親友と一緒に異世界転生したら俺だけ神獣だった件 ~伝説の召喚術師になったあいつの溺愛が物理的に重すぎます~

たら昆布

文字の大きさ
13 / 28

13話

しおりを挟む
 人間に戻って最初の一仕事は、恭介がクローゼットの奥から引っ張り出してきた、予備の礼服に着替えることだった。
 本来は恭介のサイズなので少し丈が余っているが、布が肌に触れる感覚そのものが、今の俺にはたまらなく懐かしい。

「……陽太、サイズは大丈夫か? やっぱり少し大きいな。肩のあたりが余ってる」

「ああ、平気だ。裸よりは万倍マシだよ」

 俺が袖を捲り上げていると、恭介が当然のような顔をして、俺の背後から腰のベルトを締めようと手を伸ばしてきた。
 ぐい、と身体が引き寄せられ、恭介の指先が俺の腹あたりに触れる。

「お、おい、自分でやるって!」

「いいからじっとしてろ。……お前、人間の姿になると、意外と細いんだな」

 恭介の声が、すぐ耳元で響く。
 もふもふの時は全身が毛の塊だったから気づかなかったが、こうして布一枚隔てて触れられると、お互いの体格差が嫌でも意識されてしまう。
 恭介の大きな掌が腰に回っている状況に、俺は居ても立ってもいられず、パタパタと尻尾を振って抵抗した。

「……痛っ。陽太、尻尾が顔に当たってるぞ」

「悪い、これは俺の意思じゃないんだ!」

 どうにか着替えを終えた俺たちは、部屋の小さなテーブルを挟んで向かい合った。
 今夜のメニューは、俺の人間化を祝って、料理長が特別に腕を振るったフルコースだ。

「さあ、食えよ。お前がずっと食べたがってた、この国の名物料理だ」

 目の前には、芳醇な香りを放つ肉料理や、彩り豊かな野菜のポタージュ。
 俺は震える手でフォークを握った。
 自分の指で道具を扱い、咀嚼し、味わう。
 それは、もふもふの時に皿に顔を突っ込んで食べていたのとは、全く違う「食事」だった。

「…………美味い。めちゃくちゃ美味い」

 一口食べた瞬間、じわりと涙が出そうになった。
 味覚が鋭敏になっているのか、素材の旨みが全身に染み渡る。
 恭介は、俺が幸せそうに頬張る姿を、自分の食事も忘れてじっと見つめていた。

「そんなに美味いか。……よかった。お前にまた、そうやって笑って食べてほしかったんだ」

「……恭介もお前の分、食えよ。冷めるぞ」

 俺が少し照れて肉を差し出すと、恭介はふっと柔らかく笑い、自分のワイングラスを掲げた。

「そうだな。……よし、改めて乾杯しよう。陽太、おかえり」

「……ただいま」

 グラスが触れ合う、澄んだ音。
 もふもふだった数日間が、まるで長い夢だったように思えるほど、この瞬間は「いつもの俺たち」だった。

 だが、食事も中盤に差し掛かった頃。
 俺の身体に、ある「変化」が起きた。
 神獣の身体の習性が、人間の意識を上書きし始めたのだ。

「……あ、陽太? どうした、急に手が止まってるぞ」

「……いや。……その……」

 無性に、何かに「触れたい」という衝動がこみ上げてくる。
 お腹がいっぱいになり、心身ともにリラックスした結果、神獣の時によくやってもらっていた「あれ」が恋しくてたまらなくなったのだ。

(だめだ、耐えろ。俺は26歳の男だ。……でも、頭が、耳の付け根が……っ)

 ピクピクと、頭上の耳が激しく動く。
 俺の異変に気づいたのか、恭介が心配そうに身を乗り出し、テーブル越しに俺の額に手を触れた。

「熱いぞ。……やっぱり、無理をさせたか?」

「……ちがう。そうじゃなくて……」

 俺は、恭介のその掌に、自分から頭を擦り付けそうになるのを必死で堪えた。
 だが、尻尾は正直だった。
 ブンブンと大きな音を立てて左右に振られ、背後のカーテンをなぎ倒さんばかりの勢いだ。

「…………陽太。お前、もしかして……撫でてほしいのか?」

 恭介の言葉に、俺の理性がプツンと音を立てて切れた。
 俺は、無意識に恭介の手を自分の頭の上に持っていくと、掠れた声で呟いた。

「……ここ。……いつもみたいに、してくれ……」

 恭介の瞳が、驚きに大きく見開かれる。
 静まり返った部屋の中で、俺たちの視線が絡み合う。
 人間の姿での、初めての「おねだり」。
 それは、もふもふの時よりもずっと、熱くて危うい空気を孕んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

銀狼様とのスローライフ

八百屋 成美
BL
激務に心身を病み、逃げるように田舎へ移り住んだ佐伯湊。 ある雨の日、彼は庭先で銀色に輝く巨大な狼を拾う。 それは、人間に追われ傷ついた神獣、リュカだった。 傷の手当てをきっかけに、湊の家に居座ることになったリュカ。 尊大で俺様な態度とは裏腹に、彼は湊が作ったご飯を美味しそうに食べ、寒い夜にはその温かい毛並みで湊を包み込んでくれる。 孤独だった湊の心は、リュカの無償の愛によって次第に満たされていく。 しかし、平穏な日々は長くは続かなかった。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています

水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。 「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」 王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。 そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。 絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。 「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」 冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。 連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。 俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。 彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。 これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

処理中です...