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番外編・北に行った彼女
しおりを挟む北のアルブラニアに王子様を担いで行かれた親友のメイリアがどうなったのか。
アウリス様から王位を引き継ぐ予定となった私は今更の知識の詰め込みや公務でそれどころではなく、気にはなりつつもメイリアのその後を調べることも聞くこともありませんでした。
だから、北の隣国アルブラニアとアウリス様の母国でもある東の隣国、我が国とで安全条約が結ばれる予定となって初めてメイリアの現在を知ることとなりました。
まさか、北の覇王になっているとは思いもよりませんでした。
我が国では先代王が穢れや諸々の加護の重なった影響を消すことに、メイリアの加護は勝手に利用されておりました。
ですが、本来は武神の加護。
正しき武人の道を歩むなら尽きぬ加護を与えられるという加護は、本来は戦いの場に立つべき者だという証でもあるのです。
戦そのものは起こることはなかった我が国で生かせなかった加護も、アルブラニアでは国に巣くうやばめの王族をぶっ飛ばし、汚職にまみれた貴族を投げ飛ばした結果……禁忌を犯した事による穢れをも打ち砕くことに成功したというではありませんか。
そして、国に光をもたらした王妃、だったんですよ、最初は。
少しばかり豊かになってくると、まだ国力が回復しきっていないアルブラニアを狙う国々や他民族などが狙ってくるようになったのです。
幾度となく戦を仕掛けられる度にメイリアは自ら戦場に立ち、己の手が汚れることを厭わず自国を守り、守るためには自ら戦争を仕掛け勝ち続け。
今は不敗の覇王になられました。
久しぶりに会う親友に緊張しておりましたが、会談の席に現れた見事までの武人となられたメイリアは変わってな……大分姿は変わられてしまいましたが、
「友よ、ようやく会えたな」
「メイリア……!」
ああ、あの日、侵略? 結婚だったかしら……で、旅立ってから一度も会えなかった親友は素晴らしい覇王になっていたのです。
「私も女王になる事を決意したの」
「そうか、国を違えた私には出来ることは少ないが、もし其方の身に何かあったら私は相手の一族郎党を血祭りにすると誓おう」
まあ、メイリアったら、少しも友情は失われていなかったわ。
「いや、だから別人……」
「あれ武神じゃないのか……」
「実は加護持ちって超絶怖い存在だろう……」
外野は何か五月蠅いですが、
「で、あの王子様と結婚したの?」
そういえば、結婚したとは聞いておりませんので、尋ねてみました。
メイリアは私の胴と同じくらいの太さの腕を組んで、
「結婚するには軟弱だから泣きわめいて五月蠅いのでな、ちょっと面倒なので喉を潰すかと思ったのだが、私の忠臣が欲しいというので褒美として下賜したのだ」
また色々端折りましたね。
ディルさんの例もありますから、私は深くはお聞きしませんよ。
「変わった趣味の女性もいらっしゃいますものね」
「いや、忠臣は男だ」
駄目よ。
聞いては駄目。
何かやばいものが隠されていたらどうするの?
困惑をしている私も、表面上は完璧に繕えるようになりました。
「ふふふ……色々ありますものね」
「ああ。聞くところによると、王子だった男に娘が暴力を振るわれて大怪我を負ってしまったのを恨んでいたらしい」
ごめんなさい、深読みしすぎだったのね。
ちょっと疲れているかもしれないわ……。
「最近は忠臣の妻をやっていると耳にするが……まあ、働いてくれたら私は細かいところは気にせん」
ねえ!
どういうことなの!
動揺しすぎて私の精神は崩壊しそうです。
「という事で、私も妻を貰ったんだ」
どこから突っ込めばいいの!?
目が泳いでしまっている私の前に、何やら綺麗な格好をした子が現れました。
「紹介しよう、私の妻だ」
「初めまして! メイリアの妻のリューテです」
……声は、低いですね。
妻と呼ばれたリューテと名乗る方は、私よりも長身で、どちらかと言えば美しい方なのですが。
「アルブラニアの前の王家の末王子だった者だ」
結論、アルブラニアの新しい王家では、場合によっては男の方でも妻になれます。
人生に何かあった場合は、この選択肢のあるアルブラニアに移住してはいかがでしょう。
一瞬何か思考が飛びましたよ。
人生、色々ありすぎですね。
「メイリアの人生は、この国にいたときよりも輝いているのね」
「この道こそが、私が天から与えられた、まさに天命であったのだろう」
彼女はそうして条約を結んだ後は、妻を伴いまだまだ安定にはほど遠いアルブラニアにお帰りになりました。
「……跡継ぎは、リューテ様がお産みになるのかしら」
「機能的に無理だと思うけど……加護の力で何とかするんじゃないかな?」
レイは加護が万能のような事を仰りますが、無理ですよ。
北の覇王とその妻の生涯は、戦乱が多く残されている記述は少ない。
だが、今のアルブラニアの王家は覇王の血族で、
「父は覇王、母は王子であったが、奇跡の末に母が産み落とした子供が我々だ」
正式に記載されている事実であり、大国の王家に対して異論を挟むことは誰も出来ない。
___________
これで本編、番外編ともに完結です。
お読み頂きありがとうございました。
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