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9話
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迷い込んだ小鳥が元気になって森へ帰った後、俺たちの部屋には再び二人きりの穏やかな時間が戻ってきた。
だが、ここ数日の恭介は、魔法の研究室にこもる時間が明らかに増えている。
(あいつ、また根詰めてんのかな……。飯、ちゃんと食ってるか?)
俺は神獣の鋭い鼻をひくつかせながら、恭介が戻ってくるのを待っていた。
やがて、重い扉がゆっくりと開き、疲れきった顔の恭介が姿を現した。その手には、書き込みだらけの羊皮紙が握られている。
「……陽太、起きてたのか」
「きゅう(おかえり。遅かったな)」
俺がトコトコと駆け寄り、恭介の足元に体を擦り付けると、彼は力なく笑って俺を抱き上げた。
そのままソファになだれ込み、俺を胸の上に乗せて深いため息をつく。
「……研究の中間報告書、まとまったぞ。お前の『人間化』についてだ」
その言葉に、俺の耳がピンと立った。
いよいよか。この短足もふもふ生活に終止符を打つ時が来たのか。
「お前の体内に溜まっている神獣の魔力……その波長を、俺の召喚魔力で一時的に『固定』する術式が見えてきた。早ければ、数日中には試行できるかもしれない」
「きゅう! きゅうきゅっ!(マジか! やったな恭介!)」
俺は嬉しくて、恭介の胸の上で尻尾を激しく振った。
これでようやく、自分の足で立ち、恭介と目線を合わせて話ができる。
だが、俺の喜びとは裏腹に、恭介の表情はどこか晴れない。彼は俺の背中を、まるで宝物を手放す直前のような、頼りなげな手つきで撫でた。
「……そうなれば、お前はもう俺の腕の中には収まらないんだよな。当たり前だけど」
「きゅん?(そりゃ、26歳の男が腕の中に収まってたらホラーだろ)」
「お前は俺のパートナーだけど、俺の『ペット』じゃない。わかってる。わかってるんだけど……」
恭介はそう言うと、俺の頭に自分の額をそっと押し当てた。
彼の髪から、微かにインクと古い紙の匂い、そして彼自身の体温が伝わってくる。
「……今のままの、俺がいなきゃ何もできないお前を、もう少しだけ独占していたかったなんて……そんなの、親友失格だよな」
恭介の独り言は、消え入りそうなほど小さかった。
その声には鋭さはなく、ただ純粋に、今のこの愛おしい時間を惜しむような、不器用な情愛だけが詰まっていた。
俺は、何も言えなかった。
中身が男だとか、親友だとか、そんな理屈を全部飛ばして、恭介のこの「寂しさ」をどうにかしてやりたいと思ってしまったのだ。
(……しょうがねーな、本当にお前は)
俺は恭介の頬を、ペロリと一度だけ舐めた。
普段は「変態!」と拒絶するスキンシップだが、今日だけは特別だ。
「……っ、陽太」
恭介が目を見開く。驚きに染まった彼の瞳に、月明かりが反射して潤んで見えた。
「今の……お前からの『なだめ』か? ……卑怯だぞ、そんなことされたら、余計に離したくなくなるだろ」
恭介は今度はしっかりと俺を抱きしめた。
苦しくない、けれど確かな力強さ。
俺は彼の心音を聞きながら、ふと思った。
人間の姿に戻ったとき、俺たちは今まで通りの「ただの親友」に戻れるのだろうか。
それとも、このもふもふの体で過ごした濃密な時間が、俺たちの関係を、もっと別の何かに変えてしまうのだろうか。
人間化へのカウントダウンが始まる中で、俺の心もまた、神獣の身体の習性ではない「何か」で、じわりと熱くなり始めていた。
だが、ここ数日の恭介は、魔法の研究室にこもる時間が明らかに増えている。
(あいつ、また根詰めてんのかな……。飯、ちゃんと食ってるか?)
俺は神獣の鋭い鼻をひくつかせながら、恭介が戻ってくるのを待っていた。
やがて、重い扉がゆっくりと開き、疲れきった顔の恭介が姿を現した。その手には、書き込みだらけの羊皮紙が握られている。
「……陽太、起きてたのか」
「きゅう(おかえり。遅かったな)」
俺がトコトコと駆け寄り、恭介の足元に体を擦り付けると、彼は力なく笑って俺を抱き上げた。
そのままソファになだれ込み、俺を胸の上に乗せて深いため息をつく。
「……研究の中間報告書、まとまったぞ。お前の『人間化』についてだ」
その言葉に、俺の耳がピンと立った。
いよいよか。この短足もふもふ生活に終止符を打つ時が来たのか。
「お前の体内に溜まっている神獣の魔力……その波長を、俺の召喚魔力で一時的に『固定』する術式が見えてきた。早ければ、数日中には試行できるかもしれない」
「きゅう! きゅうきゅっ!(マジか! やったな恭介!)」
俺は嬉しくて、恭介の胸の上で尻尾を激しく振った。
これでようやく、自分の足で立ち、恭介と目線を合わせて話ができる。
だが、俺の喜びとは裏腹に、恭介の表情はどこか晴れない。彼は俺の背中を、まるで宝物を手放す直前のような、頼りなげな手つきで撫でた。
「……そうなれば、お前はもう俺の腕の中には収まらないんだよな。当たり前だけど」
「きゅん?(そりゃ、26歳の男が腕の中に収まってたらホラーだろ)」
「お前は俺のパートナーだけど、俺の『ペット』じゃない。わかってる。わかってるんだけど……」
恭介はそう言うと、俺の頭に自分の額をそっと押し当てた。
彼の髪から、微かにインクと古い紙の匂い、そして彼自身の体温が伝わってくる。
「……今のままの、俺がいなきゃ何もできないお前を、もう少しだけ独占していたかったなんて……そんなの、親友失格だよな」
恭介の独り言は、消え入りそうなほど小さかった。
その声には鋭さはなく、ただ純粋に、今のこの愛おしい時間を惜しむような、不器用な情愛だけが詰まっていた。
俺は、何も言えなかった。
中身が男だとか、親友だとか、そんな理屈を全部飛ばして、恭介のこの「寂しさ」をどうにかしてやりたいと思ってしまったのだ。
(……しょうがねーな、本当にお前は)
俺は恭介の頬を、ペロリと一度だけ舐めた。
普段は「変態!」と拒絶するスキンシップだが、今日だけは特別だ。
「……っ、陽太」
恭介が目を見開く。驚きに染まった彼の瞳に、月明かりが反射して潤んで見えた。
「今の……お前からの『なだめ』か? ……卑怯だぞ、そんなことされたら、余計に離したくなくなるだろ」
恭介は今度はしっかりと俺を抱きしめた。
苦しくない、けれど確かな力強さ。
俺は彼の心音を聞きながら、ふと思った。
人間の姿に戻ったとき、俺たちは今まで通りの「ただの親友」に戻れるのだろうか。
それとも、このもふもふの体で過ごした濃密な時間が、俺たちの関係を、もっと別の何かに変えてしまうのだろうか。
人間化へのカウントダウンが始まる中で、俺の心もまた、神獣の身体の習性ではない「何か」で、じわりと熱くなり始めていた。
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