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22話
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城下町の喧騒は、昼下がりを過ぎてもなお活気に満ち溢れていた。
焼き立てのパンの香ばしい匂いや、商人たちの威勢の良い掛け声が、マントのフードを深く被った俺の耳に心地よく響く。
「陽太、人混みが激しくなってきたな。フードが脱げないように気をつけてくれ。万が一、その白い耳が見えたら、街中が大騒ぎになってしまうからな」
恭介が、俺の肩を抱き寄せるようにして歩幅を合わせてくれる。
人混みに押されるたびに、恭介の逞しい腕が俺の背中に触れ、その熱が服越しにじんわりと伝わってくる。もふもふの姿で抱っこされていた時とは違う、男同士の「肩を組む」ような、けれどそれ以上に密やかな距離感。
「わかってるって。……お前こそ、その派手な顔を隠せよ。さっきから街の女の子たちが、お前のことばっかり見てるぞ」
「俺の顔なんてどうでもいい。それより、あそこの店……少し寄ってみないか?」
恭介が指差したのは、路地の隅にある小さな革細工の店だった。
店先には、使い込まれた風合いの財布やベルト、そして色とりどりの魔石を埋め込んだ小さな装飾品が並んでいる。王宮にあるような豪華絢爛な宝飾品ではないが、職人の手仕事が感じられる温かみのある品々だ。
俺たちは、吸い寄せられるようにその店へ足を踏み入れた。
カランカラン、と乾いたベルの音が店内に響く。
「……陽太、これ。見てくれ」
恭介が手に取ったのは、深い藍色の革で編まれた、ごくシンプルなブレスレットだった。
中央には、曇り空のような淡い銀色の魔石が一つ、控えめに埋め込まれている。
「……綺麗な色だな。お前の瞳の色に、少し似てる気がする」
「……そうか? 俺は、お前の毛並みの色に見えたんだが」
恭介はそう言うと、俺の左手を取って、勝手にそのブレスレットをあてがった。
ゴツゴツとした恭介の指先が、俺の手首に触れる。冷たい革の感触と、恭介の指の熱。そのコントラストに、俺の心臓がトクン、と小さな音を立てた。
「いいじゃないか。陽太、お前に似合ってるぞ。……店主、これと同じものをもう一つ。石は、この陽太の瞳と同じ、深い琥珀色のものを」
「え、お揃いにするのか? 男同士でブレスレットなんて、元の世界じゃ考えられなかっただろ」
俺が少し照れくさくなって揶揄うように言うと、恭介はブレスレットを受け取り、代金を払いながら、いつになく真面目な顔で俺を見つめた。
「元の世界じゃないからこそ、だ。……陽太、お前はいつか、完全に自由になって俺の元を去るかもしれない。……これは、その……ただの保険だ。俺たちが同じ時間を過ごしたっていう、形に残る証が欲しかったんだよ」
恭介の声は、市場の喧騒に消えてしまいそうなほど静かだった。
執着というほど重苦しくはない。けれど、大切すぎて失うのが怖いという、不器用な願いが透けて見えるような、そんな響き。
俺は何も言えず、恭介に手首を預けたまま、彼がブレスレットの留め具を締めるのをじっと見守っていた。
カチリ、と小さな音がして、俺の手首に「恭介とお揃い」の証が刻まれる。
「……ほら、俺もつけたぞ」
恭介が、自分の左手首を見せてくる。
彼の逞しい腕には、俺の瞳と同じ色の琥珀色の石が、夕日を浴びてキラリと輝いていた。
「……変なやつ。……まあ、貰っておいてやるよ。サンキュ、恭介」
俺は照れ隠しに、ブレスレットをつけた左手をポケットに突っ込んだ。
けれど、ポケットの中で指先がその革の感触をなぞるたびに、胸の奥が温かい何かで満たされていく。
店を出ると、街はすっかり夕闇に包まれ始めていた。
帰り道、俺たちの歩幅は、今までよりもほんの少しだけ近くなっていた。
時折、揺れる俺の尻尾が、恭介の手の甲をくすぐる。
恭介はそれを追い払うこともせず、ただ嬉しそうに目を細めて、俺の隣を歩き続けていた。
特別な告白も、劇的な事件もない。
けれど、手首に感じる小さな重みが、俺たちの「親友」という言葉に、少しずつ新しい色彩を加えていく。
展開はどこまでもゆっくり。
けれど、この街の石畳を踏みしめる音のように、俺たちの絆は、より深く、より確かなものへと変わっていった。
「……陽太。お腹、空いたか?」
「ああ。今日は、お前が選んだ生地で作る新しい服に、このブレスレットを合わせて……豪華な晩飯にしようぜ」
「……そうだな。……最高の夜にしよう」
二人の影が、石畳の上に長く伸びて、一つに重なり合う。
