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63,終わりへの道筋
しおりを挟むしばらく、私達は抱き合っておりました。
ようやく会えた喜びと、本当のことをお互い理解したことに離れがたさがありまして……。
もう少し、もう少しと思っていましたが、私にはやらないと行けないことがあります。
「そろそろ放してくれない?」
「もう少し」
そう言われると、私もまたレイの胸に顔を埋めてしまうわけで。
分かっています。
王妃殿下をお待たせしている可能性については。
分かっているのですよ。
分かっているからと言って、すぐに気持ちを切り替えて離れられるものですか?
「もう少し、ではなくてずっとこうしていたいけど、今はこれまでにしておかないと王妃殿下がお怒りになるよね……」
レイの寂しそうな声に、私もきちんと現実に向き合うことにいたしました。
……これ以上待たせていたら、流石に穏やかな方でも怒りますよね。
いえ、王妃殿下相手に待たせる方が、明らかに悪いですよね。
離れていくレイの手が、近くにいても寂しいと思ってしまうのは、ちょっとだけ心が通じ合ったが故の我が儘でしょうか。
「王妃殿下の所に行こうか」
もうレイは母とは呼ばなくなりました。
本物の第2王子殿下の母親である王妃殿下は、何を秘密にし、何を思われていたのでしょうか。
外で待っていたディルさんを連れて、私達は王妃殿下の元へ向かいます。
「犬に怯えて人がいないの?」
ディルさんは困ったようにため息をつき、
「……怯えますよね。影のように消えて現れることが昼夜問わずでは、普通の神経では無理ですよ」
「そんなことになっているってさっき初めて聞いたのよ」
「私も今日初めて理解しました」
あら?
「レイ?」
「ごめん。説明不足だった。こうなったのは昨日君がオラージュ公爵家に出かけた後からだ。加護持ちが王城に1人もいなくなって、一気になったかな」
1人もいない?
そう言えば、メイリアが加護持ちは登城するだけでお給金が出ると仰っていましたね。
「加護持ちを城に集めていた理由は加護の打ち消しと干渉で、穢れそのものと『反転の鏡』での穢れの反射の反動を打ち消していたのね……」
互いに複雑に組み合わさった結果であり、成功したのはほぼ偶然の成功に近いでしょうけど、こんな事をよく考えついたものです。
ああ、今やっとメイリアが、自身が知らぬ間に果たしていた役目について理解しました。
「『反転の鏡』があったから……」
「それにメイリアの破壊の加護で穢れの完全打ち消しが成功してしまった。王城内限定とは言え、陛下には十分だったでしょうね」
私は同時に、本当に嫌になることに気付いてしまいました。
この王城にいる2人は、加護持ちではないのですよ。
陛下は子供とは疎遠でも、2人には執着し、側にいるようにしておられました。
「この仕組みは、王妃殿下と側妃様を守るために作られたのです」
陛下の持つ穢れから、2人を守るための仕組みです。
王妃殿下は、真実に何を思われるでしょう?
王妃殿下の元には、顔色が多少悪いのですが、侍女やメイドが数名控えておりました。
部屋の前には騎士がおりましたし、王妃殿下の部屋は私やレイの、第2王子殿下の部屋とは扱いが違うことがよく分かります。
直前まで執務を行っておられた王妃殿下は、私達が机の前に行くと、
「挨拶は不要です。急ぎのことですから、手早く済ませましょう」
そう仰って王妃殿下が人払いをしようといたしました。
侍女もメイドも退室しようと動き出しましたが、1人の侍女だけは、
「王女殿下がいらっしゃいます。我々は安全のために退室は出来かねます」
「私がいるのにか?」
若干不快さを滲ませたレイの言葉にも、侍女は怯みません。
「第2王子殿下は王妃殿下の実子であられますが、王女殿下は……」
私は王城に来て、初めて私を蔑んだ目を向ける方にお目にかかりました。
……どちらに所属しておられる方なのでしょう?
先程から警戒している狂犬集団でしょうか、王妃殿下の取り巻き、はたまた陛下の腰巾着? それですらない、ただ情報に疎い者か、虎の威を借る狐?
よく考えれば、どれでも私にとっては一緒でしたね。
「実子ではないから、お前に何か関係があるの?」
王妃殿下はばっさりと侍女の発言を切り捨てられました。
「私共は王妃殿下の身を守るためにいるのですよ」
「だから、王族に対して敬意も持たないと言うことね。護衛も出来ないただの侍女なのに、随分偉そうよね」
かなり率直な物言いに、私の方が驚きました。
「王妃殿下!」
ウィルマよりも年配の侍女は主である王妃殿下に詰め寄らんばかりでしたが、その侍女を王妃殿下は冷たく見据え、
「私の息子も信用できないのなら、もう来なくて良いわ。今すぐ消えて」
最初の時点でこの侍女は失言しておりますよね。
「私は王子殿下のことは……!」
「息子に信用しないと言ったのは、お前でしょう」
第2王子殿下に反論して、出て行かないと言った意味はそういう事ですよね。
自分の失態にようやく気付いた侍女は、青くなった顔で口をパクパクさせております。
「身の安全ってお前が私のことをどうやって守るというの? 騎士でも何でもない、ただの年老いて動きの鈍い女が何をできるのか、私には理解できないわね」
「……私は!」
「残りたかったのは私のためではなく、自分の為でしょ。自分の利益になるように立ち回りたかったのなら、出て行った方がましだったわね」
いつからこの侍女が王妃殿下の信用をなくしていたのかは、私の知るところではございません。
王妃殿下の口振りからすると、一朝一夕のことではないような気がいたします。
やがて他の侍女達の手で老いた女性は部屋の外に連れ出されて行きました。
「実家の力があるのも考え物ね」
王妃殿下の実家からの縁で来られた方でしたか。
まあ、人のしがらみは難しいものですね。
「それで、ケイティに会いたいとか?」
話はそこまで伝わっておられたのですね。
「はい。王妃殿下のお力をお借りしたく」
「私も力になるけれど、王城内はいまゴタゴタしているから申請の許可が出るまで少し時間がかかるかも……」
「王妃殿下の威光で強行突破いたしたいと言うことです」
私の言葉に、一瞬王妃殿下はキョトンとされて、そして大笑いをされました。
「強行突破! いいわね。若いときはベル達と押し通したわね。ああ……私も年を取ってしまったから、こんな単純なことにも気付かなかった」
しきりに笑った後、王妃殿下は立ち上がられて、
「行きましょう。本当は私も冗長なのが嫌いだったのよ」
心なしかウキウキしておられる様子です。
「私もケイティが何を考えていたのか知りたいわ」
3人は昔は親しかったと仰っていましたね。
「……王妃殿下はどこまで側妃様の事情を御存知でしょうか?」
「事情? ……ケイティに何かあったの?」
ディルさんとレイを見ると、静かに首を振られました。
そうですか。王妃殿下は何も御存知ないのですね。
「何かあったの? 知っているの?」
今は距離があっても親しかった者だからでしょう。
王妃殿下は私に心配そうに尋ねられます。
「……側妃様には第2王子殿下の少し後にお生まれになった姫がおられました」
その秘密は王妃殿下には、あまりに悲しい話でした。
それでも、知らずには先には進めません。
私はウィルマから聞いて知っている話を王妃殿下にお話ししました。
少しの間、王妃殿下は黙って俯いておられました。
「……事情は分かったわ。この先は私がケイティに尋ねるわ」
真っ直ぐ前を見られた王妃殿下は、
「ケイティだって、きっと私に会いたいと思っているでしょう」
私達は、ようやく拗れた秘密を明らかにできそうです。
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