魔王になった親友が未払いの残業代を「愛」で払おうとしてくるんだが。~有能経理の俺、異世界ブラック魔王城をホワイトに叩き直す〜

たら昆布

文字の大きさ
9 / 32

9話

しおりを挟む
 魔王城から馬車(を引く巨大なトカゲ)に揺られること数時間。
 俺とレンは、魔王領の外れにある「黒鉄の採掘場」に到着していた。

 そこでは、数百体のオーガやゴブリンたちが、ツルハシを放り投げて地面に座り込んでいた。
 彼らが掲げている看板には、おどろおどろしい文字でこう書かれている。
『労働環境の改善を!』『我らにも潤いを!』

「……レン、見たか。これが放置されたブラック現場の末路だ」

 俺、カナデは、馬車から降りるなり帳簿を広げた。
 一方、レンは「おー、みんな休んでるな! 混ぜてくれよ!」と、あろうことかストライキ中のゴブリンの隣に座ろうとしている。

「混ざるな、魔王! お前は雇用主側だろ! ……さて、代表者は誰だ」

 俺が声をかけると、群れの中から一際大きな、だがどこか気弱そうなオーガがのっそりと現れた。

『……魔王様、そして経理部長殿。我らはもう限界です。毎日毎日、硬い岩を掘るばかり。楽しみといえば、週に一度の「魔界泥水の配給」だけ……。これでは士気が上がりません!』

「なるほど。報酬への不満か。……レン、お前、前代の時からこの現場に何か差し入れしたことは?」

「え? うーん……『お前ら、筋肉最高だぜ!』って、念波を送ったことはあるけど」

「そんなもん、電波障害と変わらないだろ。……よし、わかった。代表、君たちの要求を具体的に言え。賃金のベースアップか? それとも有給休暇の付与か?」

 俺がペンを構えると、オーガは顔を見合わせ、もじもじと指を絡ませながら言った。

『……その、休憩時間に……「可愛いもの」を愛でる時間が欲しいのです』

「……は?」

『最近、隣の村のサイクロプスが、スライムをペットにして可愛がっていると聞きまして……。我らも、ゴツゴツした岩ばかりではなく、もふもふした何かを触りたい! 癒やされたいのです!』

 周囲の魔物たちが「そうだそうだ!」と拳を突き上げる。
 ……要求内容が、女子高生並みに可愛すぎてツッコミが追いつかない。

「カナデ! いいじゃん、もふもふ! 俺も欲しいわ、もふもふ! お前、なんか魔法で出せないの?」

「俺の【生活魔法】はクリーニングや調理用だ、生物は出せない。……だが、そうか。癒やしか」

 俺は少し考え、予備の魔石と、現場に転がっていた「魔界羊の毛のクズ」をいくつか集めた。
 これに【生活魔法:柔軟・定着】をかけ、魔力で少しだけ動くように調整する。

「……即席だが、これでどうだ。名付けて『自律型もふもふクッション・魔王軍モデル』だ」

 俺の手の上で、毛玉のような何かがピコピコと動く。
 それを見た魔物たちの目が、一斉に輝いた。

『おおお……! これだ! これを求めていたんだ……!』

 魔物たちが毛玉に群がり、幸せそうに頬ずりを始める。ストライキは一瞬で解除された。
 ……チョロい。チョロすぎるぞ、魔界の労働者。

「すげーなカナデ! お前、経理だけじゃなくて発明家にもなれるだろ!」

 レンが興奮して、俺の肩を抱き寄せた。
 興奮のあまり力が入りすぎて、俺の体はレンの胸板にガツンとぶつかる。

「……っ。痛い。……あと、離せ。暑苦しい」

「いいじゃん、減るもんじゃないし! なぁ、俺にも作ってくれよ、そのもふもふ。俺専用のやつ!」

 レンが俺の顔を覗き込み、尻尾(ないはずだが)を振らんばかりの勢いで強請ってくる。
 俺はため息をつき、余った毛クズをレンの掌に乗せた。

「……ほら。お前のは特別に、お前の魔力で動くように設定してやる」

「おっ、マジで!? ……あ、動いた! これ、なんかお前の匂いがするな、カナデ」

「……!? するわけないだろ。俺の魔力が混ざってるだけだ」

 俺は慌てて視線を逸らした。
 「お前の匂い」なんて、無防備な顔で言うな。
 現場の魔物たちが『……なんか、あの二人だけ空気がピンク色じゃないか?』『俺たちのもふもふより、あっちの方が当てられそうだぜ』とヒソヒソ話しているのが聞こえてくる。

「カナデ、これ大事にするわ! 寝る時もずっと抱っこしとく!」

「勝手にしろ。……ほら、仕事に戻るぞ。採掘量が戻れば、黒字化へのスピードが上がる」

「おう! ……あ、カナデ。お前、さっきのオーガに『もふもふより俺の方がいい』とか思わなかった?」

「……。……マイナス十万ゴールド。即座に死ね」

「なんでだよ! 俺はそう思ったんだよ!」

 レンの天然すぎる爆弾発言に、俺は算盤を投げつけたい衝動を必死に抑えた。
 
 魔物たちに「癒やし」を提供したはずが、俺の胃痛は増すばかりだ。
 こいつの無自覚な好意を「経費」として処理できる日は、果たして来るのだろうか。

「……全く。計算外の行動しかしない王だ」

 俺は足早に馬車へと戻った。
 背後でレンが「待てよカナデぇー! 俺のもふもふ、名前『カナデ二号』にしていいか!?」と叫んでいたが、全力でシカトした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜

キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。 モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。 このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。 「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」 恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。 甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。 全8話。

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 2025.4.28 ムーンライトノベルに投稿しました。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!

木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。 この話は小説家になろうにも投稿しています。

一日だけの魔法

うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。 彼が自分を好きになってくれる魔法。 禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。 彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。 俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。 嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに…… ※いきなり始まりいきなり終わる ※エセファンタジー ※エセ魔法 ※二重人格もどき ※細かいツッコミはなしで

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

処理中です...