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12話
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視界が、高い。
四つ足で地を這っていたときとは違う、背筋を伸ばして見渡す客室は、どこか見慣れない場所のようにも感じられた。
俺は、床に散らばった魔石の残光の中で、自分の掌を何度も握ったり開いたりした。
厚みのある指、節くれだった拳、そして手の甲に浮き出た血管。
間違いなく、俺の、男の身体だ。
「……陽太。本当に、陽太なんだな」
恭介の声が、すぐ近くで聞こえた。
見上げれば、そこには言葉を失ったまま俺を注視する親友の姿がある。
普段、もふもふの姿で抱っこされていたときは気付かなかったが、こうして対面すると、恭介はやはり俺よりも一回り体格がいい。見上げる視線の角度に、なぜか妙な緊張を覚えてしまう。
「ああ。……やっと戻れた。サンキュ、恭介」
自分の声が、低く、空気を震わせる。
俺が少し照れくさそうに笑うと、恭介は目を見開いたまま、おそるおそる俺の肩に手を置いた。
「……っ。ああ、そうか。人間の姿だと、こんなに固いんだな」
「当たり前だろ。俺をなんだと思ってたんだ」
「いや、あまりにも……こう、ずっとふわふわしてたから」
恭介の手が、俺の肩から上腕へとゆっくり滑る。
その手の動きが、これまでの「ブラッシング」の癖なのか、妙に丁寧でねっとりとしていて、俺は無意識に肩を竦めた。
「お、おい。あんまり触んなよ、くすぐったい」
「あ、悪い……。つい癖でな」
恭介は慌てて手を離したが、その耳の付け根がわずかに赤い。
お互いに、どういう距離で立てばいいのか、どういう顔をして話せばいいのかが分からず、部屋の中に気まずい沈黙が流れた。
もふもふの時は、恭介の膝の上に飛び乗るのも、首筋に顔を埋めるのも、親友としての「甘え」だと思っていた。だが、今のこの姿で同じことをしたら――。
(……考えただけで死ねるな)
俺は思考を振り切るように、部屋の鏡まで歩いた。
鏡の中には、少し髪が伸びたものの、元の世界と変わらない俺がいた。……ただ一つ、おかしな点を除いては。
「……恭介。これ、どういうことだ?」
俺の頭の上。
本来あるはずのない「白い三角の耳」が、困惑した俺の感情に合わせてパタパタと動いていた。さらに、腰のあたりからは、立派な白い尻尾が一本、床を掃くように揺れている。
「あ……。やっぱり、完全には固定できなかったか。さっき言った『神獣の残り香』みたいなものだな。……でも、似合ってるぞ、陽太」
「どこがだよ! これじゃコスプレ野郎じゃねーか!」
俺が慌てて尻尾を掴もうとすると、尻尾は生き物のようにスルスルと逃げ回る。
その必死な俺の姿を見て、恭介はようやく緊張が解けたのか、いつものように低く笑った。
「はは、動くなよ。ほら、そんなに振り回すと、せっかく人間に戻ったのにまた転ぶぞ」
恭介が俺の腰を支えようと、後ろから抱きかかえるような形になった。
背中に、恭介の胸板の厚みが伝わる。
もふもふの毛がない分、相手の体温がダイレクトに肌に響き、俺の心臓は再び、早鐘を打ち始めた。
「……陽太」
「な、なんだよ」
「……おかえり。姿はちょっと、その、特殊だけど。……戻ってきてくれて、嬉しい」
耳元で囁かれた低音に、頭の上の耳が「ピクッ」と跳ねる。
この神獣の身体の反応、どうやら人間の姿になっても、簡単には消えてくれないらしい。
俺は何も言い返せず、ただ恭介に支えられたまま、夕暮れに染まる部屋の中で、自分の尻尾をぎゅっと抱きしめることしかできなかった。
四つ足で地を這っていたときとは違う、背筋を伸ばして見渡す客室は、どこか見慣れない場所のようにも感じられた。
俺は、床に散らばった魔石の残光の中で、自分の掌を何度も握ったり開いたりした。
厚みのある指、節くれだった拳、そして手の甲に浮き出た血管。
間違いなく、俺の、男の身体だ。
「……陽太。本当に、陽太なんだな」
恭介の声が、すぐ近くで聞こえた。
見上げれば、そこには言葉を失ったまま俺を注視する親友の姿がある。
普段、もふもふの姿で抱っこされていたときは気付かなかったが、こうして対面すると、恭介はやはり俺よりも一回り体格がいい。見上げる視線の角度に、なぜか妙な緊張を覚えてしまう。
「ああ。……やっと戻れた。サンキュ、恭介」
自分の声が、低く、空気を震わせる。
俺が少し照れくさそうに笑うと、恭介は目を見開いたまま、おそるおそる俺の肩に手を置いた。
「……っ。ああ、そうか。人間の姿だと、こんなに固いんだな」
「当たり前だろ。俺をなんだと思ってたんだ」
「いや、あまりにも……こう、ずっとふわふわしてたから」
恭介の手が、俺の肩から上腕へとゆっくり滑る。
その手の動きが、これまでの「ブラッシング」の癖なのか、妙に丁寧でねっとりとしていて、俺は無意識に肩を竦めた。
「お、おい。あんまり触んなよ、くすぐったい」
「あ、悪い……。つい癖でな」
恭介は慌てて手を離したが、その耳の付け根がわずかに赤い。
お互いに、どういう距離で立てばいいのか、どういう顔をして話せばいいのかが分からず、部屋の中に気まずい沈黙が流れた。
もふもふの時は、恭介の膝の上に飛び乗るのも、首筋に顔を埋めるのも、親友としての「甘え」だと思っていた。だが、今のこの姿で同じことをしたら――。
(……考えただけで死ねるな)
俺は思考を振り切るように、部屋の鏡まで歩いた。
鏡の中には、少し髪が伸びたものの、元の世界と変わらない俺がいた。……ただ一つ、おかしな点を除いては。
「……恭介。これ、どういうことだ?」
俺の頭の上。
本来あるはずのない「白い三角の耳」が、困惑した俺の感情に合わせてパタパタと動いていた。さらに、腰のあたりからは、立派な白い尻尾が一本、床を掃くように揺れている。
「あ……。やっぱり、完全には固定できなかったか。さっき言った『神獣の残り香』みたいなものだな。……でも、似合ってるぞ、陽太」
「どこがだよ! これじゃコスプレ野郎じゃねーか!」
俺が慌てて尻尾を掴もうとすると、尻尾は生き物のようにスルスルと逃げ回る。
その必死な俺の姿を見て、恭介はようやく緊張が解けたのか、いつものように低く笑った。
「はは、動くなよ。ほら、そんなに振り回すと、せっかく人間に戻ったのにまた転ぶぞ」
恭介が俺の腰を支えようと、後ろから抱きかかえるような形になった。
背中に、恭介の胸板の厚みが伝わる。
もふもふの毛がない分、相手の体温がダイレクトに肌に響き、俺の心臓は再び、早鐘を打ち始めた。
「……陽太」
「な、なんだよ」
「……おかえり。姿はちょっと、その、特殊だけど。……戻ってきてくれて、嬉しい」
耳元で囁かれた低音に、頭の上の耳が「ピクッ」と跳ねる。
この神獣の身体の反応、どうやら人間の姿になっても、簡単には消えてくれないらしい。
俺は何も言い返せず、ただ恭介に支えられたまま、夕暮れに染まる部屋の中で、自分の尻尾をぎゅっと抱きしめることしかできなかった。
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