親友と一緒に異世界転生したら俺だけ神獣だった件 ~伝説の召喚術師になったあいつの溺愛が物理的に重すぎます~

たら昆布

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11話

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 窓の外では、夜明け前の深い群青色がゆっくりと薄まり始めていた。
 昨夜の「手だけ人間化」という奇妙なハプニングの余韻が、まだ部屋の隅々に残っている。

 俺は、恭介が再び眠りについた後も、自分の前足をじっと見つめていた。
 今はまた、白くて丸い肉球に戻っている。
 けれど、あのとき感じた恭介の頬の柔らかさや、自分自身の低い声が、まだ耳の奥にこびりついて離れない。

(……人間に戻るって、あんなに緊張することだったっけ)

 元の世界では当たり前だったことが、この異世界では特別な「イベント」になってしまっている。
 トコトコと歩み寄り、ソファで眠る恭介の顔を覗き込んだ。
 普段はあんなに強気で、俺を甘やかし倒しているこいつが、今は無防備に寝息を立てている。眉間に少しだけ寄った皺が、連日の研究の過酷さを物語っていた。

「きゅ……(お疲れ、恭介)」

 俺はそっと、恭介の胸の上に飛び乗った。
 神獣の身体は軽い。恭介は目を覚まさなかったが、無意識に腕を伸ばして、俺の身体を抱き寄せた。

「……ん、陽太……」

 寝言で名前を呼ばれ、俺の心臓がトクンと跳ねた。
 これまで「親友」として何年も一緒にいたはずなのに、この一週間で、恭介との距離感は完全におかしくなっている。
 もし人間に戻ったら。
 この腕の中に収まることも、こうして無防備に体温を感じ合うことも、すべて「不自然」なこととして片付けられてしまうのだろうか。

 夜が明け、カーテンの隙間から黄金色の光が差し込んできた。
 恭介がゆっくりと瞼を持ち上げる。

「……おはよう、陽太。よく眠れたか?」

「きゅう(ああ、お前こそ)」

 恭介は俺を抱いたまま起き上がり、ぐーっと背筋を伸ばした。
 それから、俺の目を見て、いつになく真剣な表情を浮かべる。

「今日、午後から術式を行う。準備は万端だ。……ただ、陽太。一つだけ言っておかなきゃいけないことがある」

「きゅん?(なんだよ、改まって)」

「この術式は、お前の魔力を一時的に固定するものだ。だから……戻った後、どれくらいその姿を維持できるか、まだ正確にはわからない。数時間かもしれないし、数日かもしれない。……それに、もしかしたら『神獣』としての本能が、少しだけ残ってしまうかもしれないんだ」

 神獣としての本能。
 それは、今のように喉を鳴らしたくなったり、恭介に撫でられたくなったりすることだろうか。
 俺は少しだけ想像して、顔が熱くなるのを感じた。

「きゅ、きゅう!(いいよ。どんな姿でも、俺は俺だろ)」

「……そうだな。お前は、どこまでいっても陽太だもんな」

 恭介はそう言うと、俺の耳の後ろを、名残惜しそうに指先でくすぐった。
 
 午後になり、部屋にはいくつもの魔石が配置され、淡い光の結界が張られた。
 恭介が呪文を唱え始めると、部屋中の空気が震え、俺の身体を中心に眩い光が溢れ出す。

「陽太、強くイメージしろ。お前の、本当の姿を!」

 恭介の声に導かれるように、俺は意識を集中させた。
 白かった視界が、次第に色を取り戻していく。
 身体が引き伸ばされるような感覚。
 視点が高くなり、床についていた四肢が、力強い「足」と「腕」へと変わっていく。

 光が収まったとき。
 俺は、冷たい床の上に、自分の足で立っていた。

「……できた、のか?」

 自分の手を見る。
 昨夜のような一部だけではない、確かな俺の身体だ。
 そして、目の前には、驚愕と、それから言葉にできないほど深い慈愛の入り混じった瞳をした、恭介が立っていた。

「陽太……」

 恭介の手が、震えながら俺の肩に触れる。
 人間の姿で、至近距離で見つめ合う。
 もふもふの毛に守られていない肌が、恭介の熱を直接感じ取ってしまい、俺は息の仕方を忘れたように立ち尽くした。
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