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24話
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カーテンの隙間から差し込む朝陽が、部屋の中に浮遊する細かな埃を黄金色に染めていた。
俺は、重たい瞼をゆっくりと持ち上げる。頭の芯に、昨夜の名酒の余韻が心地よい重みとなって残っていた。
ふかふかのソファ。昨夜、二杯目のグラスを空けたあたりからの記憶が、霞がかかったように曖昧だ。
だが、肌に伝わる確かな熱量と、鼻先をくすぐるインクと魔力の匂いが、今の状況を雄弁に物語っていた。
「……ん、陽太……。動くな、まだ魔力が足りない……」
耳元で低く、掠れた声が響く。
見れば、恭介の逞しい腕が俺の腰をしっかりと抱き込み、彼は俺の首筋に顔を埋めるようにして、まだ深い眠りの中にいた。
人間の姿になっても、恭介の「抱き枕癖」は治るどころか、対象が大きくなった分、より強固なホールドとなって俺を拘束している。
(……おいおい、これじゃ逃げられねーよ)
俺はため息をつき、逃げ出すのを諦めて再びソファに深く身を沈めた。
すると、困ったことに「神獣の副作用」が頭をもたげ始める。
人間に戻っても、身体の芯に残る本能は、恭介の体温を感知すると勝手にリラックス・モードへ移行してしまうのだ。
パタパタ……。
頭上の白い耳が、恭介の寝息に合わせてリズムを刻む。
それだけではない。布団の下で、俺の尻尾が恭介の足にスルスルと絡みつき、まるで「どこにも行かせない」と主張するように、ぎゅっと抱きついてしまった。
「……っ、ちょ、待て。尻尾、落ち着け」
俺は心の中で自分の尻尾に命じたが、本能に支配された身体の一部は、俺の理性などどこ吹く風だ。
それどころか、喉の奥から「ぐるる……」という、あの特有の満足げな鳴き声が、人間としての声帯を通じて低く漏れ出した。
「……ふふ。陽太、喉が鳴ってるぞ。やっぱりお前、人間の姿をしてても中身はあの時のままだな」
いつの間にか目を覚ましていた恭介が、俺の首筋に顔を埋めたまま、くぐもった声で笑った。
「……っ! 起きてるなら離せよ! これは、その、神獣の身体が勝手にやってるだけで、俺の意志じゃない!」
「わかってるよ。……でも、嬉しいな。お前がそうやって、無防備に俺の体温を求めてくれるのは。……ほら、耳の付け根がまた赤くなってるぞ」
恭介が身を起こし、いたずらっぽく笑いながら俺の耳の裏を指先でなぞった。
「ひゃ……っ!?」
飛び上がるような衝撃が走り、俺の尻尾がボフッと大きく膨らむ。
敏感な場所を突かれ、俺は思わず恭介の胸元に顔を押し当てる形になってしまった。
「……恭介、お前、わざとだろ」
「まさか。リハビリの一環だよ。……ほら、朝食の準備ができるまで、もう少しだけこうしていよう。……お前、人間の姿になってから、少し寂しそうな顔をすることがあったからな」
恭介の言葉に、俺は反論する言葉を失った。
確かに、言葉が通じるようになり、対等に歩けるようになったことで、どこか「もふもふだった頃の、無条件に守られていた甘さ」が消えてしまうのを恐れていたのかもしれない。
恭介は、俺の背中を大きな手でゆっくりと、あやすように撫で続けた。
それはかつてのブラッシングよりもずっと、俺の心の奥底を穏やかに整えていく。
「……陽太。お前がどんな姿でも、俺がお前を甘やかすのは変わらない。……親友なんだから、当たり前だろ?」
「……親友、ね。……お前の『親友』の定義、だいぶ重い気がするけどな」
俺はそう皮肉りながらも、恭介の肩に深く頭を預けた。
窓の外では、朝の光に照らされた王宮の庭園が、キラキラと輝いている。
特別な進展も、劇的な変化もない。
けれど、こうして二人の体温が溶け合う時間は、昨日よりも少しだけ深く、確かなものとして俺たちの中に積み重なっていった。
