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25話
朝の柔らかな光が差し込む食堂は、いつも以上に芳醇な香りに満ちていた。
恭介に連れられてテーブルに着くと、そこには「お祝い」という言葉が相応しい、目にも鮮やかな料理が所狭しと並べられている。
黄金色に焼き上がった厚切りトースト、表面に細かな脂が浮き出た自家製ベーコン、そしてこの世界特有の、中から宝石のような果汁が溢れる『虹色ベリー』のコンポート。
それらを前に、俺の鼻先が(いや、もはや鼻そのものだな)無意識にひくついた。
「陽太、見てくれ。料理長が相当張り切ってくれたみたいだ。『神獣様が人の形を得た記念に、最高のご馳走を』とのことだぞ」
恭介が、俺の向かいの席に座りながら嬉しそうに言う。
もふもふの姿だった時は、床に置かれた専用の銀皿から直接食べていたけれど、今はこうして恭介と同じ目線で、同じテーブルを囲んでいる。その事実だけで、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「……ありがたいけどさ。これ、二人で食う量じゃないだろ」
「はは、そう言うな。お前、人間に戻ってから基礎代謝が上がってるはずだ。ほら、まずはこのオムレツを食べてみろ。お前の好きなチーズがたっぷり入っているぞ」
恭介はそう言って、慣れた手つきで俺の皿に料理を取り分けてくれる。
かつての「飼い主」の癖が抜けないのか、彼は自分の食事よりも、俺がいかに美味しそうに食べるかを確認することに心血を注いでいるようだった。
俺はフォークを手に取り、ふわふわのオムレツを口に運ぶ。
とろりと溶け出す濃厚なチーズと、新鮮な卵の甘み。それは、味覚が鋭敏な神獣としての本能と、美味しさを噛みしめる人間としての知性が、同時に歓喜するような感覚だった。
「…………美味い。めちゃくちゃ美味い」
「そうか。……良かった」
恭介が、本当に心から安心したような笑みを浮かべる。
彼はそのまま、自分のフォークでベーコンを刺すと、なぜかそれを俺の口元へと運んできた。
「ほら、これも食べてみろ。スモーキーで美味いぞ」
「……おい、恭介。俺、もう手があるんだぞ。自分で食えるって」
「いいじゃないか、リハビリだ。ほら、あーん」
恭介は全く引く様子がない。
その瞳は、まるで幼い弟を慈しむ兄のようでもあり、あるいは……もっと別の、深い熱を帯びているようにも見えた。
俺は周囲に侍女たちがいないことを確認し、恥ずかしさに耳を真っ赤にしながら、そのベーコンをぱくりと受け入れた。
「……んぐ。……お前、こういうの元の世界じゃ絶対しなかっただろ」
「元の世界じゃ、お前は可愛らしい神獣じゃなかったからな。……今は、ついな。お前を喜ばせることが、俺の魔導の研究よりも重要に思えるんだ」
恭介はそう言って、今度は俺の唇に付いたソースを、親指の腹でそっと拭った。
その指先の熱が、唇を通じて全身に広がる。
俺は慌てて視線を逸らし、冷たい果実水を一気に飲み込んだ。
耳がパタパタと小刻みに揺れ、椅子に座っている尻尾が、恭介の足首に無意識に絡みつこうとするのを必死で抑える。
「……陽太、尻尾。隠しきれてないぞ」
「うるさい! これは……その、食いもんが美味すぎるせいだ!」
「ふふ、正直でいい。……お前が満足してくれているなら、俺も幸せだよ」
恭介は、自分の皿にもようやく手を付け始めた。
何気ない朝食の風景。
けれど、こうして一つのテーブルを共有し、お互いの好物を語り合いながら笑う時間は、どんな高位の魔法よりも、俺たちの魂を強く結びつけているようだった。
展開はどこまでも、ゆっくりと。
ただの「親友」から、言葉を交わさずとも通じ合う「特別な存在」へ。
俺たちは、朝食の湯気が立ち上る穏やかな空気の中で、新しい日々の喜びを一歩ずつ噛みしめていた。
「……陽太。食後のデザート、まだあるけど……いけるか?」
「……食えるに決まってんだろ。持ってこいよ」
俺の返事に、恭介が再び満面の笑みを浮かべた。
