親友と一緒に異世界転生したら俺だけ神獣だった件 ~伝説の召喚術師になったあいつの溺愛が物理的に重すぎます~

たら昆布

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7話

 華やかな夜会から一夜明け、俺はひどい「もふもふ疲れ」に見舞われていた。
 大勢の人間に囲まれ、あちこち撫で回されたせいか、どうにも身体が重い。中身がサラリーマンの俺にとって、社交界という場所はあまりにも消費魔力(精神力)が高すぎた。

「陽太、まだ眠いか? 今日は無理に起きなくていいぞ」

 恭介が、俺の頭を指の背で優しく撫でる。
 こいつは今日、非番らしい。普段の凛々しい礼服ではなく、ゆったりとした部屋着姿の恭介は、どこか大学生の頃の雰囲気に戻ったようで、俺の心も少しだけ緩む。

「きゅぅ……(腰が痛いんだよ。あんな高いところで置物させやがって)」

「はは、そんな顔するな。お詫びと言っちゃなんだが、いいものを見せてやる。ちょっと目を閉じててくれ」

 恭介が指をパチンと鳴らした。
 微かな魔力の波動を感じて目を開けると――そこは、客室の中のはずなのに、見たこともない光景が広がっていた。

「……っ!?(なんだこれ!?)」

 部屋の半分を占拠するように、魔法で作られた「箱庭」が出現していた。
 ただの庭じゃない。雲のようにふわふわと浮いた島があり、そこからおもちゃのような滝が流れ落ちている。床には、これ以上ないほど柔らかそうな銀色の苔が敷き詰められていた。

「『神獣専用・ストレス解消空間』だ。この苔は魔法で常に最適な温度に保たれているし、あの浮島の上にはお前が好きな乾燥肉の果実がなる木も植えておいたぞ」

「きゅ、きゅきゅ!?(お前、会議の裏でこんなもん作ってたのか!?)」

 恭介の魔法の無駄遣いぶりに呆れつつも、俺の野生(神獣)の部分が歓喜の声を上げる。
 俺は恭介の腕から飛び降りると、銀色の苔の上に着地した。

「ふあ……っ(き、気持ちよすぎる……!)」

 低反発クッションをさらに極上に磨き上げたような感触。
 俺は我慢できず、その場でゴロゴロと転げ回った。
 昨日の夜会で溜まったストレスが、苔の隙間から吸い取られていくようだ。

「気に入ってくれたみたいだな。……やっぱりお前は、あんな窮屈な社交場より、俺の傍でこうして笑ってる方が似合ってるよ」

 恭介は箱庭の縁に座り込み、楽しそうに跳ねる俺を穏やかな目で見守っている。
 その視線があまりに優しくて、俺は転がるのをやめて彼の方を向いた。

「きゅん?(恭介、お前も来ればいいだろ)」

 俺は尻尾をパタパタと振り、恭介に手招き……ならぬ「足招き」をしてみせる。
 恭介は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに苦笑して靴を脱いだ。

「じゃあ、お言葉に甘えて。……お、本当だ。これは想像以上に快適だな」

 大柄な恭介が苔の上に横たわると、俺はそのお腹の上に飛び乗った。
 人の体温。恭介の匂い。
 異世界に来てからずっと、俺を一番安心させてくれる場所だ。

「陽太、お前さ。もし人間の姿に戻る方法が見つかったら、何をしたい?」

 恭介が、俺の背中の毛を無意識に弄りながら問いかけてきた。
 第5話でも似たようなことを聞かれたが、今日の声はもっと実感を伴っている気がする。

(そうだな……。まずは、まともな服を着て、お前と対等な立場で酒を飲みたいかな。居酒屋の焼き鳥が懐かしいよ)

「きゅぅん、きゅい(焼き鳥、ビール。お前と乾杯)」

「……そうか。元の姿に戻っても、一緒に酒を飲んでくれるか」

 恭介は俺の言葉を正しく理解したのか、ふっと満足そうに目を細めた。
 そして、大きな掌で俺の身体を包み込むように抱きしめる。

「俺は、お前がどんな姿でも構わない。……でも、今のこの時間が、もう少しだけ長く続けばいいのにって、少しだけ思っちゃうんだよな」

 恭介の独白は、静かな魔法の庭に溶けていった。
 俺は彼の胸の鼓動を聴きながら、少しだけ複雑な気分になる。
 親友としての情愛。けれど、そこには明らかに、元の世界ではなかったはずの「熱」が混じり始めている。

(……こいつ、自覚してんのか? いや、してないよな。恭介だもんな)

 俺は自分に言い聞かせるように、恭介の顎の下に鼻先を押し当てた。
 展開はどこまでもゆっくり。
 けれど、この銀色の苔のように、二人の関係は少しずつ、確実に形を変えようとしていた。
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