俺たちは「親友」という言葉の裏側に隠された、もっと別の何かを、まだ大切に温め続けていた。
俺は、重たい瞼をゆっくりと持ち上げる。頭の芯に、昨夜の名酒の余韻が心地よい重みとなって残っていた。
ふかふかのソファ。昨夜、二杯目のグラスを空けたあたりからの記憶が、霞がかかったように曖昧だ。
だが、肌に伝わる確かな熱量と、鼻先をくすぐるインクと魔力の匂いが、今の状況を雄弁に物語っていた。
「……ん、陽太……。動くな、まだ魔力が足りない……」
耳元で低く、掠れた声が響く。
見れば、恭介の逞しい腕が俺の腰をしっかりと抱き込み、彼は俺の首筋に顔を埋めるようにして、まだ深い眠りの中にいた。
人間の姿になっても、恭介の「抱き枕癖」は治るどころか、対象が大きくなった分、より強固なホールドとなって俺を拘束している。
(……おいおい、これじゃ逃げられねーよ)
俺はため息をつき、逃げ出すのを諦めて再びソファに深く身を沈めた。
すると、困ったことに「神獣の副作用」が頭をもたげ始める。
人間に戻っても、身体の芯に残る本能は、恭介の体温を感知すると勝手にリラックス・モードへ移行してしまうのだ。
パタパタ……。
頭上の白い耳が、恭介の寝息に合わせてリズムを刻む。
それだけではない。布団の下で、俺の尻尾が恭介の足にスルスルと絡みつき、まるで「どこにも行かせない」と主張するように、ぎゅっと抱きついてしまった。
「……っ、ちょ、待て。尻尾、落ち着け」
俺は心の中で自分の尻尾に命じたが、本能に支配された身体の一部は、俺の理性などどこ吹く風だ。
それどころか、喉の奥から「ぐるる……」という、あの特有の満足げな鳴き声が、人間としての声帯を通じて低く漏れ出した。
「……ふふ。陽太、喉が鳴ってるぞ。やっぱりお前、人間の姿をしてても中身はあの時のままだな」
いつの間にか目を覚ましていた恭介が、俺の首筋に顔を埋めたまま、くぐもった声で笑った。
「……っ! 起きてるなら離せよ! これは、その、神獣の身体が勝手にやってるだけで、俺の意志じゃない!」
「わかってるよ。……でも、嬉しいな。お前がそうやって、無防備に俺の体温を求めてくれるのは。……ほら、耳の付け根がまた赤くなってるぞ」
恭介が身を起こし、いたずらっぽく笑いながら俺の耳の裏を指先でなぞった。
「ひゃ……っ!?」
飛び上がるような衝撃が走り、俺の尻尾がボフッと大きく膨らむ。
敏感な場所を突かれ、俺は思わず恭介の胸元に顔を押し当てる形になってしまった。
「……恭介、お前、わざとだろ」
「まさか。リハビリの一環だよ。……ほら、朝食の準備ができるまで、もう少しだけこうしていよう。……お前、人間の姿になってから、少し寂しそうな顔をすることがあったからな」
恭介の言葉に、俺は反論する言葉を失った。
確かに、言葉が通じるようになり、対等に歩けるようになったことで、どこか「もふもふだった頃の、無条件に守られていた甘さ」が消えてしまうのを恐れていたのかもしれない。
恭介は、俺の背中を大きな手でゆっくりと、あやすように撫で続けた。
それはかつてのブラッシングよりもずっと、俺の心の奥底を穏やかに整えていく。
「……陽太。お前がどんな姿でも、俺がお前を甘やかすのは変わらない。……親友なんだから、当たり前だろ?」
「……親友、ね。……お前の『親友』の定義、だいぶ重い気がするけどな」
俺はそう皮肉りながらも、恭介の肩に深く頭を預けた。
窓の外では、朝の光に照らされた王宮の庭園が、キラキラと輝いている。
特別な進展も、劇的な変化もない。
けれど、こうして二人の体温が溶け合う時間は、昨日よりも少しだけ深く、確かなものとして俺たちの中に積み重なっていった。
俺たちは「親友」という言葉の裏側に隠された、もっと別の何かを、まだ大切に温め続けていた。
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