親友と一緒に異世界転生したら俺だけ神獣だった件 ~伝説の召喚術師になったあいつの溺愛が物理的に重すぎます~

たら昆布

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5話

 王子との遭遇から数日。俺たちの客室には、異様な光景が広がっていた。

「……陽太、ちょっとそこ、じっとしててくれ」

 恭介が、分厚い魔導書を片手に、俺の全身をくまなく……それこそ毛の先一本一本まで観察するように見つめている。
 俺は今、恭介がわざわざ用意させた「回転式の円卓」の上に鎮座させられていた。

「きゅう、きゅう!(おい、さっきから目が怖いぞ。何の実験だよ)」

 抗議の声を上げるが、恭介は「ふむ……」と顎に手を当て、真剣な表情を崩さない。

「やっぱりおかしい。神獣に関する古文書を読み漁ったんだが、どの一冊にも『これほどまでに愛くるしい外見をしている』なんて記述はないんだ。むしろ『山を砕き、雷を纏う峻烈なる姿』と書かれている」

(そりゃ、俺の中身が普通の日本人だからじゃねーの?)

「つまり、陽太。お前は今、本来の魔力が『可愛さ』という形で外に漏れ出している状態なんじゃないか? だとしたら、その溢れた魔力を制御すれば、お前は人間の姿に戻れる可能性がある」

 恭介の言葉に、俺の耳がピクリと跳ねた。
 人間の姿。
 それは今の俺にとって、喉から手が出るほど欲しいものだ。
 このもふもふ生活も悪いことばかりじゃないが、やっぱり二本足で歩いて、自分の手で箸を持って、何より恭介と「対等な親友」として会話がしたい。

(……人間の姿か。もし戻れたら、まずはこいつをぶん殴ってやる。毎日毎日、人の腹を揉みやがって)

 俺がそんな期待を抱いたのも束の間。
 恭介は魔導書を閉じると、これまでにないほど優しい……というか、とろけそうな眼差しで俺に近づいてきた。

「だが、無理に急ぐ必要はないな。人間の陽太も好きだが、今のこの『究極の癒やし形態』のお前も捨てがたい」

「きゅぅ!?(本音が漏れてるぞ!)」

「よし、魔力循環のチェックだ。お腹を見せてごらん」

 恭介は手慣れた動作で俺を仰向けにひっくり返すと、柔らかいお腹の毛に指を埋めた。
 こいつの指は、魔法的なマッサージでも心得ているのか、触れられるとどうしても力が抜けてしまう。

「くぅ、ぅ……(くそ、気持ちいい……)」

「はは、いい子だ。陽太、お前さ。もし人間に戻れたとしても、俺の傍にいてくれるか?」

 ふいに、恭介の声のトーンが落ちた。
 冗談めかしたいつもの調子ではなく、どこか不安げな、親友としての本音が混じったような響き。

 俺は少しだけ喉を鳴らすのをやめ、恭介の瞳を見つめ返した。
 こいつは、この異世界でたった一人の「仲間」だ。
 召喚術師として重宝され、王族からも期待されている。一見華やかに見えるが、その肩にかかる重圧は、元サラリーマンの俺には想像もつかないほど大きいだろう。

(当たり前だろ。お前を一人にするわけないだろ、バカ)

 俺は短い前足を伸ばし、恭介の鼻先をペシッと叩いた。
 爪は出さず、肉球の柔らかい部分だけで。

「……そうか。だよな。俺たち、親友だもんな」

 恭介は安心したように笑うと、俺を抱き上げて自分の肩に乗せた。
 顔のすぐ横に、恭介の首筋がある。
 ドク、ドクと刻まれる脈動が、なぜか今まで以上に近く感じられて、俺は少しだけ顔が熱くなるのを感じた。神獣だから毛で隠れてて助かったけど。

「おっ、キョウ殿! 今日も神獣様と仲がよろしいようで!」

 不意に部屋の窓から声がした。
 見れば、訓練場で俺を撫で回した騎士・エドガーが、庭の掃除(という名のもふもふウォッチング)の途中で足を止めていた。

「エドガー。……今日はもう陽太を触らせる時間は終わりましたよ」

「そんな殺生な! 今の神獣様、肩に乗っててまるでお餅のようだ……! 一口、一口だけでいいから触らせてくれ!」

「ダメです。この子は今、魔力変換の研究中でデリケートなんです(嘘)」

 恭介は冷たくあしらいながら、俺をさらに深く自分の首元に押し付けた。
 エドガーが「神獣様ぁぁ!」と嘆きながら連行されていく。

(……まったく。どいつもこいつも、もふもふに依存しすぎだろ)

 呆れつつも、俺は恭介の首元の温もりに身を任せた。
 人間の姿に戻るための研究は、まだ始まったばかり。
 この「親友」が、俺をただのペットではなく、一人の男として意識する日が来るなんて、この時の俺はまだ、これっぽっちも想像していなかった。
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