異世界の朝は、まだ始まったばかりだった。
恭介に連れられてテーブルに着くと、そこには「お祝い」という言葉が相応しい、目にも鮮やかな料理が所狭しと並べられている。
黄金色に焼き上がった厚切りトースト、表面に細かな脂が浮き出た自家製ベーコン、そしてこの世界特有の、中から宝石のような果汁が溢れる『虹色ベリー』のコンポート。
それらを前に、俺の鼻先が(いや、もはや鼻そのものだな)無意識にひくついた。
「陽太、見てくれ。料理長が相当張り切ってくれたみたいだ。『神獣様が人の形を得た記念に、最高のご馳走を』とのことだぞ」
恭介が、俺の向かいの席に座りながら嬉しそうに言う。
もふもふの姿だった時は、床に置かれた専用の銀皿から直接食べていたけれど、今はこうして恭介と同じ目線で、同じテーブルを囲んでいる。その事実だけで、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「……ありがたいけどさ。これ、二人で食う量じゃないだろ」
「はは、そう言うな。お前、人間に戻ってから基礎代謝が上がってるはずだ。ほら、まずはこのオムレツを食べてみろ。お前の好きなチーズがたっぷり入っているぞ」
恭介はそう言って、慣れた手つきで俺の皿に料理を取り分けてくれる。
かつての「飼い主」の癖が抜けないのか、彼は自分の食事よりも、俺がいかに美味しそうに食べるかを確認することに心血を注いでいるようだった。
俺はフォークを手に取り、ふわふわのオムレツを口に運ぶ。
とろりと溶け出す濃厚なチーズと、新鮮な卵の甘み。それは、味覚が鋭敏な神獣としての本能と、美味しさを噛みしめる人間としての知性が、同時に歓喜するような感覚だった。
「…………美味い。めちゃくちゃ美味い」
「そうか。……良かった」
恭介が、本当に心から安心したような笑みを浮かべる。
彼はそのまま、自分のフォークでベーコンを刺すと、なぜかそれを俺の口元へと運んできた。
「ほら、これも食べてみろ。スモーキーで美味いぞ」
「……おい、恭介。俺、もう手があるんだぞ。自分で食えるって」
「いいじゃないか、リハビリだ。ほら、あーん」
恭介は全く引く様子がない。
その瞳は、まるで幼い弟を慈しむ兄のようでもあり、あるいは……もっと別の、深い熱を帯びているようにも見えた。
俺は周囲に侍女たちがいないことを確認し、恥ずかしさに耳を真っ赤にしながら、そのベーコンをぱくりと受け入れた。
「……んぐ。……お前、こういうの元の世界じゃ絶対しなかっただろ」
「元の世界じゃ、お前は可愛らしい神獣じゃなかったからな。……今は、ついな。お前を喜ばせることが、俺の魔導の研究よりも重要に思えるんだ」
恭介はそう言って、今度は俺の唇に付いたソースを、親指の腹でそっと拭った。
その指先の熱が、唇を通じて全身に広がる。
俺は慌てて視線を逸らし、冷たい果実水を一気に飲み込んだ。
耳がパタパタと小刻みに揺れ、椅子に座っている尻尾が、恭介の足首に無意識に絡みつこうとするのを必死で抑える。
「……陽太、尻尾。隠しきれてないぞ」
「うるさい! これは……その、食いもんが美味すぎるせいだ!」
「ふふ、正直でいい。……お前が満足してくれているなら、俺も幸せだよ」
恭介は、自分の皿にもようやく手を付け始めた。
何気ない朝食の風景。
けれど、こうして一つのテーブルを共有し、お互いの好物を語り合いながら笑う時間は、どんな高位の魔法よりも、俺たちの魂を強く結びつけているようだった。
展開はどこまでも、ゆっくりと。
ただの「親友」から、言葉を交わさずとも通じ合う「特別な存在」へ。
俺たちは、朝食の湯気が立ち上る穏やかな空気の中で、新しい日々の喜びを一歩ずつ噛みしめていた。
「……陽太。食後のデザート、まだあるけど……いけるか?」
「……食えるに決まってんだろ。持ってこいよ」
俺の返事に、恭介が再び満面の笑みを浮かべた。
異世界の朝は、まだ始まったばかりだった。
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