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17話
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庭園から客室へ戻るまでの間、俺たちの手はずっと繋がれたままだった。
恭介の大きな掌が、俺の指先を包み込むように握っている。もふもふの時なら、前足を握られているような感覚だったはずだが、今は指の関節一つ一つの感触までが鮮明に伝わってきて、どうにも落ち着かない。
部屋の扉を閉め、ようやく二人きりになった。
本来ならここで「じゃあな」と手を離すはずなのに、なぜか恭介の指には力がこもったままだ。
「……おい、恭介。もう部屋だぞ。いつまで握ってんだよ」
俺が少し呆れたように言うと、恭介はハッとしたように俺の手を見つめた。
「あ……。悪い、つい。お前、人間に戻ってから歩くのがふらふらしてるから、支えなきゃと思って」
「リハビリはもう十分だ。ほら、飯の準備が来るだろ」
俺が手を引こうとすると、恭介はようやく指を解いた。
離れた瞬間、手のひらに夜風が当たって急に冷えたような感覚になり、俺は無意識に自分の手をもう片方の手で包んでしまった。
部屋の隅では、侍女たちが夕食の準備を始めている。
今日のメインは、この国で最も甘いとされる『星屑梨』を添えたロースト肉だ。
俺はテーブルの前に座り、恭介がワインを注ぐのを眺めていた。
「……陽太。お前、さっきレイ様と話してる時、あんなに耳をパタパタさせて。……そんなに楽しかったか?」
恭介が、ワインボトルを置く音が少しだけ大きく響いた。
見れば、彼は俺を見ずに、グラスの縁をじっと見つめている。
「楽しかったっていうか、驚いただけだよ。……あいつ、俺が人間だってすぐに気づいたろ? それがなんか、不思議だったんだ」
「……あいつは、お前の外見じゃなくて、その……『中身』を見てるような気がするからな。それが、俺には少しだけ面白くない」
「なんだよ、それ。お前こそ俺の中身、知り尽くしてるだろ。元いた世界からの付き合いなんだから」
俺が笑って言うと、恭介はゆっくりと顔を上げた。
その瞳は、いつもの自信に満ちた召喚術師のものではなく、どこか迷子のような、心細そうな色が混ざっている。
「……そうだけどさ。……お前が人間になると、俺が触れる理由がなくなるだろ? 『ブラッシング』も『魔力補給』も、人間の姿じゃ不自然だ」
「……不自然、かな」
俺は、昨夜の耳の後ろを撫でられた感触を思い出して、顔が熱くなるのを感じた。
あれは確かに、親友同士の行為としては度が過ぎていたかもしれない。
けれど、それを「嫌だ」と思わなかった自分もいる。
「……不自然でも、いいだろ。……お前がやるなら、俺は別に……拒絶したりしないし」
俯きながら呟くと、部屋の空気が一瞬で甘く、重くなったような気がした。
恭介が椅子を鳴らして立ち上がり、俺の隣まで歩いてくる。
彼は俺の頭の上に手を置くと、人間の髪の感触を確かめるように、ゆっくりと指を滑らせた。
「……そうか。なら、明日もお前の髪は、俺が整えていいんだな」
「……好きにしろよ」
俺の耳が、自分でも驚くほど激しく動く。
恭介はそれを見て、満足そうに微笑んだ。
夕食の香りが部屋に満ちる中、俺たちは再び「いつもの距離」を取り戻していく。
繋いだ手を離した後の、この僅かな距離感が、今は一番心地よくて、少しだけもどかしかった。
恭介の大きな掌が、俺の指先を包み込むように握っている。もふもふの時なら、前足を握られているような感覚だったはずだが、今は指の関節一つ一つの感触までが鮮明に伝わってきて、どうにも落ち着かない。
部屋の扉を閉め、ようやく二人きりになった。
本来ならここで「じゃあな」と手を離すはずなのに、なぜか恭介の指には力がこもったままだ。
「……おい、恭介。もう部屋だぞ。いつまで握ってんだよ」
俺が少し呆れたように言うと、恭介はハッとしたように俺の手を見つめた。
「あ……。悪い、つい。お前、人間に戻ってから歩くのがふらふらしてるから、支えなきゃと思って」
「リハビリはもう十分だ。ほら、飯の準備が来るだろ」
俺が手を引こうとすると、恭介はようやく指を解いた。
離れた瞬間、手のひらに夜風が当たって急に冷えたような感覚になり、俺は無意識に自分の手をもう片方の手で包んでしまった。
部屋の隅では、侍女たちが夕食の準備を始めている。
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俺はテーブルの前に座り、恭介がワインを注ぐのを眺めていた。
「……陽太。お前、さっきレイ様と話してる時、あんなに耳をパタパタさせて。……そんなに楽しかったか?」
恭介が、ワインボトルを置く音が少しだけ大きく響いた。
見れば、彼は俺を見ずに、グラスの縁をじっと見つめている。
「楽しかったっていうか、驚いただけだよ。……あいつ、俺が人間だってすぐに気づいたろ? それがなんか、不思議だったんだ」
「……あいつは、お前の外見じゃなくて、その……『中身』を見てるような気がするからな。それが、俺には少しだけ面白くない」
「なんだよ、それ。お前こそ俺の中身、知り尽くしてるだろ。元いた世界からの付き合いなんだから」
俺が笑って言うと、恭介はゆっくりと顔を上げた。
その瞳は、いつもの自信に満ちた召喚術師のものではなく、どこか迷子のような、心細そうな色が混ざっている。
「……そうだけどさ。……お前が人間になると、俺が触れる理由がなくなるだろ? 『ブラッシング』も『魔力補給』も、人間の姿じゃ不自然だ」
「……不自然、かな」
俺は、昨夜の耳の後ろを撫でられた感触を思い出して、顔が熱くなるのを感じた。
あれは確かに、親友同士の行為としては度が過ぎていたかもしれない。
けれど、それを「嫌だ」と思わなかった自分もいる。
「……不自然でも、いいだろ。……お前がやるなら、俺は別に……拒絶したりしないし」
俯きながら呟くと、部屋の空気が一瞬で甘く、重くなったような気がした。
恭介が椅子を鳴らして立ち上がり、俺の隣まで歩いてくる。
彼は俺の頭の上に手を置くと、人間の髪の感触を確かめるように、ゆっくりと指を滑らせた。
「……そうか。なら、明日もお前の髪は、俺が整えていいんだな」
「……好きにしろよ」
俺の耳が、自分でも驚くほど激しく動く。
恭介はそれを見て、満足そうに微笑んだ。
夕食の香りが部屋に満ちる中、俺たちは再び「いつもの距離」を取り戻していく。
繋いだ手を離した後の、この僅かな距離感が、今は一番心地よくて、少しだけもどかしかった。
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