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7話
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「レン様ぁ! 本日はわたくし、レン様のために至高のランチをご用意いたしましたわ!」
翌昼。魔王城の食堂に、リリスの甲高い声が響き渡った。
テーブルの上には、これでもかとばかりに贅を尽くした料理が並んでいる。
金粉が振りかけられたステーキ、真珠のように輝くスープ、そして、魔界でも希少な「虹色クジャク」のテリーヌ。
「おっ、すげー! 豪華だな! これ、全部リリスが作ったのか?」
レンが黄金の瞳を輝かせ、椅子に座ろうとした。
その瞬間、俺――カナデは、音もなくレンの背後に立ち、その襟首をガシッと掴んだ。
「待て、レン。座るな。……リリス様、一つ伺いたい。この食材、どこから調達されましたか?」
「あら、眼鏡。……見てわからないのかしら? 最高級の食材を、わたくしの実家から取り寄せましたのよ。レン様への愛に、コストなど関係ありませんわ!」
リリスが扇子を広げて高笑いする。
だが、俺は懐から「城内物流管理表」を取り出し、冷たく言い放った。
「残念ながら、大ありです。……リリス様、当城の関税法第12条によれば、外部からの私的な高級食材の持ち込みには、その評価額の50%の『贅沢税』が課せられます。この金粉ステーキ一枚につき、五万ゴールド。さらに……」
「……っ!? な、なんですって!?」
「さらに、この虹色クジャク。これは魔界保護鳥類に指定されています。密輸の疑いがあるため、これより没収し、市場価格に基づいた罰金を徴収させていただきます」
俺が淡々と事務処理を進めると、リリスの顔が青ざめていく。
横では、レンが「えーっ! 俺のメシ没収なの? カナデ、一口くらい……」と物欲しげにこちらを見ている。
「ダメだ。……その代わり、レン。お前にはこれをやる」
俺はレンの前に、コトッと質素な茶碗を置いた。
中身は、昨日市場で見つけてきた安価な「魔界米」を、俺の【生活魔法】でふっくら炊き上げたものと、あまり物の野菜で作った漬物だ。
「……え、これだけ? リリスの金粉ステーキの方が、なんか強くなれそうなんだけど……」
「不満か? なら食わなくていい。これは、お前が先月無駄遣いした武器の修理代を補填するための、特別節約メニューだ」
「……う。それを言われると……」
レンは肩を落とし、渋々といった様子で箸を取った。
リリスはそれを見て、「勝ったわ!」と言わんばかりに鼻を鳴らす。
「おーっほっほ! やはりレン様には、わたくしの豪華な料理こそが相応しいのですわ! さあレン様、その貧乏臭い飯など捨てて、こちらを……」
だが、その言葉は最後まで続かなかった。
白米を一口口にしたレンの動きが、ピタリと止まったからだ。
「…………。……っ!? う、うめぇえええええ!!」
レンが、昨日以上の爆音で叫んだ。
「なにこれ、ただの米だよな!? なんで噛めば噛むほど甘いんだよ! この漬物も、ポリポリ止まんねー! カナデ、お前……天才かよ!」
レンはリリスの豪華料理には目もくれず、一心不乱に白米を掻き込み始めた。
【生活魔法】による精密な温度管理と、デンプンの分解促進。それはどんな高級食材よりも、レンという男の「本能」に訴えかける。
「な、なぜ!? わたくしの金粉が、そのただの白い粒に負けるなんて……!」
「……リリス様。料理に必要なのは、金粉ではなく『計算』です。相手が今何を欲し、どの程度のカロリーを必要としているか。……レンの筋肉量と基礎代謝を考えれば、必要なのは見栄えの良い金ではなく、良質な炭水化物です」
俺は眼鏡を押し上げ、誇らしげに(無自覚だが)告げた。
レンは「おかわり!」と言いながら、俺の服の裾をグイグイと引っ張ってくる。
「カナデぇ、あと三杯いける! 俺、お前の飯があれば、もう一生金粉なんていらねーわ!」
「……三杯は食べ過ぎだ。一万ゴールド減給」
「なんでだよ! お前の飯が美味いのが悪いんだろ!?」
結局、リリスは「信じられませんわー!」と叫びながら退散していった。
静かになった食堂で、俺はガツガツと食べるレンの姿を眺める。
リリスが現れてから、俺の仕事は明らかに増えた。
だが、レンが「リリスの豪華料理」ではなく、俺の「安上がりの飯」を選んだことに、胸の奥のモヤモヤが少しだけ晴れたような気がした。
「……なぁ、カナデ。お前、さっきの漬物、俺の好みに合わせてちょっと辛めにしただろ?」
「……。さっさと食え。冷めるぞ」
「へへ、サンキューな。やっぱり、俺のことを一番わかってるのはお前だよ」
レンが顔を上げ、米粒をつけたままニカッと笑った。
その直球すぎる信頼に、俺はまた、正解のない計算式を解かされているような気分になる。
「……。……口に、米がついてる。取れ、このバカ魔王」
「えー、取ってよ」
「……。……マイナス二千ゴールド」
「即答!? 取ってくれるだけでいいのに!」
二人の距離は、まだ「親友」の枠組みの中に収まっている。
