終焉の召喚術師〜悪魔の蔓延る世界に立ち向かう少年たち〜

NovaPro

文字の大きさ
69 / 97

第十五章〜光の復元と闇の喪失〜④

しおりを挟む
こうしてマリアたちが一斉に攻撃へと転じたころ、ルーインは薄暗い廊下の奥で剣を構えていた。
先ほどから姿を消しているアスモデウスと思しき男に向けて、神経を研ぎ澄ませている。

「……また気配が消えましたね」

静寂と緊張が重く支配するなか、ルーインは息を整えた。
まるで獲物を待つ狩人のように、集中を高めていく。
そのときだった。

「―――!」

廊下の先で倒れていた教会員のひとりがふらりと立ち上がったのだ。
その表情は虚ろなものの、どこか違和感がある。

「……来ましたね」

ルーインは目を細めた。
そしてノルンの力を使い、そのわずかな違和感の正体を見極めようと集中する。
すると、未来の断片が視え―――数秒後、その教会員がルーインめがけて襲ってくる光景が映し出されたのだ。

「やはり……!」

ルーインは剣を構え直し、即座に身構えた。
予知されたとおり、教会員の姿をした男の顔が突然歪み、口元が不気味に吊り上がっていく。

「気づかれちまったなァ?」

声を聞いたルーインは―――確信した。
目の前にいる教会員の姿を模した男が、森で戦ったアスモデウスだと。

「あなたの本質は知っています。どんな姿になろうとも……ここで仕留めます!」

剣を構え直すルーインに、アスモデウスは不気味な笑みを浮かべた。
そしてーーー

「じゃあ……これはどうだ?」

そう言うと、アスモデウスは教会員の姿のまま、その身体をぐにゃりと歪ませた。
まるで水面に映る像がぶれるように動き、次の瞬間―――左右に二体、まったく同じ姿をした教会員が現れたのだ。

「三体同時……!」

ルーインは眉をひそめた。
三体は、まるで鏡写しのように微笑を浮かべている。
すると三体は、各々勝手に話し始めたのだ。

「どうだァ?」
「あちこち見ながら戦うとか、めんどくせぇだろ?」
「三方向からぶっ叩かれて、これで生きてりゃ大したもんだぜ?」

「……卑劣な真似を」

剣を握る手が強くなっていくなか、三体のアスモデウスは静かにルーインを包囲していく。

「さぁ、一発目……誰から受けたい?」

アスモデウスは同時に口を開き、声を重ねる。
森で聞いたあの声が響いてくるような感覚に、ルーインの背筋に冷や汗が伝う。

「ふっ……なら―――降ってきた攻撃をすべて斬ればいいだけのこと」

ルーインの足が動いた瞬間、三体のアスモデウスが同時に反応した。
鋭い斬撃が前後から迫る。

「勝負!!」

こうしてルーインとアスモデウスが交戦を始めたころ、フィールとベル、枢機卿のハイントスマンはルシファーと対峙していた。
崩れかけの石壁の前で、三人は無言のまま武器を構えている。

「……ルシファー」

ハイントスマンが低くその名を呼ぶと、ルシファーは無造作に肩にかついだクロスを傾けながら、口元をわずかに動かした。

「枢機卿……ぬしが出てくるとは、少し意外だな」
「貴様らの存在が地上に降り立った以上、我らは黙して見過ごすことなどできぬ」
「『我ら』……か。それは滑稽というもの。神の名を借り、なおその神に近づけぬ者たちが何を言うか」

冷たい声に、フィールが一歩踏み出す。
そして―――

「僕たちはここでお前を止める。この力が神に届かなくても、立ち向かうことはできる!」

と、その瞳にはっきりとした怒りの炎を宿したのだ。

「ならば見せてみろ」

ルシファーの声が落ちた瞬間、空気が震えた。
次の瞬間、彼の足元から影が蠢きだしたのだ。
その影は石壁や柱の陰、天井の梁からも溢れ出し、まるでこの空間すべてが彼の支配下にあるようだった。

「来るぞ!!」

影は無数の剣や槍、鎖などの武具へと変貌し、三人へと狙いを定める。
音もなく走り出す影に、ハイントスマンは咄嗟に光の障壁を展開した。
すると、影の槍が幾重にも突き刺さるが、光の壁はそれらをかろうじて受け止めたのだ。

「フィール、ベル!今のうちにルシファーに攻撃を!」

ハイントスマンが叫ぶと同時に、二人は頷き左右から仕掛ける。

「行くよ、ベル!」
「うん!こっちは任せて!」

フィールは風を纏い、影のなかを疾走した。
それを援護するようにベルは水で刃を作り、近づく影の武器を切り払っていく。

「……その程度の突破力でどうにかなるとでも?」

ルシファーは冷笑を浮かべ、肩に担いでいるクロスをやや傾けた。
するとその瞬間、地に落ちるすべての影がざわめき始めたのだ。
石壁の影や倒れた柱の影、フィールとベルが踏みしめる足元の影までもが揺れ動く。

「っ!?来る……!」

フィールが直感で飛び退いた刹那、地面から無数の影が飛び出し、まるで生き物のようにフィールを囲った。

「そんなの、させないんだから!!」

ベルが手を広げ、轟音とともに水の槍を放った。
それは影の束を裂き、刈り取っていくが次から次へと新たな影が現れる。

「キリがないわ……!」

ベルが歯を食いしばるなか、ルシファーは冷たく笑った。

「所詮はその程度か。どれだけ抗おうと、貴様らの力など神の模倣品に過ぎぬ。最高神が死んだというのに……ウヨウヨと湧きおって」

嘲るように吐き捨てると同時に、ルシファーの背後から膨大な影が爆ぜるように立ち上がった。
まるで空を覆い尽くす闇の波に、フィールたちは息を呑む。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...