親友と一緒に異世界転生したら俺だけ神獣だった件 ~伝説の召喚術師になったあいつの溺愛が物理的に重すぎます~

たら昆布

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6話

 王宮の夜は早い。だが、今夜に限っては別だ。
 窓の外からは賑やかな音楽が漏れ聞こえ、廊下を行き交う人々も心なしか浮き足立っている。
 今日は、隣国からのお客様を迎えての「歓迎夜会」が開かれるらしい。

「よし、陽太。準備はいいか?」

 鏡の前で、恭介が俺に問いかける。
 今日の恭介は一段と気合が入っていた。夜会用の濃紺の礼服に身を包み、いつも以上に「仕事ができるイケメン」オーラを放っている。
 そして俺はといえば――。

(……おい。この首のひらひらは何だ。何なんだよ)

 俺の首には、サテン生地の豪華なフリルタイが巻かれていた。
 中央には大粒のサファイアまで輝いている。完全に「贈答用の高級ぬいぐるみ」の装いだ。

「きゅう……きゅうぅん(動きにくいし、肩が凝るんだよ。外せよ恭介)」

「ダメだ。夜会には各国の要人も来る。俺の『契約獣』がただの犬っころだと思われたら、お前の格に関わるからな。……まあ、何をつけても世界一可愛いことに変わりはないんだが」

 恭介はそう言うと、俺を抱き上げ、わざわざ鼻の頭に自分の鼻を擦り寄せてきた。
 近い。近すぎる。
 中身が男の俺でも、この至近距離で絶世のイケメンに微笑まれると、心臓に悪い。

「きゅ……っ(わかったから、早く行くぞ。離せ)」

 俺は顔を逸らして、小さな前足で恭介の頬を押し返した。
 会場に足を踏み入れると、そこは光と香水の海だった。
 きらびやかなドレスを纏った貴婦人たちや、勲章を誇らしげに下げた貴族たちが、一斉にこちらを振り返る。

「あちらが、例の『伝説の召喚術師』殿ね……」
「隣にいらっしゃるのが神獣様? なんて高貴なお姿……」

 ざわめきが広がる中、恭介は堂々と会場の中央へと進む。
 俺は恭介の腕の中で、極力「威厳のある神獣」を装って、じっと前を見つめることに徹した。
 へらへらしてはいけない。俺は今、この国の軍事力の象徴(もふもふ版)なのだ。

 しかし、その決意はすぐに崩される。

「まあ! なんて可愛らしいのかしら!」

 一人の年配の女性――この国の王妃様が、扇を口元に当てて近づいてきた。
 恭介は恭しく一礼する。

「お初にお目にかかります、王妃陛下。我が契約獣、陽太でございます」

「お行儀がいいのね。……少しだけ、触れてもよろしくて?」

 王妃様の瞳は、期待でキラキラと輝いている。
 断れるはずがない。恭介は「陽太、頼むぞ」とアイコンタクトを送ってくると、俺を王妃様の差し出した掌の上へと移動させた。

 王妃様の指先が、首元のフリルタイを避けて、俺の顎の下を優しく撫でる。

(う、うぉぉ……。王妃様、マッサージが上手すぎる……)

 さすが一国の母。指の動きに迷いがない。
 俺は必死に理性を保とうとしたが、絶妙な指圧に負け、思わず「くぅ~ん……」と情けない声を漏らして、王妃様の手に頭を預けてしまった。

「あら、あらまあ! なんて愛らしいの! 心が洗われるようですわ!」

 それを見た周囲の貴婦人たちが、我先にと集まってきた。
「私も!」「私にもその癒やしを!」と、夜会は一気に「神獣お触り会」の様相を呈し始める。

 俺はあっちの手に撫でられ、こっちの手で背中をさすられ、もみくちゃにされた。
 中身は26歳男性。普段なら「セクハラだぞ!」と叫ぶところだが、もはや思考回路が「気持ちいいからいいか……」という神獣モードに上書きされつつあった。

 だが、その時。

「――皆様。陽太は少々、お疲れのようです」

 低い、冷徹な声が会場に響いた。
 恭介が、いつの間にか俺の隣に立っていた。
 彼は有無を言わせぬ手つきで俺を回収すると、自分の胸元にぎゅっと抱き寄せた。

「キョウ殿? まだお話の途中ですが……」

「申し訳ありません。神獣の魔力はデリケートでして。過度の接触は、明日の魔法行使に障ります」

 恭介はそう告げると、足早にテラスの方へと俺を連れ出した。
 夜風が、火照った俺の身体に心地よく当たる。

(ふぅ……。助かった。あのままじゃ、俺の毛が全部抜けるとこだった)

 俺が鳴くと、恭介は誰もいないテラスの隅で、ふっと息を吐いた。
 そして、俺を抱きしめる腕の力を、先ほどよりも少しだけ強める。

「……陽太。お前、誰にでもあんな顔をするのか?」

「きゅん?(どんな顔だよ)」

「あんな……気持ちよさそうに、自分から喉を鳴らして。……俺以外の奴にああいう顔を見せるのは、あまり面白くないな」

 恭介の瞳には、夜景の光が反射して、どこか寂しげな色が混ざっていた。
 それは執着というほど重くはないけれど、親友に向けるものにしては、少しだけ熱を帯びすぎているような。

 俺は返す言葉(鳴き声)が見つからず、ただ恭介の礼服の胸元に、じっと顔を埋めることしかできなかった。
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