夜の帳が降りる頃、俺たちは再び王宮という名の「家」へと、肩を並べて帰路についた。
焼き立てのパンの香ばしい匂いや、商人たちの威勢の良い掛け声が、マントのフードを深く被った俺の耳に心地よく響く。
「陽太、人混みが激しくなってきたな。フードが脱げないように気をつけてくれ。万が一、その白い耳が見えたら、街中が大騒ぎになってしまうからな」
恭介が、俺の肩を抱き寄せるようにして歩幅を合わせてくれる。
人混みに押されるたびに、恭介の逞しい腕が俺の背中に触れ、その熱が服越しにじんわりと伝わってくる。もふもふの姿で抱っこされていた時とは違う、男同士の「肩を組む」ような、けれどそれ以上に密やかな距離感。
「わかってるって。……お前こそ、その派手な顔を隠せよ。さっきから街の女の子たちが、お前のことばっかり見てるぞ」
「俺の顔なんてどうでもいい。それより、あそこの店……少し寄ってみないか?」
恭介が指差したのは、路地の隅にある小さな革細工の店だった。
店先には、使い込まれた風合いの財布やベルト、そして色とりどりの魔石を埋め込んだ小さな装飾品が並んでいる。王宮にあるような豪華絢爛な宝飾品ではないが、職人の手仕事が感じられる温かみのある品々だ。
俺たちは、吸い寄せられるようにその店へ足を踏み入れた。
カランカラン、と乾いたベルの音が店内に響く。
「……陽太、これ。見てくれ」
恭介が手に取ったのは、深い藍色の革で編まれた、ごくシンプルなブレスレットだった。
中央には、曇り空のような淡い銀色の魔石が一つ、控えめに埋め込まれている。
「……綺麗な色だな。お前の瞳の色に、少し似てる気がする」
「……そうか? 俺は、お前の毛並みの色に見えたんだが」
恭介はそう言うと、俺の左手を取って、勝手にそのブレスレットをあてがった。
ゴツゴツとした恭介の指先が、俺の手首に触れる。冷たい革の感触と、恭介の指の熱。そのコントラストに、俺の心臓がトクン、と小さな音を立てた。
「いいじゃないか。陽太、お前に似合ってるぞ。……店主、これと同じものをもう一つ。石は、この陽太の瞳と同じ、深い琥珀色のものを」
「え、お揃いにするのか? 男同士でブレスレットなんて、元の世界じゃ考えられなかっただろ」
俺が少し照れくさくなって揶揄うように言うと、恭介はブレスレットを受け取り、代金を払いながら、いつになく真面目な顔で俺を見つめた。
「元の世界じゃないからこそ、だ。……陽太、お前はいつか、完全に自由になって俺の元を去るかもしれない。……これは、その……ただの保険だ。俺たちが同じ時間を過ごしたっていう、形に残る証が欲しかったんだよ」
恭介の声は、市場の喧騒に消えてしまいそうなほど静かだった。
執着というほど重苦しくはない。けれど、大切すぎて失うのが怖いという、不器用な願いが透けて見えるような、そんな響き。
俺は何も言えず、恭介に手首を預けたまま、彼がブレスレットの留め具を締めるのをじっと見守っていた。
カチリ、と小さな音がして、俺の手首に「恭介とお揃い」の証が刻まれる。
「……ほら、俺もつけたぞ」
恭介が、自分の左手首を見せてくる。
彼の逞しい腕には、俺の瞳と同じ色の琥珀色の石が、夕日を浴びてキラリと輝いていた。
「……変なやつ。……まあ、貰っておいてやるよ。サンキュ、恭介」
俺は照れ隠しに、ブレスレットをつけた左手をポケットに突っ込んだ。
けれど、ポケットの中で指先がその革の感触をなぞるたびに、胸の奥が温かい何かで満たされていく。
店を出ると、街はすっかり夕闇に包まれ始めていた。
帰り道、俺たちの歩幅は、今までよりもほんの少しだけ近くなっていた。
時折、揺れる俺の尻尾が、恭介の手の甲をくすぐる。
恭介はそれを追い払うこともせず、ただ嬉しそうに目を細めて、俺の隣を歩き続けていた。
特別な告白も、劇的な事件もない。
けれど、手首に感じる小さな重みが、俺たちの「親友」という言葉に、少しずつ新しい色彩を加えていく。
展開はどこまでもゆっくり。
けれど、この街の石畳を踏みしめる音のように、俺たちの絆は、より深く、より確かなものへと変わっていった。
「……陽太。お腹、空いたか?」
「ああ。今日は、お前が選んだ生地で作る新しい服に、このブレスレットを合わせて……豪華な晩飯にしようぜ」
「……そうだな。……最高の夜にしよう」
二人の影が、石畳の上に長く伸びて、一つに重なり合う。
夜の帳が降りる頃、俺たちは再び王宮という名の「家」へと、肩を並べて帰路についた。
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