終焉の召喚術師〜悪魔の蔓延る世界に立ち向かう少年たち〜

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第九章〜東部の傷跡〜②

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イースティアに到着した一同は、息つく暇もなく教会東支部へと向かった。
石畳の通りを抜け、大理石造りの門をくぐっていく。
するとそこに、エルクたち一行をすでに待ち構えていた人物がいたのだ。

「おーおー、来たなぁお前ら!ガハハハハッ!!」

豪快に笑いながら出迎えたのは、この地を束ねる支部長『ムジカ=イーラン』だ。
酒瓶を持ちながら満面の笑みを見せる彼は、少しおぼつかない足取りでエルクたちに近づいて来る。

「いやぁ、若いもんが来ると風通しがよくなるねぇ!さ、まずは一杯―――」
「僕たち未成年ですから……!!それに仕事中ですよね!?」

思わずツッコミを入れたフィールに、エルクたちの誰もが内心で同意する。

「なんか……想像以上にすごい人だね……」

ベルが目を丸くしながらぽつりと呟き、ヴァンはそっぽを向いたまま見なかったことにした。
だが、当の支部長ムジカは気にした様子もみせない。
そして、頭頂部に手をやり、髪を撫でつける仕草を見せた。―――が、その手の下には、もう撫でられるような『モノ』は存在していなかった。
堂々と……それでいて律儀に頭頂部を撫でつける姿に、一同は同じことを思ってしまう。

そこに髪はないだろ!!……と。

「さてさて、出迎えはこのくらいにして……こっちだ」

ようやく真面目な空気をまとったムジカは、くるりと背を向けるとどっしりとした足取りで支部の奥へと歩き出した。
彼に案内された先は、東支部の支部長室だ。
室内には広げられた地図と報告書の山があり、壁には雷や地滑りなどの自然災害を示す記録図が張り付けられている。

「東部の山あいにあるココル村が、壊滅状態に陥った話は聞いているな?」

ムジカは声を低くし、そして報告書を数枚手に取った。

「報告によると、突如として黒雲が立ち込め、大雷と嵐、そして連鎖的な山崩れが発生したらしい。村は一晩で壊滅し、生存者の確認は取れていない」

その様子を想像した一同に、緊張が走った。

「そして、その発生した時間が問題だ。お前たちがラインバーグで交戦していた時間と重なることから、何かしら関係があるとみてる」

そう言うと、ムジカは机の端に置かれていた封筒から、一枚の紙を取り出した。

「そしてここに、気になる証言の報告書がある。ある旅人が、ココル村の外れを赤髪の男ともうひとりの男が走り去ったのを見たというんだ」

その言葉に、ライナスの視線が上がる。

「赤髪の……男……?見たことがある気が……」

考え込むライナスに、エルクが身を乗り出す。

「どこでだ?思い出せ」

するとライナスは、目を見開いた。

「……三年前だ。祠に連れていかれたとき……赤い長髪の男が何かをしてた……間違いない」

ライナスの証言により、部屋の空気が一瞬、凍りついたように静まり返る。

「それが本当だとしたら、その男は崇拝教の一員だとみて間違いないだろう。そして、ココル村の壊滅も、……奴らが大罪の悪魔と何かを結びつけようとしている可能性がある。……お前らの村と同じようにな」

重苦しい沈黙が落ちるなか、エルクはゆっくりと立ち上がった。
そして、地図をじっと見据えながら―――

「……行こう。俺たちで確かめるしかない」

と、呟く。
すると、それに賛同するようにフィール、ライナス、ヴァン、ベルも立ち上がった。

「行くのなら、明日にするといい。もう夕暮れを越して夜になる。そうすると見えるものも見えねぇからな」

ムジカはそう言って立ち上がると、どこからかまた酒瓶を取り出してごくりと一口飲んだ。

「明日の朝一で馬車を手配しておこう。今夜は東支部の宿舎でしっかり休んでおけ」

エルクたちは頷くと、部屋をあとにするため扉に向かう。
そこでフィールがくるっと振り返り、ムジカにこう尋ねた。

「明日の朝、支部長とは門の前に集合でいいですか?」

するとムジカはにやりと笑い、腰に手をあてながら答えた。

「いいや?わしは行かんぞ?戦場は管轄外なうえ、朝に酒が抜けてることは……まぁない」

その場に妙な沈黙が流れ、エルクたちは皆、呆気にとられてしまったのだ。

「じゃ、じゃあ……門の前に僕たちだけ集合します……」

フィールが顔を引きつらせながら答えると、ムジカは「おうよ!気をつけてな!」と満面の笑みで手を振る。

こうして一行は、ほんの少しだけ気の抜けた空気を背に、宿舎に向かったのだった。
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