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15話
カーテンの隙間から差し込む朝陽が、まぶたの裏側を白く焼いた。
俺は、重たい頭をゆっくりと持ち上げる。
(……あ。そうだ。俺、昨日から人間なんだった)
自分の手を確認し、指を動かす。昨夜の術式はまだ解けていないようで、俺は確かな重みを持った「男の身体」のままだった。
だが、何かがおかしい。
視界が妙に狭いし、顔のすぐ横に、信じられないほどいい匂いのする「壁」がある。
おそるおそる顔を上げると、そこには恭介の寝顔があった。
「……っ!?(なんでここにいんだよ!)」
声を上げそうになり、慌てて口を塞ぐ。
昨夜、ソファで撫でられているうちに寝落ちしたところまでは覚えている。おそらく、恭介が俺をベッドまで運んで、自分もそのまま意識を失ったのだろう。
恭介の大きな腕が、俺の腰をしっかりと抱き込んでいた。もふもふの神獣だった頃なら「いつもの定位置」だが、大人二人が一つのベッドで密着して寝ている今の状況は、どう考えても「親友」の枠をはみ出している。
しかも、最悪なことに。
(……耳。耳が動いてる……)
恭介の規則正しい寝息が俺の首元に当たるたび、頭上の白い耳がパタパタと嬉しそうに反応してしまう。尻尾に至っては、恭介の足に絡みつくような勢いでゆらゆらと揺れていた。
「……ん。陽太、起きたのか」
恭介が、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
至近距離で視線がぶつかる。恭介の瞳に、俺の焦った顔がはっきりと映り込んだ。
「きょ、恭介! 離せ、この変態! いつまで抱きついてんだよ!」
「あ……。悪い、つい……神獣の時と同じ感覚で……」
恭介は慌てて俺を解放したが、ベッドから転げ落ちそうになった俺を、反射的に再び腕で支えてしまった。
結果として、俺は恭介に抱き抱えられるような姿勢になり、さらに気まずい空気が流れる。
「……あのな。今日から、寝る時は別々だぞ。絶対だぞ」
「……善処するよ。……それより陽太。髪、ひどいことになってるぞ。寝癖だらけだ」
恭介は気まずさを誤魔化すように、俺の乱れた髪に指を差し込んだ。
もふもふの時のブラッシングの代わりに、彼は鏡の前で、俺を椅子に座らせた。
「おい、自分でやるってば」
「ダメだ。陽太、お前は昔から自分の身なりに無頓着だろ。今は神獣の耳もあるんだ、手入れは俺がやる」
恭介は、温かいお湯に浸したタオルで俺の髪を整え始めた。
大きな手が、丁寧に、けれど迷いのない動きで俺の髪を撫でつける。
鏡越しに、俺の髪を真剣な目で見つめる恭介の顔が見えた。
「……陽太の髪、柔らかいな」
「……そうか? 普通だろ」
「いや、神獣の毛並みも良かったけど、こっちも……触り心地がいい」
恭介の指が、耳の周りを避けて首筋を掠める。
そのたびに、俺の心臓は小さな悲鳴を上げる。
今までは「ペットのケア」だと思って受け入れていたことが、今ではすべてが「男同士の接触」として意識されてしまう。
「……できたぞ。これでいいだろ」
恭介が満足げに頷く。
整えられた髪と、その間から覗く白い耳。
鏡の中の俺は、どこか知らない国の王子のようで、ひどく落ち着かない気分だった。
「……サンキュ。……なんか、変な感じだな」
「そうか? 俺は……意外と、悪くないと思ってるよ。こうしてお前を、俺のやり方で整えられるのは」
恭介の言葉には、独占欲というほどトゲはない。
けれど、昨夜よりも一歩、踏み込んだ熱量。
朝の光を浴びながら、俺たちは少しだけ距離を保ちつつ、新しい一日を始めた。
展開はどこまでもゆっくり。
けれど、朝の挨拶を交わすたびに、二人の間には、言葉にできない「何か」が確実に積み重なっていくのだった。
