せっかく魔王と婚約したのに嫉妬した女神が邪魔をしてきます

朝日はじめ

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第7章 魔王城での戦い

第36話 マッチングアプリは上手くいかない

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 モカを城に置くようになった翌日、モカは見習いメイドとして働くことになった。早速朝早くから駆り出され、慣れないながらも仕事を全うしようと懸命な姿を見せている。

「次は。あっちの。部屋」
「は、はい! 今行きます!」

 ムギの指示を受けたモカは、小走りで隣の部屋へと移動した。

「頑張ってるみたいだな」

 その姿を通路から眺めていた公一は頬を緩めた。
 モカは人間界から逃げ延びて魔界に渡り、右も左もわからない状態でありながら、ショコラに認めてもらおうと必死に働いている。まだ初日で様子見の段階ではあるが、この調子で勤めることができれば、そう遠くない未来でショコラの見る目も変わるはずだ。
 ショコラがモカにきつく当たるのは無理もない話だ。
 魔界の書物を一読して知った人間たちの、ひいては転生者とその子孫が魔界に行ってきた悪行は筆舌に尽くしがたい。人外を理由とした極端な差別と迫害に加え、魔族の一部が人間の奴隷として扱われていた時代もある。
 魔王になったショコラは、己の威を振るう目的も兼ねて、神々に匹敵する力を駆使して人間界に囚われていた魔族を解放し、魔界に保護した。大多数の流入で治安の悪化を懸念した配下に苦言を呈されたそうだが、魔王の名の下に一部の法を改正し、その上で的確な命令を下し、それらを実施させる圧倒的な実力を示した。
 果たしてショコラの辣腕で魔界は平定し、多くの魔族と魔物が平穏を享受できる時代が到来したのだ。
 時折ショコラは、多種多様の魔族の子供たちが「魔王様いつもありがとう!」と感謝を伝える映像を水晶玉で眺めながら、聖母のような笑みを湛えている。
 子供は無意識のうちに相手の本質を見抜く目を備えている。大人がショコラを畏怖していたとしても、本当のショコラは慈愛に溢れているのだと理解しているのだ。
 ショコラは民を守る魔王として、冷静に大局を見据え、一時の情に流されることなく、ときには苦渋の決断を下さなければならない立場にある。
 ショコラの重責は計り知れない。人間一人が相手だろうと、ほんの少しでも危険が及ぶ可能性があれば気を緩めてはならないのだ。未来の夫として、ショコラの意向に沿いながらも、道を踏み外したときは正しい方向に修正していけるように、より一層と己を磨き上げていく必要がある。

「モカちゃんはよくやってくれるみたいですね」

 公一が作ったクッキーをぼりぼりと食べながらマロンがやってきた。

「マロンも少しは働いたらどうなんだ? ごく潰しも同然だぞ」
「エロ悪魔のためにですか? 冗談じゃありませんよ。私は二人の仲を邪魔しに下界に降りて来たんです。私という何もしない居候がいることで、その処遇を巡って言い争いをさせる。そして関係が悪化する。これも計画のうちなんです」
「最低なことを言ってる自覚はあるか?」
「ありますよ。もうね、ここまで拗らせると恥とか外聞とかなくなるんですよ。みじめを通り越して悟りを開くようになるんです。周りがどう思うかより自分がどうするかです。私は何があっても己の信念を貫きます」
「言ってることは立派だけどやってることはしっかり最低だからな」

 公一は肩を落とした。もういっそこっちが信念を曲げてマロンを第二夫人にするべきなのだろうか、と一考がよぎる。
 ショコラが猛反対しているので実現は難しいが、説得すれば何とか、と思ったところで、これもマロンの作戦のうちでは、とかぶりを振った。

「……新しいマッチングアプリの調子はどうなんだ?」
「全然ダメですね。閲覧数も少ないし、いいねも付かないです」
「それ本当にマッチングアプリか?」

 小説かイラストの投稿サイトと間違えているのではないだろうか。神々の世界にもそんなものがあるかは知らないが。

「私思ったんですけど、やっぱり公一くんが私を嫁にもらってくれたほうが全部丸く収まる気がしませんか?」
「急に切り出してきたな。俺にはショコラがいるって何度も言ってるだろ」
「私は二番目でもいいですってばー。正妻の座を奪うなんて悪いこともしないって約束します。私が生きてきた年月のなかに結婚していたって事実が欲しいんですよー。もちろん子供も欲しいです。だから三人で仲良くしっぽりいきましょうよー。ねーねー」

 マロンは公一の衣服を掴み、大きく前後に揺さぶった。
 デパートで欲しい物を見付けて駄々をこねる子供そのものだが、マロンにとっては切実な願いなのだろう。目がバキバキだった。

「物欲しそうどころか取り殺すみたいな目をしてるぞ」
「結婚できなかったら本当に取り殺しちゃうかもしれないです。公一くんが結婚してくれるか他に相手を探すか何とかしてください」
「他力本願がすぎる。自分で解決しようと思わないのか?」
「それをやろうとしてダメだったからお願いしてるんです」
「確かにマッチングアプリやったり、勇者に唾付けようとしたり、紹介するようにお願いしたり、色々してたな。今の失言を謝るよ」
「嬉しい! 私と結婚してくれるんですね!」
「言ってない」

 公一は纏わりつこうとしてくるマロンを両手で押し退けた。

 神々の世界の実情がどうなっているのかは知らないが、話を聞く限りでは相当数の神が存在しているのは間違いない。それだけの神がいながらマロンを何とかしようとしなかったのは何故なのだろうか。

「少し目を離した隙に公一を狙うなんて油断も隙もないわね」

 何もない空間に裂け目が生じると、なかからショコラが姿を現わした。
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