だが、その枠組みを壊すのは、きっとレンの爆発的な魔力ではなく、俺の些細な独占欲なのだと……俺はまだ、認めるわけにはいかなかった。
翌昼。魔王城の食堂に、リリスの甲高い声が響き渡った。
テーブルの上には、これでもかとばかりに贅を尽くした料理が並んでいる。
金粉が振りかけられたステーキ、真珠のように輝くスープ、そして、魔界でも希少な「虹色クジャク」のテリーヌ。
「おっ、すげー! 豪華だな! これ、全部リリスが作ったのか?」
レンが黄金の瞳を輝かせ、椅子に座ろうとした。
その瞬間、俺――カナデは、音もなくレンの背後に立ち、その襟首をガシッと掴んだ。
「待て、レン。座るな。……リリス様、一つ伺いたい。この食材、どこから調達されましたか?」
「あら、眼鏡。……見てわからないのかしら? 最高級の食材を、わたくしの実家から取り寄せましたのよ。レン様への愛に、コストなど関係ありませんわ!」
リリスが扇子を広げて高笑いする。
だが、俺は懐から「城内物流管理表」を取り出し、冷たく言い放った。
「残念ながら、大ありです。……リリス様、当城の関税法第12条によれば、外部からの私的な高級食材の持ち込みには、その評価額の50%の『贅沢税』が課せられます。この金粉ステーキ一枚につき、五万ゴールド。さらに……」
「……っ!? な、なんですって!?」
「さらに、この虹色クジャク。これは魔界保護鳥類に指定されています。密輸の疑いがあるため、これより没収し、市場価格に基づいた罰金を徴収させていただきます」
俺が淡々と事務処理を進めると、リリスの顔が青ざめていく。
横では、レンが「えーっ! 俺のメシ没収なの? カナデ、一口くらい……」と物欲しげにこちらを見ている。
「ダメだ。……その代わり、レン。お前にはこれをやる」
俺はレンの前に、コトッと質素な茶碗を置いた。
中身は、昨日市場で見つけてきた安価な「魔界米」を、俺の【生活魔法】でふっくら炊き上げたものと、あまり物の野菜で作った漬物だ。
「……え、これだけ? リリスの金粉ステーキの方が、なんか強くなれそうなんだけど……」
「不満か? なら食わなくていい。これは、お前が先月無駄遣いした武器の修理代を補填するための、特別節約メニューだ」
「……う。それを言われると……」
レンは肩を落とし、渋々といった様子で箸を取った。
リリスはそれを見て、「勝ったわ!」と言わんばかりに鼻を鳴らす。
「おーっほっほ! やはりレン様には、わたくしの豪華な料理こそが相応しいのですわ! さあレン様、その貧乏臭い飯など捨てて、こちらを……」
だが、その言葉は最後まで続かなかった。
白米を一口口にしたレンの動きが、ピタリと止まったからだ。
「…………。……っ!? う、うめぇえええええ!!」
レンが、昨日以上の爆音で叫んだ。
「なにこれ、ただの米だよな!? なんで噛めば噛むほど甘いんだよ! この漬物も、ポリポリ止まんねー! カナデ、お前……天才かよ!」
レンはリリスの豪華料理には目もくれず、一心不乱に白米を掻き込み始めた。
【生活魔法】による精密な温度管理と、デンプンの分解促進。それはどんな高級食材よりも、レンという男の「本能」に訴えかける。
「な、なぜ!? わたくしの金粉が、そのただの白い粒に負けるなんて……!」
「……リリス様。料理に必要なのは、金粉ではなく『計算』です。相手が今何を欲し、どの程度のカロリーを必要としているか。……レンの筋肉量と基礎代謝を考えれば、必要なのは見栄えの良い金ではなく、良質な炭水化物です」
俺は眼鏡を押し上げ、誇らしげに(無自覚だが)告げた。
レンは「おかわり!」と言いながら、俺の服の裾をグイグイと引っ張ってくる。
「カナデぇ、あと三杯いける! 俺、お前の飯があれば、もう一生金粉なんていらねーわ!」
「……三杯は食べ過ぎだ。一万ゴールド減給」
「なんでだよ! お前の飯が美味いのが悪いんだろ!?」
結局、リリスは「信じられませんわー!」と叫びながら退散していった。
静かになった食堂で、俺はガツガツと食べるレンの姿を眺める。
リリスが現れてから、俺の仕事は明らかに増えた。
だが、レンが「リリスの豪華料理」ではなく、俺の「安上がりの飯」を選んだことに、胸の奥のモヤモヤが少しだけ晴れたような気がした。
「……なぁ、カナデ。お前、さっきの漬物、俺の好みに合わせてちょっと辛めにしただろ?」
「……。さっさと食え。冷めるぞ」
「へへ、サンキューな。やっぱり、俺のことを一番わかってるのはお前だよ」
レンが顔を上げ、米粒をつけたままニカッと笑った。
その直球すぎる信頼に、俺はまた、正解のない計算式を解かされているような気分になる。
「……。……口に、米がついてる。取れ、このバカ魔王」
「えー、取ってよ」
「……。……マイナス二千ゴールド」
「即答!? 取ってくれるだけでいいのに!」
二人の距離は、まだ「親友」の枠組みの中に収まっている。
だが、その枠組みを壊すのは、きっとレンの爆発的な魔力ではなく、俺の些細な独占欲なのだと……俺はまだ、認めるわけにはいかなかった。
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