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26話
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豪勢な朝食ですっかり満たされた俺たちは、午後の強い日差しを避けるように、王宮の北側に位置する巨大な図書室へと足を運んだ。
天井まで届く本棚には、この世界の歴史を刻んだ古い皮装丁の書物がぎっしりと並び、独特の紙とインクの匂いが漂っている。かつて、もふもふの姿で恭介の腕に抱かれ、ここへ来た時のことを思い出す。あの時は見上げるばかりだった本棚も、今の視点なら、背伸びをすれば一番上の段まで手が届きそうだ。
「……陽太、このあたりの棚だ。神獣と人間が、どうやってこの世界を形作ってきたのか……。お前の身体に起きた変化を解明するヒントがあるかもしれない」
恭介が、梯子を登って数冊の厚い魔導書を取り出した。
俺たちは窓際の、使い込まれた大きな革張りのソファに並んで座る。
「……難しい字ばっかりだな。恭介、お前よくこんなの読めるよな」
「召喚術師の基本だよ。……それより陽太、ほら。ここに描かれている神獣の挿絵……どことなくお前の元の姿に似ていないか?」
恭介がページを広げて見せてくれる。
俺は「どれどれ」と身を乗り出した。恭介との距離が、自然とゼロになる。
彼の肩と俺の肩がぴったりとくっつき、開かれた本の重みを二人で分かち合うような形だ。
もふもふの時は、恭介の膝の上にすっぽりと収まっていた。けれど今は、こうして同じ体格に近い男同士として、お互いの体温をダイレクトに感じ合っている。
「……本当だ。この尻尾の丸まり方とか、俺の時とそっくりだな」
「ああ。……でも、今の姿の方が、俺は好きだよ。こうして、お前と対等に言葉を交わしながら、同じものを見られるから」
恭介が、本を支えていない方の手で、俺の左手首をそっと覆った。
そこには昨日、城下町で買ったお揃いのブレスレットが巻かれている。
恭介の指先が、藍色の革をなぞり、それから俺の掌の中へと滑り込んできた。
(……おいおい、調べものに集中しろよ)
俺は心の中で毒づいたが、振り払うほど嫌でもない。
むしろ、図書室を包む静寂と、窓から差し込む暖かな陽光、そして酒精が抜けた後の心地よい倦怠感が混ざり合い、強烈な眠気が襲ってきた。
パタ……。
俺の頭上の白い耳が、眠気に抗えずゆっくりと垂れる。
恭介の読む魔導書の解説が、心地よい子守唄のように遠くで響いていた。
「……陽太、眠いのか?」
「……うるさい。……ちょっとだけ、目が疲れただけだ……」
俺はそう言い訳をしながら、吸い寄せられるように恭介の肩に頭を預けた。
人間の髪は、神獣の毛並みほどではないけれど、恭介の服越しに伝わる体温が驚くほど安心させてくれる。
恭介もまた、本を読む手を止め、空いた腕で俺の肩を抱き寄せた。
「……おやすみ、陽太。……リハビリの後の昼寝は、身体にいいからな」
恭介の優しい声に包まれ、俺の意識はゆっくりと深い眠りの底へと沈んでいった。
夢の中で俺は、元の世界のアパートで、恭介と並んでゲームをしながら寝落ちしていた。
あの時と何も変わらない、けれど、この異世界でしか手に入らない、特別な安らぎ。
どれくらい時間が経っただろうか。
不意に顔に当たる陽の光が弱まったのを感じて、俺は薄目を開けた。
そこには、俺と同じようにソファの背もたれに首を預け、穏やかな寝息を立てている恭介の顔があった。
彼は眠りの中でも、俺の手をしっかりと握りしめている。
その力加減は、決して俺を縛るものではなく、ただ「ここにいるよ」と確認し合っているような、温かい重みだった。
「…………馬鹿だな、本当」
俺は小さく呟き、誰にも見られないように、恭介の胸元に顔を埋め直した。
尻尾が、満足げにパタパタと恭介の腿の上を叩く。
展開はどこまでも、ゆっくりと。
図書室の埃が光の中で踊る、静かな昼下がり。
俺たちは、新しい世界の歴史を調べることも忘れ、ただお互いの存在という「答え」を、そのぬくもりの中に感じ続けていた。
