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18話
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ユストス騎士の反乱未遂から一週間。
王城の扉は修復され、表面上は平穏が戻ったように見えた。
だが、ユストスは「反省」という名の謹慎処分(実際は、ディルク殿下の目の届く場所での監視)となり、以前にも増して僕への執着を、心の声で垂れ流すようになっていた。
そんな中、僕の知らないところで、ある奇妙な噂が王都中に広がっていた。
「レアン様、知っていますか? 今、街ではあなたのことが『エトワールの聖女』と呼ばれているんですよ」
朝の着替えを手伝いながら、ベアトリスが興奮気味に教えてくれた。
彼女の脳内は、今日も絶好調に『実況モード』だ。
(……ふふふ。レアン様が殿下の魔力を鎮めるために、夜な夜な『聖なる儀式(笑)』を行っているという噂を流したのは私だけど、まさかここまで公式設定として定着するなんて! 国民たちは皆、レアン様が殿下の暴走を止める唯一の存在だと信じて疑わないわ! 頑張れ殿下、もっとレアン様を聖女(受け)に仕立て上げるのよ!)
(……ベアトリス、君だったのか。噂の出所は……)
「聖女だなんて、僕は男だよ。それに、殿下の魔力を鎮めているんじゃなくて、僕の方が魔力に酔わされているだけなのに……」
「いいんです、結果オーライですわ。そのおかげで、かつての悪役令息としての悪評は消え去りました。今や、あなたは隣国からの侵略を跳ね除け、王子の狂気を愛で包む、王国の象徴なんです!」
ベアトリスが窓を開けると、城下から「レアン様! ディルク殿下とお幸せに!」という国民たちの歓声が聞こえてくる。
どうやら、国民の多くが「二人の溺愛」をエンターテインメントとして消費し始めているらしい。
だが、当の本人であるディルク殿下は、この「聖女」という呼び名が気に入らないようだった。
「聖女……? 冗談ではない。レアンは私だけの、もっと秘められた、淫らな存在であるべきだ」
公務から戻ったディルク殿下は、不機嫌そうに僕を抱き寄せ、首筋に顔を埋めた。
『……聖女だと? 笑わせるな。……レアンがどれほど私の腕の中で乱れ、可愛い声で鳴くか。……そんな姿を国民たちが勝手に想像していると思うだけで、反吐が出る。……レアンは、私だけが知っていればいい。……ああ、君の純粋な祈りが魔力を鎮めるのではなく、私の愛欲が君の魔力を暴走させているのだということを、城のバルコニーで分からせてやろうか……』
(……殿下、本音が国民への宣戦布告になってる!)
「殿下、落ち着いてください。国民の皆さんは、僕たちのことを祝福してくれているんです」
「……祝福? 私への恐怖の裏返しだろう。……まあいい。レアン、国民への挨拶だ。バルコニーへ出よう」
殿下に導かれ、僕は城の広大なバルコニーに立った。
眼下には、色とりどりの旗を振る国民たちが埋め尽くされている。
「「「「レアン様ーーー!! ディルク殿下ーーー!!」」」」
その瞬間、数万人の心の声が、一斉に僕の脳内に流れ込んできた。
((((尊い……! 二人が並んでいるだけで、この国のGDPが上がる……! レアン様のあの儚げな笑顔、ディルク殿下が昨日何をなさったか丸わかりじゃない! もっとやって! もっと見せつけて!!))))
(……国民の皆さんの心の声が、ベアトリスと同じ方向を向いている……っ!)
僕は眩暈を感じてよろめいた。
すかさずディルク殿下が僕の腰を抱き寄せ、耳元で「愛しているよ」と囁く。
その完璧な『演技』に、広場からは割れんばかりの歓声が上がった。
だが、その歓声の渦の中に、一つだけ、氷のように冷たく、毒々しい本音が混ざっているのを、僕は聞き逃さなかった。
『……ふふ、盛り上がっているね。……いい気なものだ。……聖女の愛で王子を救う、か。……ならば、その愛が『裏切り』に変わった時、この国はどんな悲鳴を上げるだろうね。……楽しみだよ、レアン。……君の心に、消えない不信の毒を植え付けてあげる』
(……セレス王子!? 近くにいるの……!?)