俺は、重たい頭をゆっくりと持ち上げる。
(……あ。そうだ。俺、昨日から人間なんだった)
自分の手を確認し、指を動かす。昨夜の術式はまだ解けていないようで、俺は確かな重みを持った「男の身体」のままだった。
だが、何かがおかしい。
視界が妙に狭いし、顔のすぐ横に、信じられないほどいい匂いのする「壁」がある。
おそるおそる顔を上げると、そこには恭介の寝顔があった。
「……っ!?(なんでここにいんだよ!)」
声を上げそうになり、慌てて口を塞ぐ。
昨夜、ソファで撫でられているうちに寝落ちしたところまでは覚えている。おそらく、恭介が俺をベッドまで運んで、自分もそのまま意識を失ったのだろう。
恭介の大きな腕が、俺の腰をしっかりと抱き込んでいた。もふもふの神獣だった頃なら「いつもの定位置」だが、大人二人が一つのベッドで密着して寝ている今の状況は、どう考えても「親友」の枠をはみ出している。
しかも、最悪なことに。
(……耳。耳が動いてる……)
恭介の規則正しい寝息が俺の首元に当たるたび、頭上の白い耳がパタパタと嬉しそうに反応してしまう。尻尾に至っては、恭介の足に絡みつくような勢いでゆらゆらと揺れていた。
「……ん。陽太、起きたのか」
恭介が、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
至近距離で視線がぶつかる。恭介の瞳に、俺の焦った顔がはっきりと映り込んだ。
「きょ、恭介! 離せ、この変態! いつまで抱きついてんだよ!」
「あ……。悪い、つい……神獣の時と同じ感覚で……」
恭介は慌てて俺を解放したが、ベッドから転げ落ちそうになった俺を、反射的に再び腕で支えてしまった。
結果として、俺は恭介に抱き抱えられるような姿勢になり、さらに気まずい空気が流れる。
「……あのな。今日から、寝る時は別々だぞ。絶対だぞ」
「……善処するよ。……それより陽太。髪、ひどいことになってるぞ。寝癖だらけだ」
恭介は気まずさを誤魔化すように、俺の乱れた髪に指を差し込んだ。
もふもふの時のブラッシングの代わりに、彼は鏡の前で、俺を椅子に座らせた。
「おい、自分でやるってば」
「ダメだ。陽太、お前は昔から自分の身なりに無頓着だろ。今は神獣の耳もあるんだ、手入れは俺がやる」
恭介は、温かいお湯に浸したタオルで俺の髪を整え始めた。
大きな手が、丁寧に、けれど迷いのない動きで俺の髪を撫でつける。
鏡越しに、俺の髪を真剣な目で見つめる恭介の顔が見えた。
「……陽太の髪、柔らかいな」
「……そうか? 普通だろ」
「いや、神獣の毛並みも良かったけど、こっちも……触り心地がいい」
恭介の指が、耳の周りを避けて首筋を掠める。
そのたびに、俺の心臓は小さな悲鳴を上げる。
今までは「ペットのケア」だと思って受け入れていたことが、今ではすべてが「男同士の接触」として意識されてしまう。
「……できたぞ。これでいいだろ」
恭介が満足げに頷く。
整えられた髪と、その間から覗く白い耳。
鏡の中の俺は、どこか知らない国の王子のようで、ひどく落ち着かない気分だった。
「……サンキュ。……なんか、変な感じだな」
「そうか? 俺は……意外と、悪くないと思ってるよ。こうしてお前を、俺のやり方で整えられるのは」
恭介の言葉には、独占欲というほどトゲはない。
けれど、昨夜よりも一歩、踏み込んだ熱量。
朝の光を浴びながら、俺たちは少しだけ距離を保ちつつ、新しい一日を始めた。
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けれど、朝の挨拶を交わすたびに、二人の間には、言葉にできない「何か」が確実に積み重なっていくのだった。
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