終焉の召喚術師〜悪魔の蔓延る世界に立ち向かう少年たち〜

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第十五章〜光の復元と闇の喪失〜②

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それは三年前、あの嵐の夜に見た悪夢の光景とまったく同じだったのだ。

(なんで……なんでここにサタンが……!?)

エルクは混乱する思考を、無理矢理巡らせる。
だが答えは出ない。
脳裏には三年前のあの光景が蘇り、胃の奥がねじれるように痛む。

(落ち着け……落ち着け……)

サタンは、何も言わずにゆっくりと歩みを進めた。
コツ、コツと石畳を鳴らす足音が、異様な静けさのなかでやけに大きく響く。

(来る……!)

身構えようにも、エルクの身体は凍りついたように動かない。
心臓が早鐘のように鳴り、冷たい汗が背筋を伝った。

(動け……動けよ……!)

サタンはゆっくりとエルクの傍らにまで歩み寄ると、―――まるでこちらの存在など最初から見えていないかのように無言のまますれ違っていった。

コツ、コツ……コツ―――

「まっ……待てっ……!!」

咄嗟に振り返り、エルクは声を張り上げた。
だが、雷光が再び廊下を照らしたその瞬間、そこには誰もいなかったのだ。

(消えた……!?)

静寂が支配する廊下で、再び空気が重く沈みこむ。
そのときだった。

ドォォォォォンーーーッ!!!

突然、教会の地下の方角から重く鋭い衝撃音が轟いたのだ。
床が震え、壁が微かに揺れる。

「なんだ……!?」

まるで地の底から唸るような振動が、全身に伝わってくる。

「―――っ!!」

エルクは慌てて駆け出した。
急いでこの状況を誰かに知らせなければと、息を切らせながら廊下を走り抜ける。

「ライナス!フィール!起きろ!!」

エルクの叫びと同時に、二人は廊下に飛び出てきた。
それに続くようにベルも慌てて駆け寄り、すぐに状況の異常さを察知する。

「地下ね……!」
「行くぞ!」

彼らはほかの教会員たちとともに、地下へと続く階段へと向かって走り出した。
現場にはすでに枢機卿たちも駆けつけており、砂煙で騒然とする教会員たちをバールが手で制している。

「下がれ!騒ぐな!」

砂煙が舞い上がるなか、闇の奥―――湿った空気を割ってコツ、コツ……と足音が響き始めた。
その足音はひとつではなく、複数―――まるで、何者かが列を成して歩み寄ってくるように聞こえる。

「……来るぞ」

バールが低く呟くと、枢機卿たちは武器を手に緊張を高めた。
次第にその姿をはっきりと見せる影が、砂煙の奥から浮かび上がってくる。

「なっ……!?」

先頭に現れたのは、赤い長髪を揺らし、唇の端に怪しく笑みを浮かべる男『ベルゼブブ』だった。
そのうしろに続くのは、巨大なヤギの頭を持つ悪魔『ベルフェゴール』。
さらに、流動する影のように姿を歪めながら進む男『アスモデウス』が現れ、銀黒のツートンカラーの髪と金色の瞳を持つ『サタン』が不気味な笑みを浮かべつつ歩を進める。

「サタン……!!」

エルクが唇を噛みしめ、拳を強く握った。
目の前に現れた悪夢の光景に、全身の血が逆流するような感覚を覚える。

(なぜ、ここに全員そろって……!)

そして最後に、ゆらりと姿を現したのは―――

「ルシファー……!」

バールが低くその名を呼ぶと、ルシファーは微笑を浮かべた。
理性と狂気が同居する異様な光を宿しながら、ゆっくりと口を開く。

「久しいな、中央教会の諸君」

まるで旧友にでも語りかけるような落ち着いた声だが、その色に場の空気は一層重苦しくなっていく。

「なぜ……お前たちがここに現れた?」

バールは剣を構えたまま問う。
しかし、ルシファーは答えず、代わりに背後の五体が静かに笑ったのだ。
ベルゼブブは唇を吊り上げ、ベルフェゴールはゆったりと首を傾げる。
そして、アスモデウスはその巨体を揺らし、サタンは歪んだ笑みを張り付けたまま無言で立っていた。

「我々は、『刻』に従い進むまで」

ルシファーがそう言い放つと、ふっと一歩前に出た。
その瞬間、エルクたち全員の肌に冷たい汗がにじむ。

「貴様らが何を企んでいようと―――ここは通さん!!」

バールが宣言するように剣を掲げると、それに呼応するように枢機卿たちは戦闘態勢に入った。
続くように、エルクたちも身構える。

すると突然、ベルゼブブが腕を上げたのだ。
そして、その指先がゆっくり動くと同時に、湿った地下の空間からずるりずるりと虫が這い出してくる。

「っ……!」

最初はわずかだったそれは、瞬く間に壁や天井を埋め尽くし、空間全体を不気味に蠢かせた。

「気持ち悪……!」

フィールが思わず顔をしかめ、一歩下がる。
蠢く群れは甲虫、蠅、巨大な蜘蛛にくわえ、羽音を立てる異形の蜂―――。
そして、そのすべてが教会員たちへと迫るなか、バールの剣が静かに燃え上がる。

「ここは俺に任せろ!」

炎によって焼き焦がされた虫たちは、断末魔の悲鳴をあげ黒煙とともに崩れ落ちていく。

「次は……まとめて灰にしてやろう」
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