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エピローグ【願いを叶える精霊と王子様】
しおりを挟むアイル1人で片を付けた事を、アイルとの付き合いも深くなっていた騎士団は今更責めなかった。
文官だけが『精霊により消滅』と書くのが嫌で『行方不明』としたいと揉めたくらいだった。
なお、騎士が入る事を躊躇う異様に生臭い新都の匂いが消えたのは、年が明ける直前だった。
たった1人を捕まえる為に新都中を犠牲にしたアイルに、
「旧都側にも匂いが飛んできますよ! 祭りの屋台を楽しむ為にも何とかして下さい」
素直に訴える事が出来たのは精鋭?騎士くらいで、ちょっと騎士団長から精鋭?騎士は怒られたものの、同じく素直に反省したアイルが精霊を動かして大半の匂いを消した。
これによりようやく新都も日常を取り戻し始めた。
フォルクロア家が新都を王都に組み込んだ事はアイルだけが知っていた。
生臭い匂いを残したままにしていたのはアイル的には何ら意味はなく、単にアイルの気が利かなかっただけだったが、あからさまに旧都と差を付けられていると見たのは新都の住民だった。
「王都と同じ税金を払って認めて貰うべきではないのか」
旧都の屋台の為にフォルクロア家が匂いに対応したと聞いて、フォルクロア家に文句も上げられない新都の置かれた状況を危惧した者達が動き出した。
この結果、新都は再開発地区など一部を除き、王都に人間の尺度的にも正式に組み込まれる事になった。
そうやって王都が変わりゆく中で、冒険者ギルドは再び立場をなくしていた。
撤回したとは言えリンデル達の両親が完全駆除を求めていた魔物は全く対応出来ず、冒険者が新都内で暴れるのを止める事も出来ず、精霊キノコを求めた珍味ハンターの暴走を野放しにした挙げ句、仇も始末もつけたのはフォルクロア家であれば人心が離れるのも仕方ない事だった。
「珍味ハンターは不味いだろ」
古参の冒険者の忠告をも聞かず貴族相手の高額取引に目が眩んで問題を後回しにした王都の冒険者ギルド幹部は更迭された。
元幹部はかつてアイルに喧嘩を売った元副ギルド長の子飼いでもあった者だった。
今回の事は冒険者ギルドが王都から撤退となりかねない事態となっていた事から、王都冒険者ギルドは大きく人事を刷新した。
それでもやり直すのには時間がかかる。
しばらくは王都冒険者ギルドは不遇の時代が続くだろう。これもまた相変わらず一部の人間の暴走を見て見ぬ振りをした冒険者ギルド職員の自業自得と言えるだろうが。
年が明けると、直ぐにルードルフの結婚式と即位式だった。
新年のお祭り空気のまま迎えたお祝いは、新国王の隣にフォルクロア家が立つ国民にとって一番望ましい姿だった為に大いに盛り上がった。
その裏で、ルードルフは一つだけアイルに尋ねていた。
「アイル、私が王になっても良いと思うか?」
かつては取り戻したいと思っていた地位を得ても、1度奪われた記憶はルードルフから消える事はなかった。
特に何の瑕疵がなくとも相応しくないと断じられた経験は、やはり心の深い傷となっていた。
戴冠式を前に不安を吐露されたアイルはちょっと考え込んで、
「兄ちゃんが要らないというなら、世界を全て消去して」
「私が悪かった。そんな規模の破壊になるなら大人しく王位に就く」
「いやいや。兄ちゃんが望まないというなら、新しい世界を用意すれば」
「私は本心から王位を望んだんだ。これでいい」
「でも最新式の世界は」
「『何か』の楽園で王になってもな」
最終的にアイルの思考を正確に読み取ったルードルフは、式典の為に整えられたアイルの頭を掴んで振った。
慣れた侍女や侍従もどん引きするほど満面の笑みでアイルは戴冠式に出席しかけていたので、ちょっと目を回している方がどの道丁度良い。
ぐったりしたアイルがソファに沈んでしばらくすると、時間通りに侍従が呼びに来た。
起こす手間をかけず、アイルはよろよろと立ち上がった。
ちょっと八つ当たりも入っていたなと、ルードルフは反省した。
扉を開けると戴冠式が始まる瞬間アイルはルードルフに向かって、
「ここは僕が『兄ちゃん』にあげた場所なんだ」
その一言に、ルードルフは笑みを思わず零した。
幼い頃に約束した通り、アイルはルードルフを王にした。
ルードルフが望み、アイルも望んだからこそ、ルードルフは王となる。
「ありがとう、弟よ」
かつて初代国王が感謝したように、新しい国の歴史はフォルクロア家と共に始まるのだ。
何も持たなかった王子から王になった初代国王は、願いを叶えてくれた精霊と過ごす中、ずっと一緒にいられたらずっと楽しいだろうと純粋に思った。
だから、弟になりたいと言った初代フォルクロアの願いを叶えたのだ。
人間が精霊に願いを叶えて貰う事はあっても、精霊の願いを人が叶える事はまずない。
「君に会えた事が幸運だ」
そう言ったのは誰でもない、初代フォルクロアの方だ。
王子の子孫達もまた、フォルクロア家に望んだのは側にいる事。
誰1人として精霊の力なんか期待もしなかった。
それもまた、奇跡であろう。
戴冠式を終えたルードルフが王妃となったエレクトラと、フォルクロア家の代表であるアイルと共に広場を見下ろす王城のバルコニーに出たとき、精霊達は一斉に祝福の音楽を奏でた。
広場に集まった者だけでなく、王都にいた者全員がわっと笑顔で騒ぎ出した。
「精霊だ!」
王子と共にフォルクロアを支えてきた者達は、精霊にとっては愛すべき人間達だった。
人間達の求めるまま、姿を見せた精霊達は祝福を奏でる。
精霊と共にある国に真の王が戻ってきた。
フォルクロアに祝福された王の誕生に、離宮でひっそりと暮らしている前国王も静かに涙を流し、ちょっとだけ帰郷していた前ダルディス伯爵夫人とナリスも笑顔で祝いのワインを傾けた。
いつまでも奇跡を。
ずっと王家とフォルクロアは共にあるように。
フォルクロアの願いが叶えられ続けるように。
初代国王の起こした奇跡は今尚、この国のフォルクロア家を笑顔にし続けている。
_____________________
これにて長かった番外編も終了です。
後半は体調を崩して後で手直しする部分が多く、非常に申し訳ありませんでした。
年内ギリギリになってしまいましたが、無事に【願いを叶える精霊と王子様】編が完結してほっとしております。
読んで頂けてありがとうございました。
今年は読者の皆様に支えられて作品を書き続けられました。
来年もまた、頑張っていきますので宜しくお願いします。
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今年もありがとうございました!
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ありがとうございます!
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いつも更新ありがとうございます♪
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