特別な事件も、大いなる危機も、今はまだ遠い場所の話。
ただ、この心地よい沈黙だけが、今の俺たちの真実だった。
天井まで届く本棚には、この世界の歴史を刻んだ古い皮装丁の書物がぎっしりと並び、独特の紙とインクの匂いが漂っている。かつて、もふもふの姿で恭介の腕に抱かれ、ここへ来た時のことを思い出す。あの時は見上げるばかりだった本棚も、今の視点なら、背伸びをすれば一番上の段まで手が届きそうだ。
「……陽太、このあたりの棚だ。神獣と人間が、どうやってこの世界を形作ってきたのか……。お前の身体に起きた変化を解明するヒントがあるかもしれない」
恭介が、梯子を登って数冊の厚い魔導書を取り出した。
俺たちは窓際の、使い込まれた大きな革張りのソファに並んで座る。
「……難しい字ばっかりだな。恭介、お前よくこんなの読めるよな」
「召喚術師の基本だよ。……それより陽太、ほら。ここに描かれている神獣の挿絵……どことなくお前の元の姿に似ていないか?」
恭介がページを広げて見せてくれる。
俺は「どれどれ」と身を乗り出した。恭介との距離が、自然とゼロになる。
彼の肩と俺の肩がぴったりとくっつき、開かれた本の重みを二人で分かち合うような形だ。
もふもふの時は、恭介の膝の上にすっぽりと収まっていた。けれど今は、こうして同じ体格に近い男同士として、お互いの体温をダイレクトに感じ合っている。
「……本当だ。この尻尾の丸まり方とか、俺の時とそっくりだな」
「ああ。……でも、今の姿の方が、俺は好きだよ。こうして、お前と対等に言葉を交わしながら、同じものを見られるから」
恭介が、本を支えていない方の手で、俺の左手首をそっと覆った。
そこには昨日、城下町で買ったお揃いのブレスレットが巻かれている。
恭介の指先が、藍色の革をなぞり、それから俺の掌の中へと滑り込んできた。
(……おいおい、調べものに集中しろよ)
俺は心の中で毒づいたが、振り払うほど嫌でもない。
むしろ、図書室を包む静寂と、窓から差し込む暖かな陽光、そして酒精が抜けた後の心地よい倦怠感が混ざり合い、強烈な眠気が襲ってきた。
パタ……。
俺の頭上の白い耳が、眠気に抗えずゆっくりと垂れる。
恭介の読む魔導書の解説が、心地よい子守唄のように遠くで響いていた。
「……陽太、眠いのか?」
「……うるさい。……ちょっとだけ、目が疲れただけだ……」
俺はそう言い訳をしながら、吸い寄せられるように恭介の肩に頭を預けた。
人間の髪は、神獣の毛並みほどではないけれど、恭介の服越しに伝わる体温が驚くほど安心させてくれる。
恭介もまた、本を読む手を止め、空いた腕で俺の肩を抱き寄せた。
「……おやすみ、陽太。……リハビリの後の昼寝は、身体にいいからな」
恭介の優しい声に包まれ、俺の意識はゆっくりと深い眠りの底へと沈んでいった。
夢の中で俺は、元の世界のアパートで、恭介と並んでゲームをしながら寝落ちしていた。
あの時と何も変わらない、けれど、この異世界でしか手に入らない、特別な安らぎ。
どれくらい時間が経っただろうか。
不意に顔に当たる陽の光が弱まったのを感じて、俺は薄目を開けた。
そこには、俺と同じようにソファの背もたれに首を預け、穏やかな寝息を立てている恭介の顔があった。
彼は眠りの中でも、俺の手をしっかりと握りしめている。
その力加減は、決して俺を縛るものではなく、ただ「ここにいるよ」と確認し合っているような、温かい重みだった。
「…………馬鹿だな、本当」
俺は小さく呟き、誰にも見られないように、恭介の胸元に顔を埋め直した。
尻尾が、満足げにパタパタと恭介の腿の上を叩く。
展開はどこまでも、ゆっくりと。
図書室の埃が光の中で踊る、静かな昼下がり。
俺たちは、新しい世界の歴史を調べることも忘れ、ただお互いの存在という「答え」を、そのぬくもりの中に感じ続けていた。
特別な事件も、大いなる危機も、今はまだ遠い場所の話。
ただ、この心地よい沈黙だけが、今の俺たちの真実だった。
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