうか訊いたのに、肩書きですか……?
 従兄はより一層強く伯母を睨んでいますね。
 どういうことでしょう?
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