僕は恐怖に周囲を見渡したが、銀髪の影は見当たらない。
平和を謳歌する国民たちの熱狂の裏で、隣国の魔手が、より陰湿な形で僕たちの絆を壊そうと忍び寄っていた。
処刑回避後の「甘い生活」は、再び暗雲に覆われようとしていた。
王城の扉は修復され、表面上は平穏が戻ったように見えた。
だが、ユストスは「反省」という名の謹慎処分(実際は、ディルク殿下の目の届く場所での監視)となり、以前にも増して僕への執着を、心の声で垂れ流すようになっていた。
そんな中、僕の知らないところで、ある奇妙な噂が王都中に広がっていた。
「レアン様、知っていますか? 今、街ではあなたのことが『エトワールの聖女』と呼ばれているんですよ」
朝の着替えを手伝いながら、ベアトリスが興奮気味に教えてくれた。
彼女の脳内は、今日も絶好調に『実況モード』だ。
(……ふふふ。レアン様が殿下の魔力を鎮めるために、夜な夜な『聖なる儀式(笑)』を行っているという噂を流したのは私だけど、まさかここまで公式設定として定着するなんて! 国民たちは皆、レアン様が殿下の暴走を止める唯一の存在だと信じて疑わないわ! 頑張れ殿下、もっとレアン様を聖女(受け)に仕立て上げるのよ!)
(……ベアトリス、君だったのか。噂の出所は……)
「聖女だなんて、僕は男だよ。それに、殿下の魔力を鎮めているんじゃなくて、僕の方が魔力に酔わされているだけなのに……」
「いいんです、結果オーライですわ。そのおかげで、かつての悪役令息としての悪評は消え去りました。今や、あなたは隣国からの侵略を跳ね除け、王子の狂気を愛で包む、王国の象徴なんです!」
ベアトリスが窓を開けると、城下から「レアン様! ディルク殿下とお幸せに!」という国民たちの歓声が聞こえてくる。
どうやら、国民の多くが「二人の溺愛」をエンターテインメントとして消費し始めているらしい。
だが、当の本人であるディルク殿下は、この「聖女」という呼び名が気に入らないようだった。
「聖女……? 冗談ではない。レアンは私だけの、もっと秘められた、淫らな存在であるべきだ」
公務から戻ったディルク殿下は、不機嫌そうに僕を抱き寄せ、首筋に顔を埋めた。
『……聖女だと? 笑わせるな。……レアンがどれほど私の腕の中で乱れ、可愛い声で鳴くか。……そんな姿を国民たちが勝手に想像していると思うだけで、反吐が出る。……レアンは、私だけが知っていればいい。……ああ、君の純粋な祈りが魔力を鎮めるのではなく、私の愛欲が君の魔力を暴走させているのだということを、城のバルコニーで分からせてやろうか……』
(……殿下、本音が国民への宣戦布告になってる!)
「殿下、落ち着いてください。国民の皆さんは、僕たちのことを祝福してくれているんです」
「……祝福? 私への恐怖の裏返しだろう。……まあいい。レアン、国民への挨拶だ。バルコニーへ出よう」
殿下に導かれ、僕は城の広大なバルコニーに立った。
眼下には、色とりどりの旗を振る国民たちが埋め尽くされている。
「「「「レアン様ーーー!! ディルク殿下ーーー!!」」」」
その瞬間、数万人の心の声が、一斉に僕の脳内に流れ込んできた。
((((尊い……! 二人が並んでいるだけで、この国のGDPが上がる……! レアン様のあの儚げな笑顔、ディルク殿下が昨日何をなさったか丸わかりじゃない! もっとやって! もっと見せつけて!!))))
(……国民の皆さんの心の声が、ベアトリスと同じ方向を向いている……っ!)
僕は眩暈を感じてよろめいた。
すかさずディルク殿下が僕の腰を抱き寄せ、耳元で「愛しているよ」と囁く。
その完璧な『演技』に、広場からは割れんばかりの歓声が上がった。
だが、その歓声の渦の中に、一つだけ、氷のように冷たく、毒々しい本音が混ざっているのを、僕は聞き逃さなかった。
『……ふふ、盛り上がっているね。……いい気なものだ。……聖女の愛で王子を救う、か。……ならば、その愛が『裏切り』に変わった時、この国はどんな悲鳴を上げるだろうね。……楽しみだよ、レアン。……君の心に、消えない不信の毒を植え付けてあげる』
(……セレス王子!? 近くにいるの……!?)
僕は恐怖に周囲を見渡したが、銀髪の影は見当たらない。
平和を謳歌する国民たちの熱狂の裏で、隣国の魔手が、より陰湿な形で僕たちの絆を壊そうと忍び寄っていた。
処刑回避後の「甘い生活」は、再び暗雲に覆われようとしていた。
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